第3章 アリエッタの覚醒3
騎士服の仮縫いの翌日、僕はユリシーズとオランから、僕が纏う雰囲気が、年齢が近い若い女性に好かれてしまうようものがあると、コンコンと説明された。
問題は、
僕が好きでもなく、興味もない女性が、僕とアリエッタの間を裂くくらい危険だと言う事だった。
それだけ聞けば、僕は何としてもアリエッタを守らなくてはならない。
8歳の僕には、驚くような話をたくさんされて、最後は気分が悪くなってしまうほどだった。
僕に襲われたと、言いふらし、責任を取り結婚するように仕向ける、とか、
アリエッタに嘘をついて、僕の気持ちが離れていると思わせるとか、
アリエッタに毒をもり、婚約者自体を抹殺して、僕に近づくとか、
僕に睡眠薬をもり、女性と同衾したように見せるとか、、不愉快極まりない話ばかりだった。
でも、ユリシーズとオランは、絶対に嘘はつかないし、本気で危険な事を教えてくれている。
アリエッタを婚約者として決めれば、周りが静かになると思っていたけれど、そうではなかった。
僕はユリシーズに聞いた。
「僕が、女性から見向きもされなくなる方法はないのか。」
「無理です。殿下は、人を惹きつけます。
殿下のせいではなくて、自然に人を惹きこむ魅力があるのです。それは決して悪いことではありませんが、繰り返す歴史が証明しています。
麗しすぎる王子は、どんな事をしても手に入れたい、と狙われる対象です。
ご結婚されても、第二夫人や愛人希望者が出るでしょうし、殿下に群がる女性は、ご寵愛を得ようと、なり振り構わず、突撃してきます。」
「僕はアリエッタしかいらない。」
「わかっております。ですから、事あるごとに、アリエッタ様以外、他の女など、全く目に入らない意志を見せていくしかないですね。
あとは、あまりに悪どい事を仕掛ける貴族があれば、王命で裁くしかないでしょう。
陛下も、証拠が上がれば、裁けるとおっしゃっていましたし、そのおつもりですよ。」
「ユリシーズ、もう一度聞いていいか?僕は破廉恥なのか?」
「そうではありません。
たとえば、殿下が、カッコいいと思う男性は誰ですか?」
「ユリシーズもカッコいいし、父上もだ。父上の目は、人を惹きこんでいく。」
「ありがとうございます。私がもっと若い頃、
オランと婚約した頃は、若い御令嬢に囲まれていて、とても嫌な気分だった記憶があります。」
「オランから見ても、そうだった?」
「はいっ、ふふっ、ユリシーズは、ウリエル公爵家の次男で、近衛騎士団の中でも、素敵な殿方でしたから。どこの御令嬢も、ユリシーズに首ったけでした。」
「御令嬢が群がっている中で、ユリシーズがオランを選んだわけは?」
「オランは、私に群がってこなかったのです。
プレップスクールやアカデミーで、時々、話すのが精一杯でしたが、私は初めて会った時から、
オランの雰囲気が好きで、遠目でも、オランを見ていると、オランもこっちを見ていてくれて。
ある時、アカデミーの最中に、討伐があって、怪我をして、アカデミーをしばらく休んでしまったのです。
御令嬢たちは、見舞いの菓子やら何やら持って、邸に押し寄せてきたけど、オランは、毎日、講義のノートを書いて、従者にウリエルの邸まで届けてさせてくれました。1日も欠かさずに。
オランが邸に押しかけてくることは、ありませんでした。
怪我が治っても、オランとの関係は変わらなかった。オランのノートで、無事にアカデミーを卒業し、成人になった祝賀の社交界の夜会に出席し、陛下の前で、オランに求婚しました。」
「ユリシーズ、それ王道の騎士物語だよね。
いつも僕の事、笑ってるけど、ユリシーズの方が一枚上手だよ。
で、オランはどうして、講義ノートを渡したの?」
「その時の、ユリシーズに一番必要なものを選んだのです。」
「オランは、ユリシーズに求婚されて、迷わなかった?」
「はい、何の迷いもありませんでした。
だって、坊っちゃまも、生まれたての姫さまに恋をしたのでしょう?」
