第8章 行方不明
全世界の海が浄化され、パンデミックは回避され、どの国も最小限の犠牲で済んだ、チャンシアを除いては。
3ヶ月が過ぎ、チャンシアのウィルスは完全に撲滅され収束宣言がでた。チャンシアの皇宮はポセイドンとクロノスの神々により、跡形もなく全て消え去った。
政治の中枢を失ったチャンシアは、民だけが生き残ったため、大国のブリテンが中心となり、各国から人材を出し合って、合同政治を行うことになった。
チャンシアの民も、人身売買や生物兵器を作り、民を実験台に使うような皇帝には辟易していたのだろう。未来に向けて新しい国づくりは順調のようだ。
しかし世界を救ったはずのシーシェルは、重苦しい空気に包まれていた。
シーシェル艦隊は、2人を除いて全員無事に帰還した。
しかしながら浄化ヒーリングを行った第3王子ヴァシリスと妃のアリエッタが、ヒーリング後に行方不明になっていた。シーシェルの全潜水艦が全ての技術を駆使して捜索したが、見つからなかった。
「いいかげんにしろ、葬儀の話などするなっ!」
「しかし陛下。このままでは。」
「ヴァシリスとアリエッタは必ず戻ってくる。」
「そうだ、あの二人が海で溺れるなど有り得ん。生まれた時から、海にいた奴らなんだ。」
国王の執務室で、国王と第二王子のパトリックが、側近に怒鳴っていた。
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「セレステもオランも全く見ないのか。」
「ご神託はもちろんのこと、ガブリエル家で巫女の剣が消えたと。」
「アリエッタがオランに渡した懐剣も消えたそうだな。」
ここは、隠居した前国王の書斎。エドワードの元にアラン、マース、ユリシーズが集まって巫女の話しをしていた。
「巫女の力自体が消えたのか?」
「本人がそのような感じがすると。」
「ヴァシリスとアリエッタが見つからない事と関係あるのか。」
「王宮でも、すったもんだしているようです。ヴァシリスとアリエッタの葬儀をするしないで。」
「ラングドンとパトリックが拒否しているんだろう。凄い剣幕で死んでないと、言い切っているが。」
「ヴァシリス殿とアリエッタ姫ですからね、海で遭難などあり得ない。」
「確かにな。」
「世界を救って安心したから、どこぞの海で遊んでました、とか言いそうだが。」
「それなら安心ですが、実は我が家にある神殿に誰も入れなくなりました。」
「ミカエラードの神殿に?誰も?」
「はい、扉が全く開かないのです。しかし正面扉にヴァシリス殿下の紋章が金色で浮き出ているのです。」
「海の教会はどうなっている。」
「ヴァシリス殿下の領地の漁民たちが、毎日祈りを捧げているようですが、供物として捧げた魚が祭壇で生き返って海に飛び込んで泳いでいると、すごい噂になっているのです。」
「ユリシーズは見に行ったか?」
「ええ、行きました。愚息のアズラエルも見に行って、確認したそうですよ。自分で死んだ魚を持って行って、生き返ったからと、また持って帰ってきて家の水槽で飼育してます。ずっと生きてます。」
「うちの愚息もだ、パーシーと嫁のハニエルが毎日色々な魚を持って行って確認しているらしい。」
「ダニエルは、教会の鐘が鳴る時に、魚が生き返ったと。で、いま海洋研究所で研究させているそうです。」
「つまり、ヴァシリスが抜けた後、何とか海神の騎士たちで、不在を埋めてくれているのだな。」
「冷静なアーサーが取り仕切っていますから、統制もとれているようです。ただ、存在感が大きい殿下でしたからね。みんな元気がありません。」
「娘のアリエッタもとうに産み月は過ぎておりますし。失踪か死んだかくらいはわからないと。」
大人達は腕組みをしたまま、考え込んでしまった。
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海洋ヒーリング後、パワーを使い果たし、意識を失って俺たちは海の底に沈んで行った。
その後気づいたら真っ白な場所にいた。そこはクロノス殿とポセイドン殿がいる場所だった。
潜水艦に戻るつもりだったのに。俺達は死んだのか。それに陣痛が始まっていたアリエッタは、腹が大きいままケロッとしている。そして話し合いが続いていた。
《だから、選択肢はそれしかないのだ。》
