第113話 薄さを求めた、その先に!だまんごー。
「うわっ! また失敗しちゃった〜! えへん〜! ぴえん〜!」
高村まんごは、悲しそうに声を出す。彼女の手元では、粘土で作られたコップがグニャリと形を崩していた。
「まんごちゃん、どんまい! 私のはいい感じだよ! ほら!」
沙耶香は誇らしげに胸を張り、自身の目の前にある粘土で作られたコップをまんごに見せる。本人は誇らしげな顔をしているつもりであろうが、沙耶香の表情は、無表情のままであった。
彼女たちは、小学校の近くにある『萬古焼の里』と呼ばれる萬古焼の振興施設に来ていた。岩下真小学校の4年B組は、今日ここで萬古焼の体験をしているのだ。
この小学校では、小学4年生になると生徒たちは、萬古焼の体験学習ができるのだ。つまり、自分たちで、好きな形の萬古焼を作れる。
そして、彼女たちは、焼き物の定番であるコップを作っているのだ。赤茶色の粘土を小さいお手てでこねくり回し、クルクルと回るロクロのうえで、ぬっちゃねっちゃと粘土を優しく握り、コップの形へと成形しているのだ。
「ホントだねっ! さやかちゃん、めっちゃ上手だね!」
まんごは、沙耶香の作ったコップを笑顔で褒める。そして、自分のロクロの上に視線を戻し、ふぅ〜と小さくため息をついた。彼女の前のコップは歪であり、沙耶香の作ったものとは明らかに見劣りする出来である。
「どうした〜? 高村、上手くいってないのかぁ〜?」
そんなまんごのため息が聞こえたのか、クラス担任の岡本隆彦先生が彼女に声をかけた。
「う〜ん。そのぉ、私、頑張ってるんだけど……。さやかちゃんみたいに上手くできなくて……。」
まんごは、悲しそうな声を出す。
「そうかぁ……。じゃあ、先生がお手本を見せてやる!」
岡本先生は、そう言ってまんごの隣にあったロクロの前に座ると、それに粘土を置き、まんごに見せるためにコップを作り始める。
「あっ、はい。ありがとうございます!」
そう言って、まんごは岡本先生の手の動き、指先の動きに集中し、じっくりと観察した。
岡本先生は、萬古焼を作るのが上手であった。
粘土の窪みに優しく指を置き、華麗な指さばきで、ロクロの上で回転する粘土にコップの大枠を作った。そして、トロリとした粘土の表面が自分から指にねっとりと纏わりつくように形を作ってゆく。ぬちゃぬちゃとしていた表面も滑らかに潤いを帯び、テカテカと光るツルツルな肌へと生まれ変わっていった。まるで萬古焼が、喜んでいるかのように、ロクロからは、ウッ、アッと軋み声が聞こえていた。
「どうだ? 先生の指さばきは? 先生は、指先だけは器用なんだ」
アッーーー! という間に出来上がったコップは、粘土で作ったとは思えないほど薄かった。あまりの薄さにその粘土の赤茶色は、背後の太陽の光を浴びて、熱った肌のような赤みを映し出していた。
「たかさん先生っ! すごいっ! 美しい萬古焼だっ!」
「ほんと! たかさん先生! すごいっ! 綺麗な萬古焼ねっ!」
まんごがパチパチと手を叩くと、その横で沙耶香も一緒になって手を叩いた。ちなみに、このコップはまだ焼かれていないので、正確には萬古焼ではなかったが……。
「へへぇ〜。すごいだろ〜? 先生が夜な夜な練習して辿り着いた境地。薄さを追求した萬古焼。その名も『オカモト・オリジナル』だっ!!!」
岡本先生は、胸を張った。そして、ロクロからそのコップを切り離し、他の生徒からも見えるように、それを持って立ち上がった。
「いいか、高村! そして、みんな! 君たちは、何度失敗したっていい。転んだっていい。その度に立ち上がるんだ。そのうちの何度かは、先生や親、周りの大人たちが助けてくれる。でも、君たちは、転んだ時に、自分一人で立ち上がることを学ばないといけない。社会に出たら、誰も助けてくれない。転んだ時、何かに負けた時、打ちのめされた時。そんな時に、立ち上がること。それを学ぶのが、学校だ。それを教えてくれるのが、萬古焼。そして、それを教えるのが、俺たち教師の役目なんだ!」
萬古焼の体験教室の部屋にいた生徒たちの視線を集めた岡本先生は、生徒に向かってありがたいお言葉を言う。子どもたちが、この萬古焼を通して、大事なことを学んでくれるようにと、願いを込めて言った言葉だ。
