第3章 アリエッタの覚醒5
僕はアリエッタに話をして、部屋に戻った。
「ユリシーズ、アリエッタは、プレップスクールで何かあったのだろうな?」
「おそらく、周りの御令嬢の虐めにあっておられるかと。」
「ふぅ〜っ、子供の世界なのに。醜い女子がいるのか。片思いの者が、両思いの2人から、片方を奪って何になる。」
「手に入らないなら、壊してしまえ、と言う事でしょう。」
「腐っているぞ。10歳になるかならないかで、人を蹴落とすなど、人として間違えているぞ。まるで悪魔ではないかっ! 悪魔?あくまか?悪魔なら、魔王が相手をしてやれば良いのだな。」
「殿下、お顔が、魔王ですよ。」
「いいのだ。父上にも、魔王の子は魔王だと言われた。ユリシーズ、僕が間違えたら、質してくれるか。」
「もちろんです。ただし、魔王の臣下もまた、黒い騎士団かもしれませんよ。」
「ふふっ、、それは良いことを聞いた。」
僕とユリシーズは、黒い笑みを浮かべてしまった。
「ユリシーズ、明日からの予定を確認したい。本気で時間が足りなくなってきた。」
「たしかに、1週間後は、騎士団入団式です。
明日がアリエッタ様の王妃面談。
アリエッタ様の面談時、殿下は陛下の私室へ。
明後日が、アリエッタ様のお誕生日。
当日を含め、3日間は、フリーです。
久しぶりにアリエッタ様と海に行かれますか。」
「そうだな、兄上のパーティの時のダンスも、
アリエッタと練習する暇もなかったから、
それも必要だな。」
「その翌日が、
王太子任命と、祝賀の儀とお昼のパーティ。
ここで、三王子のお妃内定も発表されます。
翌日は、フリーですが、
その翌日は、騎士団入団式です。ラングドン殿下とパトリック殿下は、王立アカデミー入学式です。」
「父上と話をしたのは、つい最近の事だったように思うが、とうとう来てしまった。
あと、アリエッタの護衛を増やす件と、例の件は全て準備できているか?」
「護衛の件は、第三騎士団から、4名が出ます。全員、私が直接育てた、副官以上の強者です。
あと、ミカエラード家から4名。ウリエル家から4名出します。ガブリエル家は、邸の護衛に全員です。
例の件は、オランが完璧に準備ができた、と話しておりました。」
「ありがとう、ユリシーズ。
それから、騎士団入団後は、ユリシーズの事は団長殿、と、呼ぶので合っているか?」
「ばっちりですよ。厳しい場所ですが、野郎ばかりです。最初は牽制し合ってても、数ヶ月で、みんな仲間です。あまり気を使いすぎずに。」
「申し訳ない。世話をかけてばかりだ。」
「お気になさらず。殿下は、良くやっておられますから。自信を持って、堂々としていてください。」
そろそろ寝ようかと思った時だった。
「いやぁ〜〜〜〜っ!ヴァシリスさまが、ヴァシリスさまっ」隣の部屋からアリエッタの叫び声が聞こえた。
僕とユリシーズは、迷わず、扉を開けて、アリエッタの部屋に飛び込んだ。
オランがアリエッタを抱き止めているが、アリエッタが、ものすごく暴れている。
「何があった」
「姫さまは、すでにお休みなさっていたのですが、急にうなされて、、」
オランの腕のなかで、まだ、もがいている。
「アリエッタ、アリエッタ、僕だ。どうした、目を覚ませ。」
アリエッタの肩を揺さぶると、アリエッタが僕を凝視して、しがみついてきた。
「ヴァシリス様、ヴァシリス様が、刺されて、ヴァシリス様、痛くないですか?」と私の背中を触って傷を探している。
ご神託を見たんだ。
僕はユリシーズとオランを見た。ユリシーズが、頷いて、すぐに部屋を出て行った。父上とセレステに知らせてくれる。
このタイミングか。
「ヴァシリスさま、ヴァシリスさま。死なないでください、お願い、お願いです。私を置いて逝かないで。」
僕はアリエッタを抱き止めて、背中をポン、ポン、と優しくたたきながら、
「アリエッタ、何を見た?僕は、まだ、今は、生きている。怪我もしていないから、安心して。何を見た?」
