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巫女は海を守りたい〜愛が溢れるヒーラー物語  作者: 紫陽花
第8章 変わりゆく時代
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第8章 生か死か

チャンシア沖での浄化とウィルスの殲滅は難航していた。

ポセイドン殿と俺たちのパワーが足りないのだろうか、そんなはずはない。全ての海を司るパワーがあるはず。


その時、心臓がドクンとした。


ポセイダルゴ殿が、、逝かれた、まさか。


《父上、ヴァシリス、アリエッタ、シーシェルは永遠に守られる。アンジェラに出会い、ヴァシリス達に出会えた。我は良い神生であった。さらば。》


ポセイダルゴ殿の声が心臓に響いた。

母上を守るために、母上が愛するもの全てを守るために、海神全ての力をシーシェルに込めたのか。


「ヴァル、ポセイダルゴさまが。」


「アリィ、お前も聞こえたのか。」


「では、ヴァルも?」


「逝ってしまわれた。」


また伝書バラクーダが、俺に向かって泳いでくる。

《シーシェルの領海内でチャンシアの潜水艦全て殲滅、シーシェルの海岸線防護ドームは無事。ラングドン国王の潜水艦はパトリック殿下の艦隊と合流。6海洋のウィルスは飽和寸前まで増殖。》


そうか、ラングドン兄上達を守るために緊急脱出させ、父上と母上が王宮に残って、それをポセイダルゴ殿が。ポセイダルゴ殿の海神の貴石は俺が持っているから、ポセイダルゴ殿は命をかけるしかなかったのだ。そういう意味だった。本来の海神のパワーは、俺とアリエッタに託され、俺たち2人揃ってないと、パワーは半減してしまう。


「アリィ、全ての海洋を浄化するには、海神の貴石のパワーを全て使わなくてはならない。アリィ、こっちに来てくれないか。」


アリエッタが頷いて、クールの背に移ってくる。


「アリィ、お前のヒーリングパワーを俺に流してくれるか。」


「はい。ゼウスに焼かれた時みたいに、ですね。」


「そうだ。あれ、痛かったな。」


「確かに。あれは今までで一番苦しかった、、でも、ヴァルと離れている方がもっと苦しかったから。」


「そうだな。お前と共にいる時は苦しみもマシに感じるな。」

 

クールの背の上に向き合って座った。アリエッタは盾を背中に背負って、俺もトライデントを背に背負う。そしてアリエッタを抱きしめる。


伝書バラクーダに伝える。

《アズラエル、ユリシーズ、今から海中で海神の貴石のパワーを使う。6海洋が浄化される状況を逐一教えてほしい。ポセイドン号は公海まで後退せよ。》


しばらくして、ポセイドン号が潜航をはじめる。意思は伝わった。それを見て、俺たちは海中に入る。


「アリィ、行くぞ。」


「シーシェルはポセイダルゴ様が救って下さったから、全ての海は私たちが。」


「よし、始めよう。」


俺たちはタールーン殿に詠唱する。アリエッタのグリーンキラキラが俺に流れ込んでくる。俺の中でグリーンキラキラとオレンジキラキラが溶け合って、体からコバルトブルーと銀の光がもやのように溢れてトライデントの先から眩い銀光が海に突き刺さるように鋭く溢れ出す。

みるみるうちに海面に浮かんだ魚たちの死骸から真っ黒な液体が染み出す。その後死骸はキラキラした粉のようになり、波間に消えていく。死骸が消えた場所から海水が澄んでゆく。どう見ても俺たちの周りの透明度が高くなると、伝書バラクーダがきた。


