第3章 王の巫女の剣
国王の巫女の剣はどんな風に変化するのでしょう。
父上に魔王と言われてしまったが、魔王ほど強くないから苦しいのだ。
シャチ事件は、結果的に、WIN-WINだっだが、ヒーリングパワーを出せなければ、僕はアリエッタを助けられなかった。
僕は、気持ちを父上に吐露してしまった。
「父上、王子に生まれると、ずっと王子としての振る舞いからは、逃がれられないのですね?力不足の王子なんて、、」
父上はギョッとした顔で僕を見た。
「ヴァシリス、かなり参ってないか?確かに、お前だけに、重荷を背負わせているのはわかっている。私がお前の年齢の頃は、家庭教師と剣術の鍛練ぐらいだった。だから、13歳で巫女が現れてからは、一人で抱え込んでな。よく爆発していた。」
「どうやって爆発したのですか?」
父上の後ろの壁から、クスクスっと笑い声が聞こえた気がした。ん?壁?
父上は僕の怪訝な顔を見て、
「セレステ、出ておいで」と壁に向かって言うと、
父上の座っている後ろの書棚が左右に開き、
セレステ様が出てきた。
嘘だろ?隠し部屋の気配が全くなかったぞ。
「エドワード様の爆発は、それはそれは恐ろしい獅子の爆発ですわ。巫女の剣で、獅子の炎を出して、よくぶっ放しておられましたわ。」
「セレステ、言うな。」
「聞きたいです。セレステ。」
「ヴァシリス様の助けになりそうなお話ですからね。」
セレステが片眉を上げて、微笑む。
あれ?セレステもこんな笑い方するんだ。
父上とセレステを見ていると双子みたいだ。
「私がエドワード様の巫女になって、半年くらいの頃、私たち、アカデミーの一年生の時です。
一緒にいる事が多かったので、エドワード様は、先王様から賜った王剣ではなく、巫女の剣を帯刀しておられました。
私はガブリエル侯爵家の娘でしたし、まだミカエラード公爵家とは婚約してなかったのです。
で、当時、アクトク侯爵家の嫡男が、アカデミーの中で、毎日私にしつこく、言い寄ってきていて、、、、」
「続きは私が話そう。辛いだろう?
そのアクトク侯爵の嫡男は、アカデミー五年だから、体格もデカくて、セレステを馬車で拉致し、自分のものになれと、迫ったのだ。」
顔色が変わった僕を父上は制して
「まあ待てヴァシリス。アカデミーの私の使命は、学ぶことより、セレステの護衛だった。
いつも一緒にいたのだが、その日は、アクトク野郎の手下の嘘で、私は研究打ち合わせと言われ、ミカエラード公爵のマースと、共に呼ばれて、セレステから離れてしまった。マースは僕の護衛だったから。」
「セレステの危機をどうやって知ったのですか?」
「巫女は自分のご神託を渡す者を自覚すると、お互いに、通じ合うのだ。
そなたも、アリエッタが巫女を自覚すれば、わかるようになる。わかる、としか説明しずらいのだ。繋がっているような感じだ。
それで、駆けつけたのだが、」
父上が拳をにぎりしめている。思い出しても、
怒り心頭なはずだ。アリエッタが拐われたら、
いや、アリエッタに触れる奴がいたら、僕は消してしまいそうだ。
「マースの力も借りて、暗い森の馬車にかけつけた時は、セレステは拘束され、ドレスに手をかけられていた。私はアクトクを投げ飛ばした。その隙にマースがセレステを確保した。
そして、逆上していた私は巫女の剣を抜いたのだ。」
父上が片眉をあげて、ふふっと笑った。
父上、それ魔王の顔してますよ。
「死ね、アクトク、よくも私の巫女を」
と言った記憶しかないのだが、剣から、炎が上がり、獅子の形になって、その炎の獅子が、
馬車とアクトクに飛びかかったのだ。馬車は燃え尽き跡形なく消え、アクトクがセレステに触れた手は、腕ごと消えてなくなった。森も少し跡形がなくなっていた。」
僕はため息をついた。
「父上、それを《魔王》と言うのですよ。」
セレステが、クスクスと笑う。
「その時、私は恋に落ちたのです。マース様に。
アクトクの手から私を取り戻し、魔王の炎から、私を守って下さったのは、マース・アポロ・ミカエラード公爵ですから。」
