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愚者の楽園に転移したけどまったく問題ない  作者: 長城万里
4 俺たちの戦いはこれからだ

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201/205

201 ビリー・マッカーティ

俺の名前はビリー・マッカーティ、流れ者のギャンブラーだ


小さい村に生まれて15のときに旅に出た

現在28歳、旅立ってから13年も過ぎたんだな

まあ村に大した想いはないから感慨もないさ


ガキの頃から勝負事が大好きだった

他のガキどもに勝負を仕掛けて勝ちまくっていた

まあガキだから賭けるのはもっぱらおやつだったがな


旅に出てからはカモになりそうな奴を見つけては仕掛けた

そうして稼いだ金で悠々自適に旅を続けている


「ここがブリタニカ王国か」


この国は港町から近いため観光客、商人、冒険者などの出入りが多い

他の大陸からも来ているから娯楽施設もたくさんだ

カジノもその一つ


このフーテン大陸の東側にあるパラボラ大陸でかなり稼いできた

だから旅の路銀は超余裕だ


だがせっかくカジノがある場所に来たんだ

ちょっと寄って行こう




カジノの案内所にある掲示板にダイスゲームのディーラー募集があった


俺はダイスゲームでこれまで稼いできた

もちろんカードもやるが俺はダイスが好きだ


たまには客ではなくディーラーというのも悪くない

カモになりそうな客から稼ぐのもアリだな

まあ店側の利益になるだけで俺に丸ごと入るわけではないがな

懐は余裕だから別に構わないのでやることにした


ダイスの持ち方、振る角度、振る力加減などで出目を操作する

もちろんちょっとしたズレなどで失敗することもある

だが100発99中の腕前だから問題ない


客が小賭けしているときは10回中9回は勝たせるようにしている

そして気が大きくなって大賭けしたときは狙い撃ちして負かす

こいつが俺のスタイルだ




結構ディーラーが楽しくて数日滞在してしまった

そんなある日、晩飯を食べ終えて宿へ戻る途中に声をかけられた


「こんばんはお兄さん」

「なんか用か坊主」


こんな夜中にガキが一人歩きかよ

フード付きのコートを着ているし暗いので顔はよくわからない

だが背は低く声も少年だったのでガキだと思った


「カジノでダイスのディーラーやってますよね」

「ガキのくせにカジノに出入りしているのか?」


「ええ、父に付いて見学させてもらっていますので

 いわゆる社会見学ですよ」


ということは客じゃなく運営側の誰かの子供ってとこか

でもこんなガキを連れている奴は見たことないな

俺たちディーラーと顔を合わせない部署の奴かな


「それでこんな時間にガキが一人でなにしに来た」

「あまりガキと呼ばれるのは好きではないのでやめて下さいませんか」

「そうかよ、じゃなんて呼べばいい」


お偉いさんのガキだったら面倒なので言うとおりにしよう


「私の名前は、ディーとお呼び下さい」

「わかった、ディーだな」


ガキのくせにしゃべりが丁寧だな

やっぱ良いとこのボンボンかもな


「それで俺になにか用か?」


「お兄さんが使っているダイス、もう古いですよね

 振るときに苦労していませんか」


俺のディーラーぶりをどこかで見ていたのか?

こいつの言うとおり俺のダイスはかなり使い古されている

村にいたときから使っているからな


でもそのため振る時の技量がかなり必要になる

以前よりも出目の操作が難しくなったのも事実だ

新しいダイスでやった方が操作しやすい

けれど愛着もあるからなかなか新しいのを買う気が起きない


「そのダイスはお守りにでもして新しいのを使いませんか」

「お守りか、そうだな、そうするしかないか」


いい機会だ、こいつの言うとおり新しいのを買うか

そう思っていたらディーがダイスを腰の小袋から取り出した


「このダイスを差し上げますよ」

「変なダイスじゃないだろうな?」


ガキが夜中に一人歩き、俺の素性に詳しい

そして新しいダイスを渡す方向に話を持っていっている

こいつはただのガキじゃない、俺の勘がそう警告を告げている

怪しい、なにが目的だ?


「疑っていますね? そりゃ疑いますよね、ごもっともです」

「お前、さっきの嘘だろ」

「さっきのとは?」


「父親に付いてカジノを見学しているってやつだ

 カジノの運営関係者の息子なら貴族か準ずる者だ

 護衛も付けずにこんな夜中に一人でうろつかねえよ

 それに妙に大人びている言動や態度、何者だお前」


「やはり簡単に騙されてはくれませんか、さすがです」

「お前が何者で目的はなんなんだ?」


「私はディー、いずれこの世界を支配する者です」

「はあ?」


やっぱガキだな、世界征服とか夢見てるのかよ


ディーはフードを取り俺に微笑む

肩までの長さの茶髪で前髪が長く左目を隠している

見えている右目は妖しく赤色に輝いていた


ゾッとした、ただのガキじゃないと俺の本能が言っている

本当に世界を支配できるのではないかとさえ思ってしまった


「まあ信じてもらえるとは思っていませんよ

 もちろん私一人の力では難しいでしょう

 なので味方を探している最中なのですよ」


「・・・もしかして俺を仲間に引き入れようとしているのか」

「理解が早くて助かります」


世界征服の仲間集めだと?