「しかし、ポセイダルゴ様は、黄泉の国に行かれたのに、俺たちだけって、納得がいかない。」
《ポセイダルゴは、アンジェラへの愛を昇華させたのだ、黄泉の国で、生まれ変わる時を待っているのだから、其方らとは立場も状況がちがうのだ。》
「もし死んだら、赤ちゃんも一緒に死んじゃうのでしょう。」
《3人共に死んで、バラバラに来世をまつか、今から3人家族で生きるかだ。》
「では、なぜ、人間のままで生きられないのですか。」
《ヴァシリス、聡明な其方が何回も同じ質問をするな。人としての人生は終わったのだ。しかし其方らは多大な自己犠牲により世界を救ってくれた。神々に昇格して、世界を守り続けてほしいから、神にならんかと誘っている。》
「神様って勧誘されてなるものですか。」
《ヴァシリス、タールーン殿の慈愛を素直に受けろ。》
クロノス殿が不機嫌だ。
《ヴァシリス、これ以上、父上の機嫌を損ねるな。だいたい其方らは、わがままだぞ。人として死んで、来世でまた夫婦になりたいとか、腹の子だけは助けてくれとか、それは無理なのだ。人の人生と神の存在は意味が異なる。だから神になれば、今の家族のまま1000年以上、いくらでも長く共に過ごせるのだぞ。》
ポセイドン殿の説得力はすごい。
「あの、生まれる子は歳を取らないのですか?」
《生まれた子は成長し、成人して神々の役割を与えられたところから歳はとらなくなる。お前たちは21歳と24歳のままで、100年に一歳ずつ歳をとる。》
《ポセイダルゴが居なくなってしまったから、ポセイドンとシェルの手伝いをしてほしいのだ。いずれポセイドンとシェルは天界で役目があるからのう、その後は世界中の海を其方ら家族で守るのだ。》
「巫女の役目はどうなるのですか。」
《現在、シーシェルには巫女はおらん。もしアリエッタが巫女を続けてくれたら、シーシェルは巫女がいなくても良くなる。もし巫女をつくるとしても、其方らのように、共に命を終わるというような極端な縛りではなく、アリエッタのお告げを受け取るだけの巫女をたくさん作ればよい。信じる信じないは、受け取る者に任せればよい。》
「ねえ、ヴァル、それはありだと思うわ。私達、苦しかったんだもの。もちろん愛があったから乗り越えられたし幸せだったけれど、ほかの女性には隠された巫女という思いはしてほしくないわ。セレステお母様やオランおばさまだってそうよ。」
「確かにな、もし生まれ変われたら来世では、普通の男と女でありたいと願っているからな。」
「ねえ、ヴァルは私と1000年一緒にいるのは嫌?」
「嫌じゃない。アリィは?」
「私もだわ、嫌じゃないし嬉しいわ。」
結局2人は見つめ合ってしまう。
《お前たちの愛は一万年かけても揺らがないだろうことはわかっている。だから神になってずっと一緒にいればよい。》
「神になってから、ややこしい役割とかは増えませんか?」
《其方ら、ポセイドンやポセイダルゴを見ているだろう。何も変わらん。》
「あの、、、ゼウス様が、また横恋慕とかないですよね。」
《それはない、ゼウスの1000年の謹慎が解けた後、海にも人間界にも行けないようになっている。天界では書類仕事をさせる。》
「わかりました。来世を待つのも大変だし、この人生が嫌だったわけではない、辛かったのはアリエッタと離れ離れだった事だけだ。ならば、それが叶えられるのならば、俺は受けたいと思う。アリィはどうだ。」
「ヴァシリスさまと一緒にいられるなら。それに、この子を産みたいですし。」
《よし、では神になる手続きを。》
「あの、、もう一つだけ宜しいでしょうか。」
《なんじゃ、アリエッタ。》
「もし神様になった人生が終わる時、ヴァシリス様と同じ時に死ねますか?共に黄泉の国へ。」
「アリィ、お前、1000年以上生きるのに、そのあとの離れ離れを案じているのか。」
「だって〜、お側にいたいの。」
《わかった、わかった、もうわかったから。お前たちは、ずっとずっと一緒にしてやるから、タールーン様もよくご存知だから、もうよいな、神界に入る手続きをするぞ。》
「よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。嬉しいっ。」
2人は人としての人生は終わったようです。
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