殺人者の沈黙
共犯となって半年がたった。
玄関のインターホンが鳴る。
そこには、永花がいた。
「どうしたの、こんな夜遅くに」
「話したいことが、あるんです 」
真剣そうな顔つきをしていたため、私は中に入れた。
適当にお茶を出すと、永花は暗い表情で椅子に座った。
「響香さん、どうして、暗い顔してるんですか」
「......わかるでしょ?」
「......聖花が、いないからですか?」
「.......」
「どうして、私じゃダメなんですか? どうして......!」
「聖花じゃないからだよ」
「......っ! どうして、どうして、あいつ、あいつ、ばっかり......!」
永花は今まで見たことのないようなおぞましい形相をしていた。
そして、カバンからナイフを取り出し、私の方に先端を向ける。
「貴方が、悪いんですよ、私のものに、なってくれないから......!」
永花がナイフを持って襲いかかってくる。
それを避けて、包丁で永花の腹を突き刺した。
「............え?」
永花は困惑した表情で倒れる。
血を吹き出し、震えながらこちらを見上げた。
「どう、して.......」
◆
初めて会った時に聖花が言った言葉。
『病気で容姿が醜かった』
永花が初めて聖花と出会ったのは、三ヶ月前。
そして、三ヶ月前、聖花を殺したあの男と付き合っていた聖花は突如電話口でしか話さなくなった。
それは、整形したからだ。
加えて、八ヶ月前。私は聖花と瓜二つの人物に出会った。
そこから、聖花がストーカーいについて訴え始めるようになった。
最近よく家に来るようになった永花の毛髪を採取するのは容易だった。
それを、聖花との遺伝子検査を依頼したところ、DNAが一致した。
元から、聖花の偽物がいることは疑っていたが、遺伝子検査の鑑定結果から、間違いないという確信を得られた。
やはり、全てを仕組んだのは、永花だったのだ。
あの時、永花は言った。
『この手で復讐したい』と。
私も同感だった。だから、決めたのだ。
復讐をすると。
◆
「気づいてたからだよ」
永花はそのまま沈黙する。
もの一つしない部屋の中で、孤独感が突きつけられる。
睡眠薬を飲んだが、まだ眠れそうにない。
電話が鳴った。
非通知からだ。
応答し、耳元にスマホを当てる。
「響香ちゃん」
その声は、聖花のものだった。
「仇、取ったよ」
「そんなこと、どうだっていいよ。それよりも、どうして、私の死体、放置したの?」
「え?」
「どうして、弔ってくれなかったの?」
「違っ、私は、聖花のために......」
「自分のため、だよね......?」
「......っ!」
「ねえ、響香ちゃん。自首して。そして、私のこと、見つけ出して」
「......わかった」
「約束、だよ.......」
電話が切れた。
◆
自首をして、私は事件の全容を話した。
死体の埋められた場所も、何もかも、話した。
男の死体も、聖花の遺体も、発見された。
数年後、聖花の墓前に手を合わせる。
あの時、電話で聞いた聖花の声は、本物だったのだろうか、それとも幻聴だったのだろうか。
静かに、目をつむる。
沈黙が流れる。静寂が孤独感を逆撫でる。
「私も、そっちに行くかも.......って言ったら、怒るよね」
立ち上がり、前を向く。
この孤独の世界を、私は今日も生きていく。
沈黙の呪いが無くなる日は来ないかも知れない。
だけど、生きていくしかないのだ。




