第二章 ヴァシリスの追憶 6歳その11
別の馬を準備してもらって、2人で、海が見える丘まで駆けた。
「坊っちゃま、今坊っちゃまが、成人していたら、酒を酌み交わしていましたよ。」
「6歳でも、酌み交わしたい気分だ。
ユリシーズ、私が成人したら、酒を酌み交わしてくれるか?」
「もちろん。昆布を肴に酌み交わしましょう。」
顔を見合わせて笑った。
「ユリシーズは、僕の親父殿だな。感謝している。
アリエッタは、あれで、良かったのだろうか?」
「もちろんお見事でした。
少なくとも、坊っちゃまは、6歳には見えませんでした。25歳の風格はありましたから。」
丘から見る海は月光に反射して、アリエッタの瞳を感じさせる。
「ユリシーズ、僕は背伸びをしていると思っている。でも、20歳までにやるべきことが山積みで、時間が足りないのだ。
アリエッタが年相応に成長するのを待ってやれたらいいけれど、あれも、特異な状況で成長せねばなるまい。ミカエラード家で、両親と共に過ごす方が幸せなのではないかと、考えてしまう事もある。」
「ヴァシリス殿下は、間違ってはおられません。
私が警護責任者になってから、3年。
殿下にお仕えして、飛躍的な成長を感じています。
一般的に考えれば、すでに成人しておられるのと同じくらいの教養、技、学問を会得しておられる。
妻のオランは、ガブリエル家の者です。同じ姉妹でも、巫女か巫女でないかで生き方が全く異なり、過去には、些細な失態から命を落とした巫女も少なくないと聞いています。
私はエドワード王の警護としても仕えてきましたが、巫女様を守るための苦労は生半可なものでは、ありませんでした。
更に殿下は、アリエッタ様との婚姻も、受け止めなくてはならないお立場です。
早く成長されてしまうのは、逃れられない事なのではありませんか?」
「これを突き進むしかないのか?」
「そう思います。
それに、今日のアリエッタ様をみるに、アリエッタ様の精神的な部分では、3歳ではなく、10歳くらいの節度や能力は兼ね備えているかと。
殿下との距離を測りかねて、焦りや不安があるのではないでしょうか。まだご神託がないせいで、巫女のご自覚もないですし、周りの目から想像すると、殿下のお妃候補の1人か?と想像するくらいしか、ご自身のことが分かりにくいと思います。」
「何故、アリエッタにご神託がこないのだろうか。周りばかり固められて、、僕がもっとしっかりしなくてはならないのか?
先にヒーラーとしての力を確立させてから、巫女の準備になるような気がするが、逆に僕は、ヒーリングの力の出し方がわからないのだ、、」
「殿下、良く頑張っておられますよ。」
「ユリシーズ、ありがとう。」
ユリシーズがくっくっと笑い出した。
「殿下が、『人魚の王子か私かどちらかに決めろ』と言われた時は、吹き出しそうでした。」
僕も笑い出した。
「ユリシーズもか、私も言ってしまってから、吹き出しそうになって、怒りに任せたフリで、急いで部屋を出たのだ。あれ以上は、耐えられぬ。
昆布のドレスもだ、アリエッタはなんであんなヌルヌルのものをずっと纏っていられるのだ。馬鹿ではないのか。
あっ、帰還の馬は、ユリシーズが僕をはめたな?」
「何がですか?」ニヤニヤしている。
「王宮に帰る時、昆布を避ける為に、アリエッタを僕に押し付けたのではないか?」
「坊っちゃま、それは、くっくっ、、あれは、姫様が絶対に坊っちゃまに守られたかったはずですから、無理ですよ。何にせよ、昆布のまま、沖まで往復して、帰りの馬など、誰の馬に乗っても同じです。
それにオランも侍女たちも、今頃、昆布に埋もれてるはずですから。」
なんか上手く、ごまかされてるような、、まぁ、よいか、
「坊っちゃま、長く騎士団にいると、同胞が死んでも、弔ってやりたくて、腐っていくまま、同乗して帰還します。人を、国を守ると言うことは、そう言う事です。
昆布のドレスくらい、姫様が生きているのではあれば、へっちゃらです。
だから、坊っちゃまにも強くなってほしいし、国を守る王子でいてほしい。
3年前のご神託があってから、坊っちゃまは、海を守ると言われた。それは最前線に出ると言う事です。
あの幼さで、覚悟を決められ、王から賜った剣に
トライデントの紋章を持つあなたに、近衛騎士団団長と私は、騎士として、尊敬の念を持ちました。
坊っちゃまは、私たち騎士が命をかけて守るべき方なのです。
そんな思いを知らない、わからないレディもたくさんいます。
しかし、アリエッタ様には、坊っちゃまが歩む過酷な道を知っていただきたい。
これは幼いか成人かではなく、生き様だと。
だから、坊っちゃまが最後に姫様に
『僕が花嫁衣装を贈るのは、生涯に一度きりだ。
その衣装を着た者を、生涯手放さぬ』と言い切られた時、私は清々しい気持ちでした。お見事でした。」
「ユリシーズ、褒めすぎだ。でも嬉しい。
あれで覚悟できない女ならば、私は誰とも結婚しなくてもいい気がしている。もし結婚したとしても、心が通わないだろう。
万が一、アリエッタが理解出来なかったとしても、今、このように男同士で理解できた、のであれば、頼もしく思う。私も騎士団に入れば良かった。」
「10歳になったら入団できますよ。アカデミー入学まで、3年ありますから、そこで鍛錬されるのも、将来のためには良いかもしれません。」
「そうだな、3年あれば、もう少し強くなれるだろうか?人魚の王子と比べられるのは、耐えられない。」
「坊っちゃまなら、もう少し早く入団できるかも知れません。身長がある程度必要なので、背がもう少し伸びたら、お声をかけます。」
「頼んだ。しかし、アリエッタが、次、何かやらかしたら、人魚の王子と私を天秤にかけた事を追い詰めてやる。私は現役の王子なのに、情け無い。」
笑いが止まらなくなった。
「ユリシーズ、成人したら、必ず酒を酌み交わしてくれ。約束だ。」
ユリシーズが頷いた。
かなり、スッキリして、王宮に馬を駆けて戻った。
オランが報告に来てくれた。
「坊っちゃま、先程はありがとうございました。
姫様は、あの後、すぐに昆布を脱がれ、湯浴みをされて、侍女達に謝って、お休みになられました。今は、ベッドの中で泣いておられますが、、」
「オラン、みんなにも迷惑をかけてしまった。すまない。
アリエッタは少し反省が必要だから、今は泣かせておけば良い。
今日は、あまりにも次々にありすぎてな。ポセイダルゴ様にも会ったし、、、、
あっ、もしかしたら、今日の出来事が、、」
「坊っちゃま、私もそう感じました。
明日、お姉様に相談に行こうかと。」
「オラン、私も一緒に行ってよいか?
オランとセレステの都合のよい時間で決めて良い。
今日は、色々と助かった。遅くなってしまったが、少しでも早く休んでくれ。」
お誕生日、何とか終わりました。
ヴァシリス殿下の成長が凄いです。




