191 ゴースト
「それじゃその依頼書を見せてくれ」
「うん」
少女が持ってきた依頼書を受け取る
[ いらいないよう 森にすみついた魔物をとうばつしてください ]
[ ほうしゅう 1万円 ]
「・・・・・」
なんだこれ? いや、討伐依頼ってのはわかる
討伐依頼で報酬1万円は低すぎるな
そりゃ受理されないわけだ
だが問題はそこじゃない
これは色々とおかしい点が多すぎる
「あの、受けてもらえますか?」
おずおずと少女が聞いてくる
俺が怪訝そうにしているからだろう
「その前にいくつか聞いていいかな」
「うん」
「この依頼書ってキミが書いたの?」
「うん」
そうだろうな、大人が書いたとは思えない書き方だ
「森ってどこの森? 魔物の種類とかはわかるかい?」
森なんてあちこちにある、どこの森かわからないと行くことができない
魔物も種類がわからないと討伐準備のしようがない
魔物の強さはピンキリだし、弱点とかも違う
魔物によって戦い方は変わるからな
そもそもこんな依頼をなんで子供が?
森に魔物が出て困っているなら大人の誰かが依頼を出すはずだ
報酬だってこの子の自腹のようだし
「えっと、この街から少し北の方にある森です
魔物は、その、ふわふわしたやつです」
ふわふわって何? キミの言っていることがふわふわだよ
「やっぱり報酬が少ないからダメなんですか?」
俺が困惑しているのを見て不安そうに聞いてくる
「いや、報酬ははっきり言ってタダでも構わない
ただ内容がぼやっとしていて対応に困っているんだ」
「お兄さん、タダはダメでしょ」
「ようは安くてもいいってことを言ってるんだよ」
「じゃなにがダメなの?」
少女が半泣き状態になってきた
「正確な場所と魔物の情報が圧倒的に足りない
さすがにこれだと依頼を受けるかどうか即決できない」
「ごめんなさい・・・」
しょんぼりする少女
「できればもう少し詳しいことを聞かせてくれないかな」
「うん、わかった」
「その前に自己紹介をしておこうか
俺はケンタ、このパーティーのリーダーだ」
「私はアンナです」
「私はベンケイだ」
「わたしはアオイです」
「わたしはサクラよ」
「わたしはアカシアです」
「そうか、よろしくなアカシア」
名乗り合ったおかげか少し落ち着くアカシア
「場所はこの街から少し北にある森ってのはわかった
問題はどんな魔物なのかってことだ」
「えっと、ふわふわしたやつです」
だからそのふわふわがわからないんだけど
「少し話を変えよう、そもそもなんでアカシアが依頼を出すんだ
アカシアの親とかまわりの大人が出すべきじゃないのか?」
「お父さんとお母さんは5年前に死んじゃったの
それからおじいちゃんと暮らしていて、まわりに他の人はいないの」
「ごめん、本当にごめん!」
親が死んだなんて辛いこと言わせてしまった
「だけどお爺さんと二人暮らしでも近くに他の人はいるだろ?」
「えっと、じつはその森に住んでいるの」
「んんん?」
アカシアはようやく事情を話し始めてくれた
5年前に両親が亡くなってお爺さんに引き取られた
そのお爺さんは北の森に住んでいてアカシアもそこで暮らすことになる
もちろんそんな場所なので二人っきり、他の人などいない
お爺さんは元冒険者で引退してからその森で暮らしているそうだ
かなり強いらしくて魔物を倒して素材や肉を街で売っている
森で暮らせるぐらいだから強いのはうなずける
だが一昨日、ふわふわした魔物とやらが現れる
お爺さんの攻撃は一切当たらずなす術もなかったそうだ
そこでお爺さんは囮になってアカシアを逃がした
アカシアは街まで逃げ込んで依頼書を用意する
お爺さんから渡されたなけなしの1万円を報酬にした
しかしギルドでは受理されなかった
あの内容だから仕方がないな
「森で魔物を討伐しながら暮らせる強い人なのに倒せないなんて
そのふわふわ魔物ってどんな奴なんだろう」
俺の疑問にベンケイさんたちも首をひねる、謎な魔物だ
それよりもお爺さんは無事なのだろうか
すでにそいつに殺されているんじゃ・・・
おっと、俺の考えを察したのかアカシアが泣きそうになっている
いかんいかん、強い人みたいだから上手く逃げているかも
「お兄さん、どうします?」
「受けてやろうぜケンタ」
「そうだな、受けよう」
「受けてくれるの?」
「ああ、この依頼受けるよ」
アカシアがボロボロ涙を流し始めた
「うう、嬉しい、ありがとう、ありがとう」
魔物の正体がはっきりしないが俺たちならなんとかなるだろう
根拠のない自信だ、それでも油断さえしなければ大丈夫だと思う
俺たちはすぐに出発する
お爺さんの命がかかっているから急がないと
アカシアが案内してくれるので連れて行く
本当は街で待っていて欲しいが行くと言って聞かないので仕方がない
お爺さんが心配ですぐにでも無事な姿を見たいのだろう
街の北門を出て森へ向かう
俺の白カブの後ろにアカシアを乗せる
アンナの緑カブの後ろにはアオイくん
ベンケイさんはサクラさんのホウキに相乗りだ
「ここから少し先の森でしたね」
アンナがナビのマップで森を確認する
森の名前はゴウコンの森、ふざけんな!
