第3章 王の考え
シャチ事件が終わりました。新しい未来への準備がはじまりました。
シャチ事件が終わって数日後、僕は父上の私室の書斎に呼ばれた。
「父上、ただいま参りました。」
「おぅ、ヴァシリス、背が伸びたな。陽に焼けて、体つきも、顔付きもしっかりしてきた。
かなり鍛練しているのがわかる。何よりだ。」
今日の父上は、とても明るい。
「お褒めに預かり、光栄です。」
「ヴァシリス、シャチ事件では、大義であった、と言うべきだが、本当によく頑張ったな。」
父上は椅子から立ち上がり、僕をがっしり抱きしめて、頭をぐしゃぐしゃに撫でてくれた。
「父上?」父上がこんな事をするなんて、僕はとても嬉しくなった。
「あっ、ありがとうございます。」
「いやはや、お前たちのあの巨大ヒーリングは、想像をはるかに超越していた。王国の歴史に加わる内容だ。
それにしても、ヴァシリス、あのトライデントは、一体、どこから出てきたのだ」
好奇心丸出しで、目をキラキラしている。
気になって仕方ないのが、よくわかる。
「あれ、巫女の剣です。」
「はぁっ?まさか、私がお前に渡した剣か?
詳しく聞きたい。」
今日の父上は、かなりくだけている、王の風格と威厳を脱いだみたいで、話しやすい。
僕は、海の中で起きた一部始終を話した。
「ではアリエッタを手にかけられなくて、自分で死のうと思ったのか?
そなた、王家の優先順位はわかっておろうな?
私を含めて、お前は上から4番目に地位が高い。それは生き延びねばならない順なのに、、」
「わかっています。ですが、僕が死ねば、アリエッタは苦しまずに消えます。それ以外、僕の選択肢はなかった。
父上と兄上たちがいるのですから、心置きなく命をかけられます。」素直に話した。
「巫女のために命を落としてどうする?」
「巫女を失って生きる意味がありますか?」
「お前なあ、、まあよい。ヴァシリスの巫女だ、どうしようと、お前の自由だ。
とにかく、それが、トライデントになったわけか。ポセイダルゴの庇護を受ける王子に相応しいな。
騎士物語になるぞ。はっはっはっはっ。
最愛の姫を護るために、自らの命を差し出したら、海神の助けにより、魔法のようにトライデントを授かった、とな。」
「父上、揶揄わないでください。それにそれ、騎士物語じゃなくて、魔法じゃなくて事実ですよ。」
「それを言うな。。とにかく、よく頑張った。
あの一件があって、これからの国づくりの方針を固められたのだ。あの事件は、大きなご神託であったと言う事だ。」
「あの混乱がご神託、、そういう見方もあるんですね。」
「そうだ。あの海底のど真ん中に王子と次代巫女だけがいたのだから。
そこで、近いうちに、ラングドンとパトリックとお前たち3人を呼んで、計画を詰めたいのだが、巫女の事があるので、お前を先に呼んだのだ。」
父上の話は、次のようなものだった。
1)3人の王子の得意分野を、国の3つの柱とする。王位を継ぐのはラングドン第一王子。
2)3人の王子の妃候補の妃教育をはじめ、出来るだけ早く婚約、結婚に繋げること。
遅くても、王立アカデミー高度課程を卒業した年には結婚すること。
3)結婚準備にともない、今の王子がまとまって生活している東宮から、3人の宮を3つ作ること。これは、海洋生物研究所を僕に統括させるため、研究所に近い場所に、離宮を作ることを前提としている事。
僕だけが、王宮から離れて離宮を作るのは、巫女宮を兼ね備え、機密を守りやすくするため。
4)王立アカデミーの進級基準を実力主義にし、公爵家、侯爵家の優れた子息には飛び級を適用する。
5)僕の近衛騎士団への入団を許可。
6)海洋軍の中に、パワーの高い海洋ヒーラーを集結させ、海からの侵略に備える部隊を作る事。
僕は話しを聞きながら、暗に僕を中心にしている驚愕の国家体制に、顔が引き攣った。
「シャチ事件のあと、セレステにご神託がおり、私とセレステで基本案を煮詰めたのだ。
まだ10歳にもなっていないお前たち2人が、
あれほどの力を見せたわけだから、国の根幹を調整せざるおえなくなった。ということだ。
お前とアリエッタを中心に、動きやすい方針を決めてから、ラングドンとパトリックを巻き込む方が動きやすいからな。
物も言いようで、ラングドンが王太子になるから、パトリックとヴァシリスはラングドンを支えるための組織を構築する、と言う話にして、
お前を中心にしているようには見えないようにする。
それに、海洋軍に一部でも所属すれば、前線に出る事になるから、下手をすれば、お前は戦死する確立が高くなる。それが隠れ蓑だ。
で、ヴァシリス、お前はどうしたい?」
「父上、実は、アリエッタの事もあって、色々とご相談したかったのですが、あまりにも話がスムーズすぎて、、ありがたいです。」
「ヴァシリス、私には、巫女がいるのだぞ。
この国が崩れない理由がわかっただろう。
私とセレステは、生活場所も家族も違うから、
ご神託と国政に集中できるし、動きやすい。
しかし、お前は、巫女であるアリエッタを妻として背負うわけだから、お前が潰れる前に何とかしてやりたかったのだ。
しかしトライデントの話を聞くに、アリエッタへの愛が高じて、既に死ぬ覚悟をしたわけだから、一回は崩壊したわけだな?」
「はい。既にボロボロになりました。力不足を痛感させられました。」
「はっはっはっはっ、もっと自信を持ってほしい、よく頑張った。」
「父上が、一番の理解者である事に感謝しています。」
「それが可能になったのは、お前が王位を継がないからなのだ。これまでは、次代巫女が現れると、それまでの王は、後片付け程度の期間しか、生きられなかった。次代巫女を得て王位が近づくと、前王の寿命が短くなる。だから、親子二代で国づくりなど、絶対に出来なかった。
しかし、私には、3人の王子がおり、支え合える力は巨大に増えたわけだ。と言うご神託だった。
で、ヴァシリスどうしたいのだ?」
「父上、今後の方針を決めるまでに、先に一つお聞きしたいのです。
あの巫女の剣、父上が持っておられた時は獅子の紋章でしたが、どんなものに変化したのですか?」
「そういえば、話してなかったな。
それはな、火を噴く獅子だ。悪や毒を朱色の光と、本物の火で、全てを蒸発させるように一瞬で焼いた。」
「かなり恐ろしい剣です。」
「いや、お前の、トライデントの方が恐いし強力で、魔王のようではないか。まあ、三兄弟の中で、魔王っぷりがあるのは、お前だけだからな。」
父上に魔王呼ばわりされてしまった。はあ〜。




