第二章 ヴァシリスの追憶 3歳その4
父上が話し始めた。
「ヴァシリス、これから話すことは、国家機密で、王家の者も全て知っているわけではない事だ。
国内、国外にかかわらず、情報が漏れると、アリエッタの命がない。それを肝に命じよ。」
「はいっ」
「ヴァシリス、アリエッタを妻にするのは問題ないのだ。
先ほど、セレステが言ったように、それに付随した問題が多々あり、其方とアリエッタが背負うべき問題が山積みである、と言う事が私が頭を抱えていることなのだ。」
父上は結婚には反対しなかった。問題が山積みだと言っただけだった。
「ヴァシリス、歴史で、巫女物語と言う昔話をきいたことはないか?」
「えっっと、みこものがたりですか?う〜ん。
あっ、、シーシェル王国の始まりの神話です。
えっと、、民の幸せを願っていた王さまが、神殿で祈ったら、美しい巫女があらわれて、神さまのことばをつたえて、国が豊かになったお話しです。
それから、国が困った時は、王さまが祈ると、いつも、巫女が助けに来てくれた。
でもある時、シーシェル国の豊かさを妬んだ、よその国の王子が、巫女さまをさらって、妻にしようとしたけど、巫女が受け入れず、殺されてしまい、神様がお怒りになり、もう巫女さまはあらわれなくなった、と、、」
「ヴァシリス、其方は賢い。よく覚えていたな。」
父上がほめて下さった。
「拐われた巫女は、よその国の王子の妻になるのを嫌だと、命をかけて拒絶したのは、しゅごいとおもいました。」
父上は、厳しい顔になった。
「ヴァシリス、もう一度、尋ねる。
私は、其方が聡明なのを知っている。だがまだ3歳だ。
これから成長するなかで、王位継承権の問題もでてくるし、悪い臣下からどんな甘言があり、裏切られるかわからない。これからの話は、国の根幹を揺るがす話しだ。それでも、死ぬまで、他言しないと、誓えるか?
もし、其方が漏洩するときは、私が其方の命を断たねばならぬ。私は王として、その覚悟があるから、其方と話をしているのだ。」
「はい!覚悟はあります。父上と、海の神ポセイダルゴにちかいましゅ。」
「わかった。その言葉、生涯、肝に命じよ」
「はいっ」
父上の話は、神話を越えていた。
そして、今なお、一代の王に、1人の巫女の存在があると言う。
巫女の存在は必要最小限の親い者を除いて、極秘だった。
この国で、新しい王が、国を司る時、巫女のオラクル《ご神託》を聴く。
巫女の娘は、次代巫女となる。目立たぬように、大切に守り育てられる。
そして、巫女の家系は代々ガブリエル侯爵家だ。
「セレステが私の巫女だ。」父上が怖い顔で言う。
「えっ、セレステ様が父上の巫女なのでしゅか」
目の前に、父上の巫女がいた。びっくりがまた増えた。
「そうだ、そして、アリエッタが、ヴァシリス、其方の巫女になる」
「わかりました。でもわたしゅは第三王子です。兄上たちがおられるのに、わたしが王になり、アリエッタが巫女になるというのでしゅか?」
「ヴァシリス、其方、やはり聡明だな。
それで頭を抱えているのだ。」
セレステも話してくれた。
アリエッタが生まれる時に、僕と同じ光景を見て、アリエッタは間違いなく、僕の巫女だと確信したらしい。
けれど、これまでの代々の巫女は、必ず王位を継承する者と光の調和があったらしい。
今、第一王子と第二王子がいて、第三王子に王位継承権が移ることは、ほぼない。
もし2人の兄を押し退けて王位を望めば、
お家騒動になり、下手をすれば、巫女の取り合いになる。そうなれば、巫女の存在はなかったことにせざるおえなくなる。
アリエッタが誰の巫女か、再度確認する意味で
先程、兄上たちをアリエッタと引き合わせたが、ラングドン兄上とパトリック兄上には、何も起こらず、最後に会った僕とアリエッタにご神託がおりた。つまりさっき見た《光の調和》が起きて、父上が頭を抱える事になってしまった。
先程、僕とアリエッタに起きた事は「光の調和」と言うそうだ。
昔、父上とセレステにも、光の調和が起きたし、近くで見ていていたから間違いない、という。
歴代の巫女の歴史で、巫女が0歳で、光の調和が起きた事例も、巫女が、調和の相手の妻になった例もないらしい。
「私とセレステのときは、13歳の時で、王立アカデミーに入学する前だった。
先代の皇后様がガブリエル家の女性を招いてお茶会をした時に、セレステがついてきていた。
王宮の庭で、虫取りをしていた私と、花を摘んでいたセレステと鉢合わせして、光の調和が起きたのだ。
当時の私は、すでに今の王妃と婚約していたし、
私の友人であるミカエラード公爵が、セレステを見初めて、王命で、2人を結婚させたのだが、
今回のような前例がなくてな。」
「セレステ様。他にご神託はないのでしゅか?
兄上が2人もおられるのでしゅ。僕はアリエッタを妻にできれば、王位などいりましぇん。」
「ヴァシリス、巫女は王のために現れるのだぞ。」
「父上、王にならじゅとも、国のためには尽くせましゅ。私は、海洋生物ヒーラーになりたいのでしゅ。海を救う事で、兄上の役に立ち、国の役に立てまちぇんか。」
セレステが、あっ!と声をあげた。
「エドワード様、私、アリエッタを産んでから、アリエッタのそばにいると、必ず海の潮騒が聞こえるのが、不思議でした。
先程、ヴァシリス殿下は、ポセイダルゴに誓われました。
もしかすると、海を護る王、と言う意味なのではありませんか?」
「うむ。ないわけではないが、ヴァシリス、なぜ、ポセイダルゴに誓ったのだ。」
「父上、わたしは、海が大好きです。
家庭教師の先生たちから、今の海は、他国から汚染されている、と聞き、海を護りたいと、思っていましゅた。それに、海で遊んでいると、ポセイダルゴ様に、よく会えましゅよ。」
「ええっ?そんな報告、側近からは聞いてないぞ。」
「ポセイダルゴ様は、側近や護衛官には、見えないのでしゅ。
きっと、アリエッタには見えるはじゅ。」
「ヴァシリス、ポセイダルゴ様は、どんな神様なのだ?」
「うーん、えっと、フォークのような先が3つに分かれているほこを持っていて、波のような型の王冠をかぶっていましゅ。
大きなクジラやシャチに囲まれて、海の中から上がってきましゅ。
あっ、僕は、1か月ほど前に、クールをもらいました。」
「クールとは何だ?」
「シャチで、ぼくのお友達でしゅ。
ポセイダルゴ様は、僕の家来にするようにと、クールをくれました。クールは海の馬みたいです。」
「何だと、ヴァシリス、シャチは獰猛で危ないと知っているであろう?」
「じぇんじぇん、こわくないでしゅ。僕の話は聞いてくれるし、どこでも連れて行ってくれまちゅよ。」
父上はまた、頭を抱えてしまった。