「こっちの方だよ」
森に着いてアカシアとお爺さんが住んでいる小屋へ案内される
襲ってはこないが結構たくさんの魔物の気配がする
「マップにも赤い点がたくさん表示されています」
「でも襲ってこないって不思議だよな」
「私らの強さがわかってるんじゃないのか」
ベンケイさんの言うとおりかも知れない
でも相手の強さがわかる魔物ということはかなり強いぞ
強さを理解できない魔物はとりあえず襲ってくるからな
そんな強い魔物がいるこの森で暮らせているお爺さんってすげえな
小屋が見えてきた
小屋の前に仁王立ちの男がいた
「おじいちゃん、無事だったんだね!」
あれがアカシアのお爺さんか
たしかに老人っぽいけど、なんだあの筋肉
白髪黒目でよくあるカンフーマスターのような風貌
そして遠くからでも強い気迫を感じ取れる
眼光も鋭いし、本当に老人か?
「よかった、助かったんだね」
アカシアが嬉し泣きしながらお爺さんのもとへ駆け寄ろうとする
だがアカシアの手を掴み行かせないようにする
「おじさん?」
「ダメだ、様子がおかしい」
お爺さんの闘気が溢れている
ベンケイさんがすでに火雷神を構えていた
「くくく、強そうな奴らがたくさん来たのう」
お爺さんがニヤリと笑う
「・・・なるほど、ふわふわした魔物の正体がわかりました」
「アンナ、本当か?」
「わたしもわかったわ、厄介ね」
アンナとサクラさんがふわふわ魔物の正体に気づいた
「ふわふわ魔物の正体はなんなんだアンナ、サクラさん」
「ゴーストです」
「ゴーストよ」
ゴースト、死者の怨念と大気中の魔素が融合した霊体の魔物
ゴーストは宙をふわふわ飛んでいる、だからふわふわした魔物ってことか
それに霊体なので物理攻撃が一切効かない
おそらくお爺さんは物理攻撃系の人なのだろう
そのため倒すことができなかったということだ
さらに厄介なのはゴーストの能力
人に取り憑き、その者の理性を外して欲望のままに動かす
お爺さんの様子を見る限り、どうやら取り憑かれている
助けるためにはゴーストをお爺さんから引き剥がさないといけない
こんな森で暮らせる強い人だ、簡単にはいかないだろう
「厄介だな、それでもやるしかないか」
「ああ、油断するなよケンタ、強いぞこの爺さん」
「おじいちゃん・・・」
「アカシア、お爺さんは必ず助けるから任せてくれ」
「おじいちゃんを傷つけるの?」
「キミのお爺さん、強いから手加減できそうにない
だから少しは傷つけるかも知れないけど回復と治癒があるから許してくれ」
「う、うん、わかった・・・」
複雑な気持ちだろう
それでも納得してくれた
アカシアを遠ざけて俺たちは臨戦態勢をとる
ゴーストを引きはがすためにはお爺さんをある程度弱らせないといけない
しかしこのお爺さん、めっちゃ強そうなので厳しい戦いになりそうだ




