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馴れ初め

聖花は、私にとって恩人だ。

昔から、暴力でしか人と付き合えなかった私は、殴って人を従わせてきた。


私が受けるのは恐怖の感情。それこそが繋がりだと勘違いしていた。



高校二年生の頃、私は孤立していた。


そんな私に唯一声を掛けてくれたのが聖花だった。


「おはよう響香ちゃん! 今日もかわいいです!」


「あ?」


「かわいいは嫌でしたか......なら、最高にクールです!」


「.......お前、毎日毎日そんなこと真顔でよく言えるな......」


「顔赤いですよ響香ちゃん、保健室行きます?」


「行くか! ほんと、お前といると調子が狂う......」


「ええ、そうですか? なら私ずっと近くにいたいですね」


「ぶっ飛ばすぞ」


「本気に聞こえます.......」


「どうして、いつも私に話しかけてくるんだよ.......私は、すぐに暴力を振るう最低な人間だぞ」


「.......違いますよ、響香ちゃんは最低な人間なんかじゃないです。ただ、人と対等に接するのが怖いだけですよ」


私は、とっさに胸ぐらを掴んでいた。

「怖くなんてねえ!」


聖花は私の腕を触る。

「......ほら、手が震えてるでしょ」


たしかに、腕が震えていた。

聖花を突き放し、距離を取る。


「近づくんじゃねえ」


「......響香ちゃん、私は──」


駆け寄って来る聖花を反射的にぶっていた。

『きゃっ』という短い声を発し、聖花は床に尻もちをついた。


頬は赤くなっていて、こちらを見つめる目が少し怯えている。


頭が真っ白になった。


「ごめん、だい、じょうぶ......か?」


しかし、こちらを怯える目を見て、どこか安心してしまう自分がいた。

それが気味悪くて思わずその場から逃げ出した。


「待って......!」


その声を振り切って、走り出す。

とにかく、遠くへ走った。目的地があったわけではなく、ただその場から少しでも離れたかった。


そして、気づけば私は校舎の裏側にいた。


しゃがみ込み、空を見上げる。

視界に映る雲や鳥たちが流れていき、何も考えられなかった。


「やっと、追いついた」


その声は、聖花だった。

慌てて立ち上がり、逃げようとする。

しかし、腕を力強く掴まれてしまった。


「触るな......!」

思わず拳が飛び出す。


聖花は鼻血を流していた。

しかし、今度は怯えた目をせず、真っ直ぐにこちらを見つめていた。


「響香ちゃん、私は、怖くないですよ」


どうして、逃げ出さない。

どうして、怯えた表情をしない。

どうして、私を恐れない。


私の体は震えていた。


「私は、貴方のこと、怖くないです。だって........................好きだから......!」


一瞬、頭が真っ白になる。

「............はあああ?」


「だからお願いです、貴方と、恐怖による縛りなんかではなく、対等な関係としてお付き合いさせてください!」


生まれて初めて向けられた真っ直ぐな好意だった。


「........................いい、けど」


「そ、それはオッケーということですか!」


「......そうだよ」


「やりましたーーーー!」


「うるせえ!」




それが、聖花との馴れ初めだった。




部屋が静かだ。

余計な思考が逡巡する。


沈黙が恐怖を駆り立てる。

自分が孤独に陥っているのだという恐怖に。


「仇は殺したのに、まだ、まだ足りないのか?」


体が震えている。

怖い。怖い。怖い。


一人が怖い。



棚から睡眠薬を取り出し、摂取する。

最近ではこれでも眠れなくなってきた。



そんな時、スマホが鳴った。


画面を見ると、非通知からの着信だった。


「............」


もうどうなってもいい。

スマホを手に取り、応答した。



「響香ちゃん」



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