「そう。転んだっていい。失敗したっていい。でも……、立ち上がれっ! 前を向け。君たちの人生は、まだ始まったばかりなんだ!」
岡本先生は熱く語った後、まんごの肩をポンと叩いた。
「はい。先生。私……。頑張ります。先生みたいに、きっと素敵な萬古焼を作ってみせます!」
まんごは決意を新たに、コクリと大きく頷いた。
そして、彼女は、ロクロの上にあった、グニャリとしたコップになりかけの粘土に、手を伸ばした。
まだ幼く細い指先で、滑らかに潤った赤茶色の粘土の窪みに優しく指を添えた。指の腹で、クイッ、クイッと優しくも強く、力を加えるとその力に呼応するように、粘土は形を変える。それは、まるで快感のために体をくねらせる女子のようであった。ロクロの上をクルクル、クルクルと回転する粘土は、触れられた指先の力に敏感に呼応する。
粘土も指先の力を感じ、また、まんごも指先で粘土を感じた。指の腹を通じて繋がりあったまんごと粘土は、お互いに息を合わせる。まんごがウッと力を加えると、粘土はウッと反応する。ウッ、ウッとリズム良く、まんごは指先に力を加える。焦らず、じっくりと、指先で相手の反応を感じながら。
「しっとり……。滑らかな萬古焼……。」
まんごは、指先に滑らかさを感じた。その粘土の表面は、指で上手に整形され、綺麗で滑らかになった。しっとりツルツルだった。それは外から見ても明らかなほどに。
「いいぞっ! 高村っ! いい感じだっ!」
岡本先生は、まんごの作っているコップの表面が、いい感じに潤ってきたのに気が付く。気持ちの持ちようが変わったのか、先ほどとは打って変わったような出来栄えである。岡本先生は、嬉しそうにまんごに笑いかけた。
「はいっ!」
まんごも、満足げに笑い返す。
こうして、まんごたち4年B組の生徒たちは、せっせ、せっせと萬古焼を作ったのであった。
――――――――――――――
『萬古焼の里』の中には、資料館もあった。午前中に萬古焼の体験をしてコップを作った4年B組の生徒たちは、お昼にお弁当を食べた後、この資料館の見学に来ている。
「アッーーー! これ見て、さやかちゃん!」
まんごが、沙耶香に喋りかける。彼女の指先には、古い書物が展示してあった。
「う〜んと……。これ、何て書いてあるの?」
沙耶香は、まんごの指先の書物の表紙に目をやったが、彼女は、そこに書かれている漢字が読めない。
この書物には『魔法的少女裏々刈菜乃花』と書いてあり、この書物の横にある書物には、『魔法的少女円香魔技香』と書いてあった。しかしこれらは、普通の小学4年生にとっては難しい漢字だ。
「ええとねぇ〜。たぶんね。『まほうてきしょうじょりりかるなのはな』かな? あとその横のやつには、『まほうてきしょうじょ』。う〜ん。『えんかまぎか』かな? あんまりよくわからないけど……。」
まんごは、国語が得意なので、こういった文字を読むこともできる。完全に正確ではないかもしれないが、一応、読めるのだ。
「すごいね、まんごちゃん! こんな難しそうな漢字も読めるんだ〜。で、この本、魔法少女ものなんだ……。へぇ〜、すごく古そうなのに、魔法少女ものなんだ……。もしかして昔にも、まんごちゃんみたいな魔法少女がいたのかもしれないね?」
沙耶香は、感心した声を上げる。そして、魔法使いのことについては、声のボリュームを少し落とし、まんごの耳元で話した。
「そうだね。いたかもしれないね……。それに……。なんというか、この書物たち。見たことある気がするんだよねぇ……。」
まんごは、気持ち悪げな表情で、首を傾げた。
「そうなんだ。あっ! あの既視感ってやつ? 見たことがないはずなのに、見たことがあるように感じるやつ!」
「そうかもしんないね……。でも……。」
沙耶香の言葉に、まんごはゆっくりと頷く。きちんと納得したわけではなかったが、以前に読んだことがあるはずもない書物だったので、そう納得するしかなかった。ただ、まんごは、この書物たちに懐かしさにも似た不思議な感覚をも感じていた。
「アッーーー! これ、ななちゃんのお父さんじゃない?」