「ヴァシリス様が刺されました。白い服に血が、血が、、」
「どこで、いつ、誰に?」
「ダンスを踊っていて、ドレスの人もたくさん、たくさんシャンデリアがあって、、」
王宮の大広間だ。4日後の祝賀会か。
僕達王子は、3人とも、真っ白の正装の予定だ。
「アリエッタ、それで、どんな人が刺した?」
アリエッタの嗚咽が止まらない。また背中をポン、ポンと撫でる。
「黄色のドレス、、」
「名前は?」
「イライザ、、嫌い」
「髪のいろは?」
「赤くて巻き毛、、」
「あとは、何が見えた?」
「わたしは、馬車に投げられて、」
「アリエッタ、助けに行くから、どこで捕まったか、わかるか?」
「うん、お庭、白い薔薇が咲いてるとこ」
母上の白い薔薇か、大広間から庭園に降りて、わかった、あそこだ。
「ヴァシリスさま、真っ暗でこわい。」
ご神託は終わったようだ。
「大丈夫だ、ずっと一緒にいるよ。ほら手もつないでる。」
「離さないでっ、お願いっ。」
「死ぬまで離すもんか。アリエッタは僕の妻になるんだから。」
「うん、うん、うれしい」
「アリエッタ、さっきのイライザは、嫌いか」
刺した人間を特定しなくては。
「うん、イライザは、プレップスクールで、乳兄妹は、召使いになるんだって。だから、私、ヴァシリス様のお嫁さんになれないって、、生まれが卑しいって、うっ、うっ、うっ、、ヴァシリス様のお情けで妾になればいいって、めかけってなに?すぐに捨てられるって、私の髪を引っ張って、出ていけって、、、」
「アリエッタ、大丈夫だから。捨てたりなんかしない。イライザの名前、全部知ってるか?」
「うん、イライザ・パニエール」
何?パニエール大公か。
僕の心に魔王がふつふつと湧き上がってきた。
アリエッタが眠そうだ。寝かせる方がいいのか。
オランを見ると、起こせと言う。
「アリエッタ、アリエッタ、眠いだろうが、起きてくれるか、アリエッタ起きて。」
「あっ、ヴァシリスにいさま、ご無事ですか。
あっ、ちがう、、刺された場所は?」
まだ、僕の背中の傷をさがしている。
「アリエッタ、僕が刺された夢を見ただろう?」
「夢ではありません。だって、ほら、おにいさまの血が、私の手に、、あっ、れ?」
首を横に振って、自分の手をみている。
もちろんご神託を見ただけだから、アリエッタの手に血はついてない。
「おにいっさま」
アリエッタは、僕に抱きついて、ポロポロと泣き始めた。
「おにいさまが、死んでしまうかと、私、夢中で、あっ、それに、私、さらわれて、、ひっ、、」
「大丈夫だ、アリエッタ、夢だから、とにかく落ち着こう、大丈夫だから。」
「姫さま、寝着のままでは、ヴァシリス様の前です。お部屋着に着替えましょう。」
アリエッタは、薄い寝着のままで、僕の腕の中だ。5歳だから許されるが、あと、数年したら許されない。はっとしたように、自分の格好をみて、首から赤く染まっていく。
このまま、離したくないなあ、と思いながら、またオランに引き剥がされる前に、アリエッタを離した。
「おにいさま、はしたない姿を、ごめんなさい。」
「今は、緊急事態であったから、気にするでない。早く部屋着に。私は、部屋に戻るから。」
「嫌です。おにいさま、行かないでください。また怖い夢がっ」
「大丈夫だ。隣の部屋にいるから。」
「嫌です。」
押し問答している間に、オランが、アリエッタの頭から、軽い部屋着を被せて着せてしまった。
「はい、姫さま、これで大丈夫ですよ。」
僕がソファに座ると、
アリエッタは、僕の横にピタリとくっついて、座った。僕の部屋着の袖を握り締めている。
今だけ、、来週には、騎士団に入る、離れ離れになる。
オランも、それをわかっているから、黙っていた。
部屋がノックされた。
扉が開き、父上とミカエラード公爵とセレステが入ってきた。後ろにアラン親衛隊長と、ユリシーズがいる。
父上は部屋着のままで、駆けつけてきたらしい。
「おじさま、お父様、お母様」
アリエッタが、まだ泣き出した。




