第二章 ヴァシリスの追憶 3歳その5
「セレステ、其方はどう思う?3歳のヴァシリスが話している内容が、私たちのレベルを遥かに上回ってないか?三叉の矛、トライデントを持つのは、ポセイダルゴしかいない。神話の話だが。」
「エドワード様、1か月前と言うと、アリエッタが生まれた頃ですが、、
ヴァシリス殿下、そのシャチのクールが臣下になった詳しい日はわかりますか?」
「えっと、、父上が、神殿の護衛隊の視察に行かれた日でしゅ。」
父上とセレステ様が驚愕の表情になった。
「アリエッタが生まれた日だ。」
父上はしばらく口を閉ざしたが、ようやく口を開き僕に話しかけた。
「ヴァシリス、其方、海を護る王になりたいか?
シャチのクールが来た日は、アリエッタが生まれた日だ。もちろん、内密の知らせで、次代巫女が生まれたと、ミカエラード公爵から連絡があり、
セレステに事情を聞きに行っていたのだ。
ヴァシリスが伏兵だったとは、考えもしなかった。」
「エドワード様。ヴァシリス王子の神童ぶりは、わかっておられたでしょう?
ただ、今の王国は、エドワード様の民思いの治世もあり、スムーズにラングドン王子に王位を託される事は変わりない未来です。
そしてパトリック王子も、森林保護超特級ヒーラーであり、ラングドン様を支えて行かれるでしょう。
そのご神託が変わる事はありません。」
「うむ、ラングドンとパトリックは変わらないのだな?」
「はい。変わりません。
しかし、これだけ神童と言われるヴァシリス様にだけ、お生まれになって3年間、ご神託がなかったのは不思議でした。
でも今回、アリエッタの出産から、歴史にないような事が、次々と起きて、何度も、私自身が取り違えているのではないかと悩んでいたのですが、これはヴァシリス様とアリエッタへのご神託としか、考えられないのです。」
「セレステのご神託が間違った事はないであろう。それは私が1番よくわかっている。」
僕は、父上とセレステの会話を、とても心地よく見ていた。なんだろう。不思議な関係だ。
僕とアリエッタも、こんな風になるのだろうか。
更にアリエッタは、僕の妻になる。
顔が嬉しくなってしまった。
「ヴァシリス、何を笑っているのだ。」
悩んでいる父上は不機嫌だ。
「父上とセレステ様の信じ合うところが、すてきでしゅ。父上と母上も仲睦まじいでしゅが、セレステ様とは、理性と感性が、見えない絆で、むしゅばれて、、素晴らしいでしゅ。
アリエッタは、僕の巫女と妻になるのでしゅから、嬉しくなっていました。」
「バカ者!大人の会話に入るでない!3歳と言う年齢を自覚せよ!
全く其方は!頭が良すぎるのも難であるな。ラングドンとパトリックが、まともに見えてくる。」
「以後、気をつけまちゅ。
父上、機密事項は分かりまちゅたので、アリエッタとの婚約の王命を。」
「ヴァシリス待て。
王命はすぐにでも出せるが、公にしてはならぬのだ。
ラングドンとパトリックの婚約者がまだ決まっておらぬうちに、其方だけ先には決められぬ。
それに、アリエッタをあらゆる危険から守らねばならぬ。其方の聡明さは、わかっているが、今はまだ無理だ。何年もかけて、学び鍛錬し、騎士としてアリエッタを守れるくらい、強く成長せねばならぬ。同時に学問も極めねばなるまい。
海洋生物研究所を其方に任せるとしても、王立アカデミーの高度課程を首席で卒業せねば、他に優秀な者がいた場合、そなたにその権利はない。
全てにおいて、優秀でなければならぬが、優秀すぎると、兄たちを抜かして王位を狙っていると思われかねない。
更に王位につかない其方に、アリエッタを側近にはできないのだ。いや、ヴァシリスの巫女なら、側近にするしかないのか?それは無理だ。だが、
ミカエラード公爵家とガブリエル侯爵家は、代々、王家直轄であるため、何もせねば、アリエッタが兄王子の側近になってしまうのだ。
そうならぬように、とても自然に側近対象から外れさせるように動かねばならない。
アリエッタが、自ら海洋生物ヒーラーになってくれれば良いのだが。それも其方と同じくらいの優秀さが必要だ。」
「エドワード様、あまり先をご心配なさいませんように。ターニングポイントには、必ずご神託がおりるはずです。
特に今回は、今までの歴史と異なる流れになっています。
アリエッタ自身が、ヴァシリス様の巫女であると言うご神託に、自ら気がつかねばらなりませんが、それがいつ起きるかわかりません。
たいてい、王立アカデミー入学の13歳ごろですが、それまでに巫女教育も必要ですし。
それに、ヴァシリス王子が、アリエッタに求婚されるのか、王命にするのか。
今日のご神託は、ヴァシリス王子が自覚なさって準備をするためのものでしょう。
ご神託を賜りやすくするならば、アリエッタがヴァシリス様と共に過ごせる環境と保護を先に準備していただく方がよろしいかと。」
「父上、セレステ様、今、考えがかわりました。
僕はプロポーズしたいです。アリエッタに自ら、僕を選んでもらいたいのでしゅ」
「ヴァシリス、なぜ、そう思うのだ?先程は、王命を出せと突っかかっておったであろう?」
「僕の巫女になるのは、ご神託だから、絶対でしゅよね。それに結婚まで王命にしたら、アリエッタの気持ちがすべて無視されてしまいましゅ。
せめて、結婚だけは、おたがいに好きになって、プロポーズしたいと、今は思いましゅ。」
「たしかにそうだな。わかった。ではこうしよう。
セレステ、其方は、私の側近の仕事で多忙なゆえ、妹のオランに、アリエッタを預けてはどうか?
側に置いて育てたいだろうが、其方が育児で、私の元を離れるのも、政務に差し支えがでるであろう。
ヴァシリスの乳母のオランなら、周りにも説明がしやすいし、全てを話して、守ってもらうしかなかろう。
アカデミー入学まで、ヴァシリスと共に育て、お互いを知り、切磋琢磨しながら、未来を作る時間を与えてはどうだろうか。
アカデミーに入学してしまうと、3学年差があるので、離れ離れにはなるが、2人とも海洋生物学で首席を取れば、海洋生物研究所で仕事ができる。
アリエッタがアカデミーを卒業するのが20歳。ヴァシリスが23歳なら、結婚話が出ても自然であろう。
ただ、この話は、我々しか知らない。アリエッタには、ご神託で本人が知るまで、話してはならないだろう。」
「エドワード様、お気遣い、ありがとうございます。」
「父上、アリエッタに何故、この計画を話せないのですか?」
セレステが口を開く。
「ヴァシリス王子。巫女とは、時の長れを、神々から受け取るものなのです。
人から聞くのではなく、巫女は自らがご神託で知らねばなないのです。」
「僕は何も話せないのですね。わかりましゅた。」
「ヴァシリスよ。大切な者に真実を語れぬ苦しみと言うのは、王家の者には、ついてまわる苦しみなのだ。しかしな、それを乗り越えてこそ、真の願いを叶える喜びもあるのだ。
強くなれ。我が息子よ。」
「父上、胸に刻みましゅ。」