「そうだった。ユリシーズ、オラン、ありがとう。アリエッタを護るために、何をすれば良いか、もう一度、考える。」
ちょっと元気になって、希望が湧いてきた。
その後、父上の書斎に呼ばれて、また、コンコンと言い含められた。
「ヴァシリス、お前、男の色気って、わからないよなあ」
「わかりません。でも、父上が、カッコイイのはわかります。国王だからと言うわけではなくて、惹き込まれるような感じ?ですか?」
「私に似た雰囲気がヴァシリスにもあると言えばわかるだろう?」
「僕が父上の魅力を持っているのですか?」
「そうだ。ラングドンやパトリックより、ヴァシリスが私に一番近いと、我ながら思っている。
女が男に惹かれる理由はたくさんあるが、
男に惹き込まれてしまいたい、自分だけを見てほしい、と言うような感覚なのだろう。
私やユリシーズは、アリエッタがお前の巫女だと知っているし、生涯の伴侶であることも、わかっている。
ただ周りの者は、アリエッタさえ抹殺すれば、ヴァシリスを自分のものにできると、思い込むわけだ。
アリエッタをどう傷つけて、お前から離すとか、アリエッタが通りかかる瞬間に、お前に無理矢理、口づけをするだけでも、アリエッタからすれば、お前が裏切って、口づけをしたように見えてしまう。
私の時は、寝室に入ったら、裸の女が寝台にいたり。あり得ない事が起こるのだ。」
僕は、また吐きそうに、胃が気持ち悪くなってきた。
「でも父上、もしもの仮定ですが、アリエッタを失ったら、僕は2度と誰とも結婚しません。それより僕も死んでしまうと思います。」
「そこだ。その意思表示をどこで、どううまく出すかが大事なのだ。」
「父上が、以前にお話ししてくださいましたが、セレステが拐われた時、アクトク家を断絶したと、聞きました。あの時も、理解したつもりでしたが、今は、もっとわかります。」
「ヴァシリス、、私が結婚する前に、アンジェラが襲われそうになった事もあったのだ。」
「母上が?」
「そうだ。アンジェラの馬車が襲撃にあってな、アンジェラの目の前で、側近が何人も殺されている。
あの時は、アランとユリシーズが情報を得て、アンジェラを助けに向かった。
私も何人切ったのか覚えてないくらいの乱戦だった。アンジェラを私の馬に乗せて、逃げようとしたが、追手が多くて、私はアンジェラを抱えて、崖から、渓谷の川に飛び込んだのだ。
岸におよぎついても、まだ追手が減らなかった。
私は、怒り狂って、巫女の剣で、獅子の炎を出し続け、全ての敵を消した。襲撃を企んだのは、娘を側室にしたがっていた、男爵家だった。」
「父上、どれだけ狙われてきたのですか?」
「私が狙われる分には、構わない。私には常に最強の護衛がいるからな。だが、常に側にいるわけではないアンジェラもセレステも、確実に狙われてきた。
だから、アリエッタを護るのが、どれだけ大変な事が、私はわかっている。
8歳のお前には、大変な重荷だが、守り抜くと言うしか方法がないのだ。私は必ず、お前たちを守り抜きたい。」
「父上、僕は強くなりたいです。強く、、」
自分の弱さに腹が立つ。何故、僕はまだ子供なんだ、と思ってしまう。
「ヴァシリス、一つ聞いていいか?」
「はい。」
「もし、万が一だ、アリエッタが、害されたら、お前はどうする?」
「害される?」
「女性のアリエッタが、他の男に害される、と言う事だ。多分、アリエッタは自害を選ぶだろう。」
「僕は、僕は、、、、」
「ヴァシリス、お前の気持ちを聞いておきたい。」
「僕は、アリエッタの傷を癒すために全力を尽くして、共に生きたいです。
でももし、アリエッタの傷を僕が癒せなくて、アリエッタが死を選ぶなら、僕も一緒に逝きます。だから、そうならないように、僕は強くなります。」
「わかった。とにかく罠にはまらないように、注意を怠るな。私も、手を回していくからな。」
「父上、よろしくお願いします。」
アリエッタにご神託がおりるのは、もう少しさきです。
読んでいただき、ありがとうございます。