まんごが書物の近くの説明欄に目をやると、そこには、この書物の寄贈元が書いてあった。そこにあったのは『的場光一』の名前である。まんごのクラスの『的場菜奈』の父親だ。まんごが最近通っている的場道場の師範でもある。
「ねぇ! ななちゃんっ! これっ! ななちゃんのお父さんだよねっ?」
まんごは嬉しくなったのか、大声で叫んだ。最近、まんごは、小学校のクラスの中では、的場菜奈のことを下の名前で呼ぶのだ。
「あぁ……。そうだ! この古い書物たちは、家の蔵から出てきたんだ。たくさんあったから、一部をこうやって資料にって、寄贈したんだ。でも、家の蔵にもまだまだたくさんの本があるんだけどな」
まんごに呼ばれて彼女たちに近づいてきた菜奈は、寄贈の経緯を説明した。菜奈の家は代々、的場鍬形流の道場であり、その敷地内には大きな蔵もある。この書物たちは、その中で発見されたわけだ。
「そうなんだ。じゃあ、ななちゃん。これって読んだことあるの? おもしろかった?」
「エッチなの書いてあった?」
まんごが菜奈に訪ねると、まんごの横から沙耶香も横入りし、菜奈に訪ねた。
「うん。読んだけど……。エッチなのは……、その……。」
まんごと沙耶香の質問に、菜奈は、顔を真っ赤にして答えた。
(あっ……。エッチなのあったんだ……。)
と、まんごと沙耶香は、すぐに察した。そして、真っ赤な顔の菜奈の横で、まんごと沙耶香は、お互いに目を合わせる。
菜奈はまだ小学4年生であり、書物の中の文字をちゃんと読めないであろうから、きっと挿絵か何かで、エッチな何かが書かれていたのであろう。
こうして、まんごたち4年B組の校外学習も無事に終わったのである。
何事もない、至って平和な1日であった。
ドンッ!
次回に続く。
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やっほ〜!
私、高村まんご。小学4年生の魔法少女兼同人作家。
今日も元気に小学生やってます。ほんで、あれよ。校外学習的なやつよね。うん。前回に引き続き、学校の外からお送りしております! ってわけね。
ね。
たかさん先生、かっこいいこと言ってるよねー。
でも、実際作ってるのは、すっご〜く薄い萬古焼だけどねー。
てか、や〜っと岡本先生の名前の伏線が回収できたよ。長かった〜。これのためだけに先生の名前が岡本になってたんだよ。岡本先生の初登場はいつのことだっけ?
5年くらい前かなぁ〜? ははは、忘れちった〜。てへぺろ。
5年越しの伏線回収! どやっ!
え? 伏線? ネタ? なんのことかわからないって?
ふっふっふっ〜! お子ちゃまねっ!
大人になったらわかるんだよっ!
え? あぁ、私は大丈夫。まんごちゃんは、エロ孔明で有名だから。うん。
わからないお子ちゃまは、パパとママに聞くといいよ(笑。
そゆことっ!!
んで、書物ね? いやぁ! 伏線? かな? えぇ〜?
みんなも既視感を感じてるって?
そりゃ、まぁ、あれだ。あれだよね……。はははっ!
この辺のこと、既視感も含めて、綺麗にわかるといいよね〜。そうだよね〜。そのうちきっとわかるって。さぁ、きっと〜!
え? 書物の薄さ? えぇ〜なんでそんなこと聞くのかなぁ〜?
あ〜、でも、薄かったよ!
私、展示されてるやつをちゃんと見てきたけどね。たしかに薄かったよ。でも、中は見れなかったんだ……。
あっ、でも、ななちゃんが顔を真っ赤にしてたから、きっとエロい何かが描かれてたと思うんだけどね〜。
ふぅ〜ん。薄いのかぁ〜。
ふぅ〜ん。エロいのかぁ〜。
……いやっ。同人作家の私にも、よくわからないね……。うん。そういうことにしておこう。
そんでね〜、次回ね〜。また遥さんがよくわからないところからネタを持ってきてるよね。これ、元ネタわかる?
しかも、何でこのタイトル?
ジーンって誰やねん?
もぅ〜わけがわからないよ。
……まぁ、でも。こういうのもいつものこと。はい。ということで。次回も〜よろしくっ!
次回!
魔法少女マンゴ☆スチン Reincarnation
『第114話 よくもジーンを!だまんごー。』
だよっ!
絶対に読んでねっ!
マンゴスチン! カジュー! ヒャクパーセントー!




