193 師匠
俺は終わったと思った
しかし爺さんの拳が見えない壁にぶつかる
「んん? なんじゃ、なにか硬いもんがあるのう」
「今よブルー!」
「承知!」
バリバリバリ
「ぬぐぅっ!」
爺さんにブルーの雷撃が当たる
見えない壁に囲まれているためその場から動けなかった爺さん
どうやらサクラさんが結界で爺さんを閉じ込めたようだ
これでようやくダメージを与えることができた
「なかなかやるではないか、さすがに堪えたぞ」
そのわりには倒れないし、まだ充分戦える様子だ
「まだ倒れぬか、ならば倒れるまで喰らうがいい!」
ブルーが雷撃を再び放つが爺さんはまだ耐える
数発喰らわすが倒れない、闘気で弾いてダメージを軽減させているようだ
しかしさすがに膝をついた
「サクラさん、これだけ弱らせたらいけるはずだ」
「やってみる!」
サクラさんが両手を天にかざす
キラキラと光の粒子が舞う
「ホーリーライト!」
光の粒子が爺さんの身体を覆っていく
「ぬぐ、ぐわあぁっ!」
苦しむ爺さん
ごめんな、ゴーストを引きはがしたらすぐに治癒するから耐えてくれ
爺さんの身体からゆらゆらとなにかが出てきた
はっきりとした形のない物体、いや霊体か
ふわふわと宙に浮いている、こいつがゴーストだ
「ホーリーアロー!」
サクラさんがすぐに光の矢をゴーストへ撃ち込む
光の矢に貫かれたゴーストは霧散する
これでゴーストは討伐できた
俺は爺さんのところへ急いで駆けつける
「エクストラハイヒール!」
すぐに爺さんを治癒する、雷撃による火傷や傷が治っていく
体力も少しは回復するのですぐに動けるようになるだろう
ひとまず爺さんを小屋に運ぶ
「おじさん、おじいちゃんは大丈夫なの?」
「大丈夫だ、怪我を治して体力も回復させたから」
心配そうに爺さんのそばいるアカシア
俺とサクラさんはベンケイさんたちの治癒をしていく
「うう、早々に戦線離脱してしまったでござる」
「しょうがないよ、気にするなアオイくん」
かなりの距離を飛ばされ木にぶつけられたアオイくん
背中を強く打ちつけて動けなくなったからな
「この爺さん、強過ぎだぜ」
「だよな」
ベンケイさんのサンドバッグが通用しなかった
格闘戦でベンケイさんが圧倒的に負けた
「ボク、頑張ったよー」
「軽く投げ飛ばされてしまいました、不甲斐ないです」
ポチャとヨシツネが落ち込む
「我と御主人様のおかげだ、感謝するがいい」
「みんなの協力があったからでしょ、そういうこと言わないの」
「はっ、申し訳ありません御主人様」
ブルーがドヤっている、うざい
でもブルーの雷撃とサクラさんの魔法でなんとかなったのも事実
ドヤるブルーはうざいが一応感謝しといてやる
「ごめんなさいお兄さん、私が魔法使えないから」
「仕方がないだろ、それは俺のせいでもあるんだから」
「それもそうですね」
「おいこら」
まったくアンナめ
「んぬぅ・・・」
「おじいちゃん!」
爺さんが起きた
「爺さん大丈夫か、治癒はしたけど身体におかしいところはあるか?」
取り憑かれていたんだ、なにか異常があるかも知れない
「大丈夫じゃ」
「そうか、なら良かった」
「それでお主らは誰だ?」
「わたしが依頼して受けてくれた冒険者さんたちよおじいちゃん」
「そうか、ちゃんと依頼書を出せたんじゃな」
「ううん、直接依頼したの」
「なんじゃ、直接依頼なんて危険なことをしたのか」
まあ危険だよな、ギルドを通さないから騙されたりもするし
「そこら辺の経緯は俺が説明するよ」
アカシアがギルドで依頼を断られたこと
俺たちが話を聞いてここへ来たことを大まかに説明する
「そうか、それは助かった、ありがとう」