「不埒ものを撃退したのは私だ。なのにセレステには、ミカエラード公爵が良かったらしい。
まあ私も、既に王妃のアンジェラと婚約していたから、私の巫女を誰かに託さねばならなかった。僕の護衛であり友人であるマースだったから、心の底から安心できたのだ。」
「それはそうでしょう。魔王の父上より、騎士のマース殿の方が、女性は安心できるはずです。
父上、やり過ぎだと思います。」
「まあ、それで、巫女の剣は、魔王の炎の獅子となったのだ。
私の剣は、無敵の剣になった。それに私はマースの前で、私の巫女と口走っていたので、事情を説明するうちに、マースがセレステを妻に、と望んだのだ。マースは元々、私の護衛騎士を兼ねていたし、ミカエラード公爵家は、代々軍神の家系であったし。セレステを安心して嫁がせたのだ。」
父上は笑っていた。
「ヴァシリスよ、もっと肩の力を抜いていいのだ。お前はクソ真面目で、完璧に物事を成し遂げてしまうから、力を抜けないのではないか。
私が巫女を得たのは、将来が見えてくる頃だったし、側近も決まり始めていたから、動きやすかった。そなたとは状況が違うから、慰めにならないかもしれないが。」
「ヴァシリス様は、エドワード様とは違い、
巫女の存在を知ったのは3歳ですし、当のアリエッタは、まだ自覚がないので、
ヴァシリス様の負担が大きすぎるのです。」
「申し訳ありません。力不足です。」
「謝るな。お前がいなければ、全て机上の空論になるものが、実現し始めているのは事実だ。王国の未来が安泰となるのだから、感謝しているのだ。」
「ヴァシリス様、先日、剣がトライデントになった時、私はご神託を見ました。
アリエッタを傷つけぬ事を最優先して、あなたが剣を胸に突き立てた時、、息が止まるかと思いました。でもアリエッタの母として、どれほどヴァシリス様に感謝したことでしょう。
ヴァシリス様にアリエッタを託した時から、アリエッタの命も人生も、全て託し、私は流れるままを受け入れる事を覚悟しておりました。
どんな結果になっても、巫女には巫女の生き方しかありません。
でも、ヴァシリス様の愛に守られてアリエッタは幸せです。」
「セレステ、ありがとう。僕は間違えていなかったのですね。
でもアリエッタに触れる男がいたら、巫女の剣を使うまでもなく、父上のように消したい、と思っています!」
僕は胸を張った。
父上は、片眉をあげて、ニヤリとしている。
「それはそうと、アクトク家って、どこにあるのですか?聞いた事がないのですが。」
「不敬罪で、断絶にし、史実から消したっ」
「父上、、それを魔王と言うのですよ。やる事がエグい。」
はっはっはっはっ…
「話をもどすが、いまセレステが居た部屋が、巫女部屋だ。ガブリエル家とミカエラード家の隠し部屋から、直接この部屋に通じる通路がある。
王宮の門をくぐらず、巫女の寝室にある隠し部屋から直行だ。」
「まさか」
「だから、お前の離宮の建設に早く取り掛かりたいのだ。海洋研究所の所長室と、離宮の寝室に隠し部屋を作り、地下通路で繋ぐ必要があるのだ。知らぬ者が見れば、密会の部屋にしか見えんだろうが、その部屋を知るものは、巫女の存在を知るものだけで、巫女を隠すにはこれしかなくてな。」
「全く気がつきませんでした。」
「ヴァシリス、なんでも相談してほしい。お前とアリエッタの事は、私とセレステにしか助けてやれない。
もちろん、ミカエラード家もガブリエル家、ウリエル家も、オランやユリシーズ達も、知っていて黙って助けてくれている。
代々の巫女を守る貴族家があるからこそ、何百年も巫女を守ってこれたが、今はまだアリエッタが幼い。一人で苦しむな。
ヴァシリス!おまえも魔王になってしまえ。気が楽になるっ」
「はいっ、魔王になってよいとわかり、少し気持ちが楽になりましたっ。ありがとうございます。」
父上なりの巫女の守り方だったのだろう。
《炎の獅子》か。その時の父上の勇姿を見たかった。




