第二章 ヴァシリスの追憶 5歳その8
ヴァシリス視点の幼い2人の日常です。
僕は、日々、精進し続け5歳になった。
巫女を護る剣の剣捌きも、上達し、ユリシーズに褒められるようになってきた。
騎乗でどんなにかけても、落ちなくなってきた。
勉学は、王立アカデミーの15歳で学ぶ内容を学んでいる。寸暇を惜しんで力をつけなくてはならない。
アリエッタは、2歳になった。
僕の勉強や稽古の合間には、一緒に遊べるようになってきた。
言葉は、辿々しいしが、普通に会話は成り立っている。
アリエッタのキラキラグリーンは、日常になってしまっている。
傷ついた生きものを見つけるのが早い。見つけた瞬間、キラキラが発生している。監視して止める方が手間なので、アリエッタの好きにさせている。ヒーラーなのだから、ヒーリングはしても良いだろう。
アリエッタは海が好きだ。危ないからと、ユリシーズが警護できる時しか行けないが、
よくよく考えると、海で危ない目にあった事がないが、油断は禁物だ。
海洋生物特級ヒーラー以上の技能だと思うが、海の中で、不思議な呼吸ができるので、基本的に溺れない。
アカデミーに行けば、ヒーラーは全員、海で溺れないシースーツと言うものを会得するらしいが、
僕とアリエッタは、それがなくても困らなかった。
今日は久しぶりに昼からゆっくり海に行ける日だ。
僕たちは王宮から馬で海に向かった。
僕はまだ、自分の馬に、アリエッタを同乗させられない。
悔しいけれど、ユリシーズに託す。
ユリシーズは、護衛対象を同乗させ、守りながら、普通に剣で戦えるのだ。
それだけすごい騎士を、父上は僕達の警護につけて下さったのだ。
他に近衛騎士が2名ついている。
「ヴァシリス兄さま。今日はクールにあえましゅか?」
「浜についたら、来るだろう。」
「私もクールのようなお友達がほしいでしゅ」
「海の神にお願いしてみたらどうだろう。」
「クールが欲しいのじぇちゅ。」
「クールは僕の臣下だから、アリエッタには渡せないんだ。」
「お兄様の意地悪っ!」
たわいのない会話が、心地よかった。
浜辺について、馬からおりたら、アリエッタは海に向かって走りだす。サンダルを脱ぎ捨てて、素足で波打ち際に突進している。
突然、海の中でしゃがんだかと思ったら、海のなかで、キラキラグリーンだ。魚か何か弱っていたのだろう。弱っている生きものをみると、片っ端から癒していく。すでに服はびしょ濡れだ。
彼女は、特級ヒーラーだから、パワーは十分だろう。でも更にパワーが多い超特級ヒーラーの僕は、パワーの出し方が、まだよくわからない。
アリエッタは、指で軽く撫でるように、パワーを出してしまう。
僕や近衛騎士の傷まで、ホイホイ癒してしまうので、小さな魚は、もっと簡単に治せるのだろう。アリエッタにとって、ヒーリングは息をするのと同じようなことかもしれない。
案の定、服のままで泳ぎ出した。
またオランに叱られるだろうけれど、アリエッタが気にしないで泳ぐので止めようがない。
ユリシーズが苦笑している。
僕の姫は何を言っても無駄だ。そのうち、いつか、乙女らしく、なるのかな?期待は僕のエゴだ。だから期待は止めよう。
もう足がつかないところまで進んでしまったようだ。溺れないのはわかっているが、側についていないと。
僕は口笛を吹いて、クールを呼んだ。
シャチのクールが顔を出した。
僕はクールに飛び乗って、アリエッタを追いかける。
「ヴァシリスさま、お久しぶりです。」
「やっと会えたな。海は変わりないか?」
「平和です。」
アリエッタは、深く潜ろうとしていた。
最近、おとぎ話で、人魚の姫が、陸の王子に恋をする話にハマっている。
おとぎ話の陸の王子は、人魚の姫を裏切って、魔女と結婚し、悲しみのあまり、姫は海の藻屑と消えてしまう悲恋だ。
しかし、アリエッタ的に解釈すると、海の人魚の王子様に恋をして、足の代わりにヒレが欲しいと、自分の足が恨めしいらしい。
それを僕に訴えないでくれ。
頼むから、目の前にいる、生涯の愛を誓っている陸の王子を見てほしい。
この無邪気な姫が、真実の愛に気づく日が来るのだろうか?
恋に落ちて、2年で、僕は海の藻屑になりそうだ。
その感情を抑え込むように、勉強に稽古に励むしかないのだ。
アリエッタがかなり深くまで潜っていくので、
クールと一緒に追いかけた。
「アリエッタ、あまり深くまではダメだ。
泳ぐならもう少し深度をあげなさい。」
「いやだっ。人魚の王子様に会いにいきゅのっ」
「アリエッタ、王子様が良いなら、僕も王子だ。人魚の王子より、お前を大切にしてやるぞ。」
側近も護衛もいない海の中だから、
ちょっとだけ、自己主張してみた。
「じゃあ、クールをちょうらい。そうしたら、ヴァシリス兄さまのお嫁たんになってあげる。」
クールが、ちょっとアリエッタから離れた。
アリエッタがクールに抱きつくと、引き離すのが大変だ。
シャチが幼児を怖がるくらいだから、クールを渡すと、きっと溺愛死させられてしまうかもしれない。
ポセイダルゴ様から遣わされたクールは、絶対に渡せない。
アリエッタは勝ち誇ったように、
「クールくれないくせに」と立ち泳ぎで、あっかんべーをした。
こんな幼児に恋に落ちた僕がおかしいのだろうか?僕も5歳の幼児だが、恋に落ちたのは、23歳の未来だ。
何が光の調和だ!
全く!僕が大人になったら、とっ捕まえて、お尻ぺんぺんしてやるぞ、と思ってしまった。
あれ?さっきはいなかったのに、アリエッタの後ろの方に、海亀の姿がみえる。
そう言えば、この前、海に入った時も、海亀をみたような気がする。
僕は心の中で、海亀に話しかけてみた。
「アリエッタを見守ってくれて、ありがとう。」
海亀は、アリエッタの周りを周り、ふっと姿を消した。
そろそろアリエッタが疲れてくる頃だろう。
今日は、水深深く潜ろうとしていたが、何かに阻まれて、それほど深くは行ってなかった。
何回も潜水を繰り返して疲れたのだろう。
海の中で、居眠りはじめた。
「ヴァシリス兄さま、ねむい」
僕が抱き止めた時には、爆睡をはじめていた。
良く眠っているアリエッタをクールに乗せて、浜辺まで戻った。
「すまない、ユリシーズ。またびしょ濡れを持ち帰ってもらえるだろうか。」
「姫さまが、お淑やかになる日は来るんでしょうかね?」
王宮に帰り着いて、浴室に入れられたアリエッタは、オランから雷を落とされていた。
侍女の叫び声が聞こえる。
今日のアリエッタのポケットに入っていた土産は、ナマコ大小一式だったらしい。
やっぱり、僕は、恋する相手を間違えたのか?
読んでいただきありがとうございます。




