第36話 世界の中心でマンゴスチンを食べたけもの!だまんごー。
「よし、これで魔法少女に変身できるぜ!」
不知火玄武は、マンゴスチン・ハートから、変身のための『始動キー』を聞き出した。
一方で、高村まんごは、まだその場を動けないでいた。
堀江沙耶香のビショビショおパンツの入ったビニール袋を握りしめながら、玄武から少し離れたところに、立っている。
人質の堀江沙耶香が、まだ解放されていないのだ。
沙耶香は、手をロープで縛られ、玄武のすぐ横の地面に座り込んでいる。
そして、口には『蓮根』を咥えさせられていた。
「ねぇ、沙耶香ちゃんを返してよ……。」
まんごが、控えめに声を出す。
「この果物型変身装置が本物だとわかったら、返してやるよ! まだ、俺がちゃんと魔法少女に変身できるかわからないのに、大事な人質を手放せるわけないだろ? まぁ、もう少しそこでおとなしく待ってろよ!」
玄武は、言い放つ。
「……。」
まんごはただ、玄武の言葉を、無言で耐えた。まだ沙耶香を人質に取られている以上、迂闊なことはできないのだ。
できるだけ玄武を刺激しないようにしなければならない。
まんごがマンゴスチン・ハートを渡したにも関わらず、人質の沙耶香ちゃんが解放されていない。まんごは、『不知火くんは、卑怯ものだな!』と言ってやりたかった。
しかし、我慢した。
「さぁ、変身するかぁ。それにしても、高村。よくこんな呪文を平然と唱えられるなぁ〜? お前、もしかして変態なんじゃねぇ〜の? ははは!」
「くっ……。」
玄武のさらなる暴言にも、まんごは必死に耐える。
もう少し我慢すれば、玄武が魔法少女に変身できないことがわかるはずだ。そう、玄武には資格がないであろうことは、まんごにはわかっている。
男では、魔法少女に変身できないのだ!
それまで耐えれば、マンゴスチン・ハートも沙耶香も無事に返してもらえるはずだ。
……そう考えて、まんごは、ひたすら我慢していた。
「さぁ、いよいよだ! 行くぜ!
マンマンマンゴスゴスゴスチーン!
赤黒の衣に包まれし、清らかなる純白!
溢れる甘き果汁をその身に浴びて!
果物の女王の誇りを胸に刻む!
不知火玄武! 妾は汝と共に歩まん!
マンゴスチン・ハート カジュー! ヒャクパーセントー!」
玄武は呪文を唱えながら、マンゴスチン・ハートを天に掲げた。
しかし、何も起こらなかった。
「おっ、おい! 何も起こらないじゃないか!」
玄武は、マンゴスチン・ハートに向けて怒鳴る。
(汝には、妾の主人としての資格が無いようじゃ……。汝では、『フルーツプリンセス』に変身できない……。)
「おい、お前! それはどういうことだ? 資格がない? ふざけるなよ! なんとかしろよ!」
(妾に言われても、無理なものは無理じゃ。もう一度言う、汝には、『フルーツプリンセス』に変身する資格がない!)
玄武は、怒りを顕にし、マンゴスチン・ハートをグッと握る。
その玄武の右腕は、怒りでプルプルと震えていた。
「こっのぉお! 果物のくせに生意気だっ!」
玄武は、怒りに任せて、マンゴスチン・ハートを地面に叩きつけた。
グシャッ
勢いよく地面に叩きつけられたマンゴスチン・ハートは、グシャリと形を崩した。
「きやぁああ! マンゴスチン・ハートぉー!」
まんごの叫び声が、体育館裏に響き渡った。同時に、まんごの目から大粒の涙が宙を舞う。
まんごは、玄武が魔法少女に変身できないことがわかれば、マンゴスチン・ハートも沙耶香も、無事に返してもらえるかもと考えていた。
そんな甘い考えは、マンゴスチン・ハートとともに砕け散った。
玄武の足元で、マンゴスチン・ハートも、泣いているかのように、白い果汁を流していた。
「んん〜!」
沙耶香も、『蓮根』からよだれを流しつつも、叫び、そして、大粒の涙を流した。
沙耶香が、まんごの方に視線を戻すと、まんごは呆然とその場に立ち尽くしていた。
遠くから見てもくっきりわかるほどの大量の涙を流しながら。
「クソォ! こんな果物なんか、こうしてやる! こうしてやる!」
崩れ去ったマンゴスチン・ハートの中からは、マンゴスチンの白い実がはみ出している。
果物型変身装置の中身は、一見して普通の果物の実のようだった。
玄武は、赤色の皮を真っ二つに切り裂き、中の白い実を、口に放り込む。
「おっ、意外に美味しいじゃねーか。はははっ」
玄武は、そのまま割れたマンゴスチン・ハートの中身を食べ続けた。
