第二章 追憶 シャチ事件4 王命
シャチ事件、全容です。
「アリエッタ待て!」
ヴァシリスが叫び、
皆が叫ぶ
「アリエッタ様が海に飛び込まれた!」
「攻撃をやめさせろ!」
「アリエッタを撃つな、僕がいくっ。」
「ヴァシリス王子、なりません。」
護衛が数人がかりで、第三王子を抑える。
「攻撃中止、魚雷発射解除!」
「攻撃やめい!」
「ヴァシリス王子、なりません」
「うるさい。黙れ。僕はアリエッタを守るんだ、離せ、邪魔をするなっ」
ヴァシリスの体が、オレンジ色のもやでゆらめいている。
海洋軍の指揮官が、
「アリエッタ様の助けを、駆逐艦を出せ!」と兵士に叫んだ時に
「待て!」と声がかかった。
国王だ。
緊急報告を受け、急いでかけつけたようだ。
「陛下」全員が跪く。
「父上っ!行かねば!」
「アリエッタ様が海に、シャチの大群も迫っております」
「わかっておる。
ヴァシリスとアリエッタに任せる。全員待機。
ヴァシリス、行けっ!」
「はっ!ユリシーズ、僕の剣を」
側近逹が近衛騎士団全員が、固まった。
離れたところにいた海洋軍の兵らも、信じられないという表情だ。
これでは見殺しである。
「王命である、待機せよ!」
「ははっ」
崖の上は、まるで闇夜のような空気になっていた。
ユリシーズから剣を受け取ったヴァシリスは、
振り返って国王を見た。
国王は、難しい顔をしていたが、王子を真っ直ぐみた。
父と息子の約束が、あった。
国王が頷いたのを見て、
ヴァシリスは、躊躇わずに、海に飛び込んだ。
辺りは更に騒然となった。
軍の仮設本部は、、王命により、海の様子を伺うだけだった。
王以外の者は、まだ幼い王子と公爵令嬢を見殺しにするのかと、王の真意がわからず、
みなの心が崩れそうだった。
ヴァシリスが飛び込んでから、数分の後、
海の底から、グリーンの光が溢れ出し、見渡す限りの海に、グリーン光が広がっていく。
シャチの大群が、浮いたまま動かなくなった。
夕暮れの海のように、グリーン光が濃くなるにつれて、腹を出して浮いたシャチから、
黒紫色の光が出てきて、海の底へと流れていく。
シャチから黒紫色の光が出なくなると、
海の底から、オレンジの光が溢れ出した。
朝焼けのような、海全体を覆い尽くすオレンジの光が、海の色を変えて行く。
浮いたまま動かなかったシャチは、オレンジの光を浴びて、小さく小さくなり、無数の熱帯魚に変わり、泳ぎ去っていった。
一瞬、海は銀白色に強く光って、
何ごともなかったように、コバルトブルーの海に戻った。
崖の上から一部始終を見ていた騎士や兵士達は、驚愕と感嘆の声をあげていた。
そして、しばらくすると、一頭のシャチとクジラが岸に向かっておよいでくる。
崖の上から監視していた指揮官が王に伝えた。
「陛下、ヴァシリス王子のシャチの背中に、
アリエッタ様を抱えたヴァシリス王子が乗って、こちらに向かっておられます。アリエッタ様のクジラも一緒におります。」
王は頷いて、みなに聞こえるように命を出した。
「これは、シーシェル国の至宝である、海洋生物超特級ヒーラーと、特級ヒーラーのヒーリングであった。
ヴァシリス王子、アリエッタ嬢のヒーラーの力は証明された。
攻撃目標は消えたので、戦闘体制は解除。
通常体制にもどれ。
情報部の報告はあとで聞くので、とりまとめよ。
ヴァシリス王子とアリエッタ嬢の側近は、2人が戻り次第、医師の診察を受けさせ、休養させよ。
子供たちの、クジラとシャチには、危害を加えず、自由にさせよ。
当面、2人を海に近づけるな!
王宮に戻る」
「「「「「 はっ 」」」」」
みんなが口々に、見た事もない大ヒーリングに驚き、喜びを分かち合っている。
ユリシーズをはじめ、ヴァシリス王子とアリエッタの護衛騎士たちは、浜辺に走った。
クールが2人を運んでいる。
浜辺についたクールの背に、意識のないヴァシリス王子が、右手に銀色のトライデントを握りしめ、左手にがっしりと意識のないアリエッタを抱きしめていた。
アリエッタを受け取ろうにも、ヴァシリスの手が離れてくれない。
ユリシーズは呟いた。
「殿下、立派でございます。騎士たちよ。
殿下とアリエッタ様の意識がないので、
至急、王宮にお運びせねば、
ただ、、、」
騎士たちも、困っている。
アリエッタ様を引き離すのは難しそうですね。
王子の手にあるのは、もしかしてトライデントですか?
この武器、誰の武器だ?
王子の剣は、どこにある?
トライデントは、王子の手から離れない。
「隊長、どうしますか。」
「ヴァシリス殿下の意識を取り戻すしかないな。もしくは、このまま運ぶか、だが、運ぶに運べない」
「殿下に水をかけろ。騎士団で伸びたやつを目覚めさせるのと同じでよい。」
「えっっ!王子にですか?」
「そんなに驚くな。
殿下は、来月から近衛騎士団に入団予定になっている。
いずれ、水をぶっ掛ける事になるのだ。不敬罪にはならないから、さっさと目を覚まさせろ。
アリエッタ嬢を早く医師に見せた方がいいだろう。」
ユリシーズは騎士達に指示をだしていく。
ヴァシリスは、頭から冷たい水を、桶で何杯もかけられて、意識を取り戻した。
「ヴァシリス王子、気がつきましたか?」
「ユリシーズ、、か、アリエッタは?」
「王子の腕の中に。お命は大丈夫ですが、早く医師に見せたいので、王子の手から、騎士に預けていただけますか。」
「へっ?」
「あと、武器もよろしければ、離していただけると。トライデントは、たぶん強力ですね?」
「は?」
周りで護衛騎士たちが、心配そうに除きこんでいる。
ヴァシリスは、まずトライデントを離した。
瞬間、オレンジと銀白に光って、ヴァシリスの剣に形をかえた。
「「「おおっ」」」騎士たちが驚いた。
ヴァシリスは、片膝を立てて、体勢をなおし、
アリエッタをそっと抱きしめて、額に唇をそっとつけた。
アリエッタの護衛に「頼む」と言って、手渡した。
騎士のみなが、剣を捧げる。
ユリシーズが言った。
「ヴァシリス王子、よくぞ戦われました。
ようこそ第三近衛騎士団へ。」
顔見知りの騎士たちばかりだが、皆がざっと跪いた。
「王子も王宮にもどり、医師に見てもらわなくては。さっ」
「ありがとう、ユリシーズ、そしてみんなも。」
ヴァシリス王子のコバルトブルーの瞳は爽やかに輝き、戦いが終わった海も、コバルトブルーだった。
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