《チャンシア沖を含むノースイースト海洋、浄化完了》


「アリィ、一つ海洋が浄化された。」


「次、行きましょう。」


同じ事を繰り返し、トライデントから光を出す。

遠くの海溝から光が出ているのはポセイドン殿だろう。ウィルスを消すのが早いか、ウィルスが増えるのが早いか、時間とパワーの勝負だ。


しばらくすると、また伝書バラクーダが来る。


《ブリテン領海を含む西欧海洋、浄化。》


「アリィ、大丈夫か。」


「休んだらその分ウィルスが増殖してしまうわ、続けましょう。」


タールーン殿の声は聞こえないが、通じているはず。アリエッタの息が少しあがってきている。歯を食いしばりパワーをトライデントに籠める。


また伝書バラクーダが来る。


《北極を含む北平海洋、浄化。》


その時、ポセイドン殿の声が聞こえてくる。

《ヴァシリス、アリエッタ、半分終わったぞ。我はチャンシアのブラウンドームと研究所を完全に殲滅し天界に封じ込め、クロノス父上の采配を仰ぐ。残りの3海洋は任せた。》


「承知しました。」


アリエッタの背中を見ると盾が半分くらいに小さくなっている。


「アリィ、苦しくなってるだろう。」


「まだ大丈夫よ。さ、急ぎましょう。」


俺は更に踏ん張ってパワーを全開にする。

トライデントから、彗星のようにパワーが飛んでゆく。背中のトライデントが軽くなってる気がする。パワーを使う毎に盾もトライデントも小さくなっていく。


伝書バラクーダがくる。


《インダラ海洋、浄化。》


よしあと2海洋だ。


アリエッタが肩で息をしている。


「アリィ、少し休め。次は俺一人で大丈夫だ。」


「でも。」


「無理はするな。いいな。」


アリエッタから手を離してヒーリングパワーを上げていく。かなりキツイが何とかなる。また銀の光が海中を飛んでいく。


伝書バラクーダが来る。


《海底火山帯海洋、浄化。》


よしっ。


「あと一つだ、アリィ、大丈夫か、痛むのか。」


「ヴァル、じ、陣痛が。」


まさか、今、陣痛?


「生まれそうか。」


アリエッタが首を横に振る。


「始まったところだから痛いだけ。すぐには生まれないと思う。」


《ヴァシリス、アリエッタよ。残り1海洋は、環太平洋シーシェル海洋だが、どうする、できるか。》


タールーン殿の声だった。


「タールーン殿、アリィが、陣痛が、」


《わかっておる。アリエッタが海神の貴石を3個飲み込んだのが原因だ。一個が腹の子に吸収されつつある。》


「どういう事ですか。」


《全てヴァシリスの剣に同化させるのが安全だったのだが、飲み込んだものは仕方ない。3個の貴石のうち、一個が子のパワーになっている。つまり腹の子の貴石パワーを使わざるおえないという意味だ。最後はシーシェル海洋だ。》


「ヴァル、何としても浄化しなくては。」


「タールーン殿、どうすれば。」


《2人のパワーを合わせるしかない。ただ、貴石は子の命に関わってしまっている。》


「つまり3人のパワーを合わせろと?」


《そうだ、1人の命が犠牲になる。それしかない。》


「ヴァル、勝手に貴石を飲み込んだ私がいけないのです。」


「待てアリエッタ、其方が死ねば、子も死ぬではないか。」


「でも、ヴァルが残って、子をとりあげて。」


「アリィのいない人生はあり得ない。俺が身代わりになる。」


《諦めよ、ヴァシリスが命を落とせば、アリエッタの命は消える。アリエッタが命を落とせば、子も共倒れだ。ヴァシリスだけでは、貴石が足りない。子を産めば貴石のパワーが子に移る。それを使わざるおえなくなる。》


「つまり、3人共に生きるか死ぬかですか。」


《そうだ。》


「わかりました。悩んでも仕方ない問題だ。シーシェルの海が浄化できなければ、また世界中がウィルスだらけに逆戻りだ。」


「ヴァル、覚悟はできているわ。もしこの子だけでも助かればと思ったけれど、この子に貴石があるなら、今すぐに産むわけにはいかない。私たちの最優先はシーシェル海洋を浄化すること。」


《良いのだな。》


タールーン殿が再確認する。


「はい。共に生きて共に終わるつもりでしたから。」


俺はもう一度アリエッタを抱きしめる。パワーを絞り出す。アリィも腹の痛みを堪えながらパワーを送ってくれているが、うめき声を上げのたうちまわる。


「アリィ、踏ん張ってくれ。愛している、アリィ。」


アリエッタをぎゅっと抱きしめ、片手で髪を撫で背中をさすり口づける。アリエッタがうめき声を出すのさえ苦しいそうなので、口づけをしたまま、パワーを出していく。


《ヴァル、愛しているわ。》


《すまない、もっと幸せにしてやりたかった。》


《幸せだったわ。ほんとうよ。ずっと愛し続けてくれていたもの。》


色々な思い出が浮かんでくる。ずっと大切だった。きっと命が消えても、大切な思いは消えないと信じられる。


《来世があるなら、また出逢いたい。必ず見つけるから。》


《きっと海で出会うわ。》


《子供の顔を見たかったな。それも来世に約束してもいいか。》


《ええ、たくさん子供がほしい、あなたの子なら。》


《愛しい子よ。》


《ちちうえ。》


ちちうえ?何だ?生まれるはずの子は男だったのか。

《ちちうえ、、、》


《まあ、男の子なのね。ママよ。産んであげたかった。》


《我が愛する息子よ、来世で、必ずアリエッタと俺の子で生まれてくるのだぞ。》


《はいっ、ちちうえ、ははうえ。》


俺たちの意識はそこから消えた。


伝書バラクーダの発する音声だけが聞こえていた。


《環太平洋シーシェル海洋、浄化、全世界の海は守られた。帰艦せよ。》

2人はどうなるのでしょう。

読んでいただき、ありがとうございます。

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