果物型変身装置の外は硬いが、どうやら中の実は柔らかいようである。
「……。」
まんごは、玄武の姿をただ呆然と見つめることしかできなかった。
大切な友人のマンゴスチン・ハートが、自分の目の前で、玄武に食べられている。
「ご、ごめんね……。マンゴスチン・ハート……。助けてあげられなかった……。」
まんごは、ただ涙を流した。
「へんっ、果物型変身装置ってのはなかなか美味しいもんだなぁ。ははは……。」
マンゴスチン・ハートの中の実を食べ終えた玄武は、立ち上がる。
「おい、高村! 俺が魔法少女には変身できなかったのは残念だったがなぁ。なかなか美味しかったぞ、お前の果物型変身装置は。はははっ」
玄武は大声をあげる。
しかし、まんごは玄武の声が耳に届かないくらいに呆然としていた。
「おい、高村! おい……。んっ……なんだっ、胸が苦しい! 頭が痛い……。」
急に、玄武は苦しみ始めた。
虫は果物型変身装置の欠片を食べて巨大化する。小さな欠片ですら、虫を巨大化させるほどの神秘的な力を持っているのだ。
玄武は今、その果物型変身装置を丸々一つ食べ切ったのだ……。
しかし、玄武は、体の大きさ自体は変わっていない。見た目にはほぼ変化がなかった。
「うわぁぁあああああああぁあああああああ〜〜〜〜。 (CV:宮村まんご)」
玄武は、空に向けて大きな雄叫びをあげた。
「……。」
玄武のすぐ横では、沙耶香が無言で蓮根からよだれを流す。
恐怖のあまり、体を小刻みに震えさせていた。
「ぁあ〜ああぁ〜、はぁ。はぁ」
玄武は目を赤く光らせ、まんごの方を睨む。
そして、肩で大きく呼吸をしながら、そろり、そろりとまんごの方に向かって歩く。
「えぇ……っ」
まんごは、恐怖で、無意識に後ずさる。
「ぁあ〜」
呻き声を上げながら、玄武はゆっくりとまんごに近づく。
果物型変身装置の欠片を食べた虫は、果物型変身装置を襲うようになる。果物型変身装置を食べた人間も、同様だ。基本は、果物型変身装置を求めて暴走する。
ただ、玄武は目の前にいるまんごを敵とみなしたようだった。
「うわぁああああああ〜〜」
玄武は、奇声を上げ、まんごに飛び掛かった。
「えっ……?」
高村まんごは、ごくごく普通の小学3年生である。
果物型変身装置を持たなければ、いたって普通の女の子だ。
何か特別な能力を持っているわけでもない。
果物型変身装置を食べ、巨大化した虫と同様に、果物型変身装置の力を体内に取り入れてしまった玄武の前に、まんごには、なす術は何もなかった。
「あぁぁああああ〜〜」
雄叫びをあげながら襲いかかる玄武を前に、まんごは何もできない。
まんごは、ただそこに立ちすくんでいた。
「きぃ……。」
まんごの叫び声は、かき消された。いや、声すら出せなかった。
もうすでに、まんごのお腹には、玄武のパンチが刺さっていたからだ。
(ご、ごめんね……。マンゴスチン・ハート……。)
まんごは、目に涙を浮かべ、地面に膝を突いた。
そして、そのまま、弱々しく地面に倒れこむ。
消えつつある意識の中で、遠くに見える沙耶香と目が合った。
沙耶香は、目に涙を浮かべて、まんごを見つめている。口に入れられた蓮根からはよだれが垂れていた。
「んんあ〜ンア〜」
声にならない沙耶香の叫び声は、呼びかける相手を見つけられないまま、彼方に消えてゆく。
まんごの目の前には、ビニール袋からはみ出た沙耶香のおパンツが落ちていた。
そう、今のまんごの力の無さを象徴するかのように、弱々しく地面に落ちている。
(沙耶香ちゃん……。ごめん……。)
まんごは意識を失い、ゆっくりと目を閉じてゆく。
薄れゆく意識の中で、まんごが最後に目にしたのは、真っ赤な……だった。
ドドン
次回に続く!
===============================
次回予告
消えゆく意識の中で、少女は力の無さを嘆いた
かつて、その兄が、力の無さを嘆いたのと同様に
運命の女神は、その少女にも過酷な現実を突きつける
目の前で失ったのは、大切な友……
そして、大切な力……
目の前に見えるものすら守れなかった
ごくごく普通の少女として、高村まんごは倒れた
彼女の視線の先に残された『赤』が導くのは……
赤黒く血塗られた未来か、それとも、赤く熱い血の滾りか?
次回!
魔法少女 マンゴ☆スチン A’s
『第37話 へぇ、あんたが菜奈って言うんだ祭り!だまんごー』
少女は生き残ることができるのか……?