そして俺もその一味になれということか


「断るとどうなる」

「どうもなりませんよ、残念ですが諦めるだけです」


ディーが再度ダイスを俺に差し出す


「もしも味方になっていただけるならこのダイスをお譲りします」

「おいおい、世界征服の仲間になる報酬としては安すぎやしないか?」


たかがダイス一つのためにそんな危険な橋を渡れるかよ


「このダイスはただのダイスではありません」

「どう見ても普通のダイスだが?」


「では<1>から順に<6>まで出しましょう」

「なにを?」


ディーはしゃがみ、ダイスを振ると<1>が出て続けて振っていく

<2>が出て、宣言どおり順番に<3><4><5><6>と出た


「それぐらい技量があれば可能だろ、すごいとは思うけどな」

「では奇数を出して下さい、絶対偶数になりますから」


そう言ってダイスを渡される

俺は奇数が出るように振る

しかし<4>が出た


「たまたまだと思われたら困りますので10回ほど奇数を出すように振って下さい

 全部偶数になりますから♪」


俺は10回とも奇数にするように振っていく

しかしすべて偶数となった


「バカな、なんだこのダイス」


ディーが魔法などで動かしている気配はない

いくら俺でもここまで失敗することはない


「次の10回は全部奇数にしてあげて」


ディーはダイスを持ってダイスに語りかける

ダイスに奇数にしろと語ってどうにかなるのか?


「それじゃ次の10回は適当になにも考えずに振ってみて」

「そんなんで全部奇数になるのかよ」


わけがわからんが技を使わず適当に転がす

すると10回とも奇数になった


「どうなってんだ・・・」

「このダイスはね、生きているんですよ」

「はあ?」


「じつはダイスの精霊なのです」


世界征服の次は精霊だと?

だが出目の件やディーの様子から俺は半信半疑、ようは信じかけている


「精霊だからこっちの出したい目を出してくれるってことか?」

「やはり理解が早くて助かります」


ディーはダイスを手の平に乗せる


「さあ、新たなパートナーに挨拶を」

「初めまして、あたしはダイスの精霊です♪」

「んあっ!?」


ダイスから声が聞こえた

あたしって、女かよ!


「ああと、俺はビリー、あんたはダイスの精霊ってことなのか?」

「ええそうよ、どうかしら、あたしをパートナーにしてくれるかしら?」


古いダイスで最近は出目の操作に苦労していた

しかしこいつを使えば技量に関係なく出目を操作できる

だがこいつをもらうと世界征服の一味にならなきゃならない

俺は考える、悩む、迷う、そして答える


「こいつをもらったらお前、ディーの仲間になるってことなんだな」

「そういうことですね♪」


俺はそっとダイスをディーの手の平から受け取る


「いいぜ、仲間になってやる」

「ありがとうございます♪」


世界征服なんて夢物語、ダイスの精霊なんざ摩訶不思議

こんな面白そうなこと乗らなきゃ損だぜ!

これこそ一世一代の大博打だ


「それじゃあたしに名前を付けてちょうだいビリー」

「ダイスの精霊だろ、ダイスでいいんじゃないか?」

「ダメよ、あたしたち精霊はパートナーに名前をもらうことになっているの!」

「お、おう、そうか」


顔はないがなんかふくれっ面の女に怒られた感覚だ

仕方がないので名前を考える


「じゃお前の名前はロールだ」

「あら悪くないわね♪」


ロールの六面体の身体が輝いた


「これで契約成立よ」

「名付けが契約の証しか」

「そういうこと♪」


こうして俺とロールはパートナーとなった


「それで俺はなにをしたらいいんだ?」


世界征服の一味になったんだ

ディーからなにか指示があるだろうと思ったので聞いた


「特にないですよ、今までどおり生活して下さい」

「世界征服のためになにかするんじゃないのかよ」


「まだ今は準備期間なのです、本格始動までご自由にして下さい

 計画が動き出したときはこちらから連絡します」


なんか拍子抜けだな、どっかに攻め込んだりとかするもんだと思ってた


「じゃ今までどおり旅を続けてもいいんだな?」

「はい、計画始動まではご自由にどうぞ」

「わかった、好きにさせてもらう」


ディーは一礼して去って行った

俺とロールは翌日からカジノで荒稼ぎを始める




これまでどおり小賭けではそこそこ勝たせる

いい気になって大賭けしたところを負かせて稼ぐ

ロールは俺の指示通りに動いてくれるので助かっている


そして今日も一人のカモが来た

身形はそれなりだが冒険者だとわかる男


3回で1億勝たせた

そこで泣きの一回ということで勝負を仕掛ける


念入りに台やトレイやダイスを調べる男

ロールは鑑定ではダイスという名称しか出ない

だから精霊だとはバレない


男に振らせることによって運否天賦と思わせる

男は偶数に賭けた、そしてダイスを振ろうと手を伸ばす


しかし男は一瞬手を止める

そしてゆっくりと親指と人差し指でそっと挟んで掴む


「お前、まさか・・・」

「気づいたかビリー」 ニヤリ(悪い顔)


なんとまあ姑息な手を使う

イカサマしている俺が言うことではないがな


だが残念だったな、その姑息な手すらも無意味なんだよ♪


男は両指を優しくそっと離す

普通のダイスならそのまま転がらず着地するだろう


カコーン!


「なん・・・ だと・・・」


だがそのダイスは生きている

俺のパートナー、ロールが着地とともに跳ねる

そして出目は<5>、奇数が出たので男は負けて俺たちが勝つ


愕然とし、悔しそうな顔の男、楽しいねえ♪


男はチップカードの残高もすべて吐き出してトボトボと去って行った


「よくやったロール♪」

「当たり前よ、あたしたちは最高のコンビなんだから♪」


こっそりロールと喜び合う

ディーラーの仕事は今日までだ

明日からはまた流れ旅

ロールと一緒に大冒険だ♪

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