第3章 アリエッタの覚醒1
父上の陽の宮から、騎馬で戻って、愛馬のアレックスを戻しに厩舎に行くと、
もう一頭の愛馬が、僕を見て、耳をぴこぴこしてくれた。
「キロン、元気か?なかなか共に走れず、すまない。」
キロンは漆黒の馬だ。瞳と立髪と足首が深い緑で、アリエッタの瞳を思わせる。父上の愛馬の息子だ。
シャチ事件の後、近衛騎士団に入団することが決まった時、僕の8歳の誕生記念に、父上から賜った。
数年前に、父上の馬に同乗したあと、厩舎に遊びに行った時に、仔馬が生まれそうな場面に出くわした。
父上が、この子が生まれるまで、側についてやれるなら、生まれた仔馬を贈ってもよいと、約束してくれた。その夜、僕は藁まみれになって、世話係の手伝いをしながら、厩舎ですごした。生まれた時の可愛かったこと。
キロンの成長を見守りながら、僕はアレックスやキロンの世話をしてきた。だから、キロンは僕の弟みたいに可愛いんだ。
キロンは、近衛騎士団に連れて行く。
アレックスは白馬だから、王子然としているので目立ちすぎる。まだまだ未熟者ゆえ、できるだけ、皆んなの中に埋もれてしまいたい。
東宮の建て替えもあるので、アレックスは父上の厩舎に預かってもらう事になっている。
「アレックスはしばらく、会えないかもしれないけど、ちゃんと会いに行くからな。」
アレックスは、鼻息を僕にかけるのが好きだ。
部屋に戻ると、オランが待っていた。
「今、戻った。」
「おかえりなさいませ。坊っちゃま、騎士服の最終の仮縫いに仕立て屋と針子が来ておりますので、そのままでよろしいですから、サロンまで来てくださいませ。」
「アリエッタと話したいのだが、、」
「姫さまは、いまプレップスクールで、ダンスのレッスン時間です。戻ったら、その後は自由時間ですから、先に仮縫いをお願いいたします。」
「わかった。ダンスの練習か、、」
ちゃんとやれているのか?あいつ、意外にドジだからなあ。
サロンに入ると、騎士団御用達の主人と、針子が数人いた。
「ヴァシリス王子殿下、本日はよろしくお願いいたします。」
「いや、こちらこそ、急がせてしまった。急に決まってな。」
「いえいえ、では、仮縫いの騎士服にお着替えを、寝間着、普段着、練習着、護衛着、正装着とございますので、軽いものから合わせていただきます。」
僕は頷いて、今、着ている服を脱いでいく。下着だけになった。父上は、全て侍女任せだが、兄上も僕も、ある程度、自分でもできるように、王子の間は、普段着の脱ぎ着くらいは、自らしている。オランなら気にならないが、侍女に触られるのも、なんだがこそばゆいのだ。
まして、騎士団に侍女を連れて行くものでもないので、自分でするのが良いだろう。そのあたりは、ユリシーズに育てられているので、あまり困っていない。
ユリシーズが、
「殿下、上の肌シャツもお脱ぎください。騎士服のシャツは、統一されているので、」
「そうなのか。わかった。」
上半身裸になった。
「でっ、殿下、しっ失礼いたします。お手をシャツに、」
お針子が、えらく話しにくそうなので、振り返ってしまった。一瞬、お針子と目が合うと、お針子は顔を真っ赤にしている。
なんだ?僕は何か失敗したのか?慌ててユリシーズの顔をみると、笑いを堪えている。
仕立て屋の主人が、咳払いをして「殿下にお手間をとらせるな、早くお着せしてっ」と針子を急かした。
じっとしていよう。何も言わず動かずに。
寝間着は、着やすくサラサラ感が良く、とても気に入ってしまった。
普段着も騎士っぽくて着やすかった。ユリシーズが時々着ているので、馴染みやすい。
練習着になると、襟が高くなり、ぐっと騎士らしく、騎士みたいだ。騎士みたい?なのではなくて、正真正銘の騎士団だから、騎士見習いだ。
騎士団の訓練場に行くと、みなこれを着ている。どの隊も練習着はこれらしい。
お針子の顔が更に赤くなり、具合が悪そうだ。大丈夫だろうか?
腕や足が動かしやすいように、針が止められていく。
次に護衛着だ。着せられている僕にユリシーズが説明してくれる。
「殿下、これは第三騎士団だけが着用を許される護衛時の騎士服です。
ヴァシリス殿下の護衛騎士は、このコバルトブルーです。ラングドン殿下の第一騎士団は、紺碧、パトリック殿下の第二騎士団は、ダークブラウン、陛下の親衛隊は濃朱色です。」
そうか、僕達の瞳の色に合わせているのか。
ちょい恥ずかしいな。護るぞ〜と鼓舞されているようなものだ。
最後は正装の騎士服だ。
仕立て屋の主人が口を開く。
「殿下、こちらが正装でございます。殿下はまだ未成年でおられるので、夜会服は、成人されてからお仕立ていたします。
他の騎士と違い、王族が召される正装の騎士服は、生地が黒で、金の縁取りの量が多く、金ボタンにシーシェル王家の精密な紋章がはいります。」
「ユリシーズとは違うのか?」
「はい。第三騎士団の正装はコバルトブルーですが、私は騎士団副団長ですので、殿下と同じ黒になり、金の縁取りが細くなり、ボタンが銀になります。騎士団長、親衛隊長も、黒です。」
「そうなのか。」
やっぱり、最終的には、王族とわかってしまうのか。騎士の中に埋もれてしまおうと考えていたけど、父上が早く騎士の称号を得よと言われる意味もわかる。
王子がわざわざ騎士団に入って、ヘナチョコではバツが悪すぎる。そんな事を考えながら、針子に着せられていく。
「殿下、ボ、ボタンを、しっ失礼いたします。」
針子が、襟のボタンを止めようと僕の前にいるが、手が震えている。
僕は、お針子の背が低いなあと思っていたが、僕の背が伸びたんだ、今までは、お針子たちは、僕のために、腰をかがめて採寸してくれていた。
そうか、成長しているのだ。ちょっと嬉しくなり、笑顔になった。
お針子の手が止まっている。顔を見たら、顔から血が吹き出しそうに赤い。
「其方、大丈夫か、具合が悪いのではないか?」
と言った瞬間、目が合い、針子は崩れ落ちた。
ヴァシリス、カッコよくなってきました。
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