爺さんは頭を下げて礼を言う
それから俺たちは自己紹介をして爺さんのことも教えてもらった
爺さんの名前はリキュールさん
元Sランク冒険者で拳士、85歳
こんな85歳を俺は知らんぞ
引退後はこの森で修行がてら暮らしているそうだ
ついでにここで弟子の育成も行っていた
2年前に最後の弟子二人が旅立ってアカシアと二人だけになったらしい
「リキュールさん、その弟子はゼンとコホウって奴か?」
「なんじゃお主、ゼンとコホウを知っとるのか」
「おじさん、ゼンさんとコホウお姉ちゃんのこと知ってるの?」
やっぱりそうか
ゼンが波動掌、コホウが竜巻落としを使っていたからな
ゼンとコホウ、一緒にウソピョン討伐をした拳士の二人だ
師匠がウソピョンを数体倒しているとか言っていたな
たしかにリキュールさんなら倒せそうだ
俺はそのときのことをリキュールさんに話した
「あやつらまだまだ未熟じゃのう、今度会ったら修行のやり直しじゃ」
「俺は助けられていたからあまり責めないでやってくれ」
「そうじゃの、ワシもお主らには助けられたから許してやるか」
リキュールさんは話をしている間に完全回復した
本当に85歳か?
「もう夜じゃから今日は泊まっていけ、夜の森は危険じゃ」
「ありがとうございます」
食事をいただき、泊めてもらった
小屋はそれなりに大きかったので寝る場所も確保できた
もともとたくさんの弟子がいたので大きめな小屋にしたそうだ
「ケンタ、爺さんの弟子と知り合いだったんだな」
「ああ、あのとき以来会えていないけどな」
まだアンナと二人旅を始めたばかりのことだった
だからベンケイさんたちは二人のことを知らない
それにしてもあの二人の師匠と出会えるなんて縁があるのかな
ゼンとコホウは今頃どこを旅しているのだろうか
などと懐かしみながら眠りについた
「おじさんたち、本当にありがとう」
「不肖の弟子どもに会えたらよろしく伝えてくれ」
「そうするよ」
「そうだ、これ報酬です」
アカシアが1万円を差し出す
「いらない」
「お兄さん、タダはダメだって言ったでしょ」
「タダもなにもこれは依頼じゃないからな」
「なに言ってんのお兄さん」
「だって俺、依頼書に受諾のサインしてないもん」
「あ、そういえばしていませんでしたね」
アンナが「はあ」とため息をついて軽く俺を睨む
アカシアが「どういうこと?」という顔で首をかしげる
ベンケイさんたちはなんか生温かい目で微笑んでいた
「ケンタならそうすると思っていたぜ♪」
「ケンタ殿ですから」
「ケンタくんだものね」
「なんだよそれは」
「あの、でも依頼を受けるって言ってくれたよ」
「言っただけだ、受諾のサインをしない限り受けたことにはならない」
「そうなの?」
アカシアはよくわからないとまた首をかしげる
「アカシア、いいんじゃよ」
「おじいちゃん」
リキュールさんがアカシアにわかりやすく説明をしてくれた
「でもなんのお礼もしないのは・・・」
「泊めてもらったし食事も美味しかったからいいよ」
「うん、わかった、おじさんたちがそれでいいなら」
まだ納得はしていないようだが引いてくれた
「それじゃアカシア、リキュールさん、元気でな」
「お主らも元気でな」
「ありがとう、おじさんとお姉ちゃんたち、またね」
アカシアがぶんぶん手を振り見送ってくれる
俺たちはビンタ街へのんびり戻って行った
まさかゼンとコホウの師匠と出会えるとは思ってもなかった
縁というのは不思議なものだなと感じていた
これからも新たな出会いや意外な出会いがあるのだろう
やっぱり冒険の旅は面白い
次はどんな出会いが俺たちを待っているのか楽しみだ
わくわくしながらカブを走らせた




