188 ストーカー
「おはようベッキー」
「・・・おはよう」
朝、起きてきたベッキーに声をかける
返事はしてくれるがすぐに距離を取られた
うん、朝食の準備のために厨房へ行っただけだ
だから決して俺と一緒にいたくないわけではない
きっとそうに違いない、はず
厨房にはアンナとサクラさんもいる
なにやら楽しそうな三人の声が聞こえる
アンナとサクラさんは許してもらえたようだ
う、うらやましくなんかないんだからねっ!
朝食後、ベッキーは仕事に行く準備をする
今日は仕事の日なんだな
「いってらっしゃい」
「・・・いってきます」
ちゃんと返事を返してくれるがすぐに顔を背けられる
ちょっと辛い、娘に疎まれる父親になった気分だ
「ケンタ、元気出せ」
「拙者たちも同じ対応されているでござるから」
「ベンケイさん、アオイくん、ありがとう」
ベンケイさんとアオイくんはベッキーをギルドまで送る
二人はギルドで依頼を受けるついでがあるからな
昼前に二人が帰って来た
「早いね、どうしたの?」
いつもは依頼を受けたなら大抵夕刻かベッキーと一緒に帰って来ていた
それになんだか疲れている感じだ
「依頼受けなかったの?」
「ああ、それどころじゃなかった」
「うう、みんなして酷いでござる」
ギルドに入ったら他の冒険者たちから小一時間説教されたそうだ
さらにキットさんからも注意を受けたらしい
「気をつけろケンタ、お前も同じ目にあうと思うぞ」
「ケンタ殿は来ないのかとか言っていたでござる」
「うわあ・・・」
やだなあ、でも悪いのは俺だし
これは大人しく叱られることにしよう
ベッキーの仕事終わりに合わせてベンケイさんとアオイくんが迎えに行った
その足取りは重そうだった
翌日もベッキーを送って行った二人
今日はまだ帰って来ていないので依頼をこなしているのだろう
15時過ぎにベッキーと一緒に帰って来た
なんか楽しそうに三人で話しながら
「おかえり」
「おう、ただいま」
「ただいまでござる」
「・・・ただいま」
どうやらベンケイさんとアオイくんも許してもらえたようだ
俺以外全員許されたらしい
ヤバい、俺だけベッキーさんに許されていないでござる
ダメだ俺、早くなんとかしないと!
「おじさん、がんばってね」
「僕たちは祈っとくよ」
「おまいら・・・」
トムとハックが察したのか励ましてくれる
少年たちに励まされるおっさん、情けなや
翌日、今日はお休みなので買い出しに行くベッキー
「・・・いってきます」
「俺も行く」
「・・・なんで?」
「たまにはいいだろ、荷物持ちがいたら楽だぞ」
ベッキーはなにも言わず歩き出す
俺はそのあとをついて行く
商店街へ着くまで無言が続く
話しかけたいが下手なことは言えないので俺も無言だ
商店街に着いて買い物を始めるベッキー
店の人たちとは仲良くなっているようで気さくに話しかけられていた
ベッキーも笑顔で返事や会話をしていた
店の人が俺に気づく、ちょっと目付きが恐かった
でも睨むのは一瞬であとはやれやれといった感じでため息とかつかれた
それはそれで心が痛い
ベッキーが商品を吟味しているときにこっそり声をかけられる
(ちょっとあんた、ベッキーちゃんを悲しませるんじゃないよ!)
(すみません、反省しています)
行く先々の店で同じやり取りが繰り返された
ほとんどの店の人から可愛がられているようだ
そのためほぼ全店から俺はお叱りを受けることとなった
ベッキーに聞こえないように話しかけられていたので気づかれていない
たまに俺の方をベッキーが見るがすぐにそっぽを向かれる
「収納」
買った物は収納庫に入れるので身軽である
「どうだベッキー、いい荷物持ちだろ?」
「・・・そうだね」
そのまま無言で俺たちは屋敷へ帰った
まだお許しいただけないようでござる
許してもらえるよう頑張ろう
翌日、ベッキーをいつものようにベンケイさんとアオイくんが送る
違うのは俺も一緒である
(大丈夫かケンタ)
(許してもらうためには一緒にいないとな)
(そこじゃなくてギルドに入ったらアレだぞ)
(あ、そうか、俺も説教されるよな)
(私らが悪いから文句言えないからな)
(心配してくれてありがとうベンケイさん、大人しく叱られるよ)
(頑張れ)
ギルドに入ってベッキーは飲食スペースの方へ行く
ベンケイさんとアオイくんは依頼を受けて立ち去った
俺は冒険者たちに捕まり小一時間説教された
俺が来たことを知ったキットさんからも叱られた
でもくどくどしつこくはなかった
みんな言いたいことを一回ずつだけ言って終わりにしてくれた
ただ人数が多いのでかなりぐったり疲れた
それにしてもベッキーは愛されているなあ
こんなにたくさんの人たちから心配されたり優しくしてもらっている
「ケンタさん、なにやっているんですか?」
「ベルさん、こんにちは」
説教タイムのあと、俺は飲食スペースで昼食をとっていた
「ベッキーの仕事が終わるまでここで待っていようと思って」
「ストーカー?」
「違うよ!」
「まあいいですけど、ベッキーちゃんの仕事の邪魔をしたらダメよ」
「しないよ、ひどいなあ」
「まあ頑張って許してもらいなさい」
「うん、そうする」
ベルさんは呆れつつも笑顔で受付に戻って行く
ベッキーの仕事ぶりを眺めつつ待機する俺
たまに嫌そうな顔をして俺を見るベッキーさん
ふ、それぐらいでは俺は帰らないぜ?
普段からアンナに虐げられているから耐性はできているぜ♪
おっと、飲み物が空だ
「そこの給仕さん、オレンジジュースを頼む」
「・・・オレンジジュースですね」
うざそうに注文を受けて厨房へ行くベッキーさんだった
ふ、それぐらいで俺は(以下略)
他の冒険者たちが呆れた目で俺を見ていたが無視する
ベンケイさんとアオイくんが依頼から帰って来た
「なんだケンタ、迎えに来たのか?」
「いや、ずっとここにいた」
「ストーカーかよ」
「ベンケイさんまでベルさんと同じこと言わないでよ」
ベッキーの仕事が終わったので四人で屋敷へ帰った




