184 約束の日
「「「いってらっしゃい」」」
おじさんたちが旅立ちました
わたしたち姉弟はお留守番です
わたしたちのお父さんも冒険者でした
冒険者の仕事は命の危険がつきまといます
お父さんは仕事先で亡くなりました
おじさんたちが同じことにならないと言い切れません
とても不安です
不安がるわたしたちにおじさんたちは約束してくれました
長くても10日以内に一度は帰って来ると約束してくれました
きっと大丈夫、おじさんたちは約束を守ってくれるはず
でも早目に帰って来てほしいなあとわがままなことを思ったりもします
ううん、色々助けてもらっているんだからこれ以上のわがままはダメよわたし
「おじさんたちは行っちゃったし、屋敷の掃除でもしよう」
今日はちょうど休暇なので屋敷のことをやります
トムとハックは庭でよくわからない訓練をしています
ベンケイさんとアオイさんが教えたことをやっています
訓練はいいのですが変な言葉は教えないでほしいと思います
掃除を終えて買い出しに行く準備をします
生活費としていくらかお金を渡されています
「たしかここに」
居間の収納棚の引き出しを開けると紙の束がたくさんありました
嫌な予感はしますが一束を手に取ってみます
「・・・一万円札の束」
たしか束になっているお札は一束100枚と聞いたことがあります
ということはこれ100万円だよね?
「一、二、三・・・ 十・・・」
全部で10束ありました
えっと、100万が10束だから、1000万円・・・
こんな大金を生活費として置いて行かないで!
「まったく、おじさんたちの金銭感覚はおかしいわ」
とりあえず1万円だけ抜いて買い物へ行きました
翌日、仕事へ行きます
「ボクがいるから安心してね♪」
「よろしくねホワイト」
サクラさんの聖獣のホワイトがわたしについて来てくれます
ブルーとブラックは屋敷に残りトムとハックを守ってくれます
子供のわたしたちだけだと危険ですからサクラさんがつけてくれました
わたしの仕事は冒険者ギルドの飲食スペースの給仕です
最初はたくさんの冒険者さんたちがいて驚きました
でも緊張しているわたしにみんな優しくしてくれました
職員の人たちやベルさんも助けてくれます
ギルドマスターのキットさんも声をかけてくれます
なんだか守られてばっかりです
子供で頼りないからだろうな
もっと頑張らなきゃ!
おじさんたちが旅立って4日目
仕事を終えて屋敷へ帰ります
「明日は休暇だから掃除と買い出ししとこう」
夕食の準備をしながら明日やることを考えます
考えていたら誰かが来ました
ブルーたちが客間へ案内していたので怪しい人ではないのでしょう
わたしはお茶を客間へ運びます
「いらっしゃいませ」
「うむ、ありがとう」
お茶を出したらお礼を言われました
琥珀色の瞳で短めでクセ毛のある金髪のおじさん
身形からして貴族様です、シシリー様とちょっと似ているなあ
「初めて会うが君がベッキーだな」
「えっと、はい、初めましてベッキーと言います」
「私はオシリス・ペンペラン、この街の領主だ」
「えっ!?」
どうりでシシリー様と似ているはずです
いやそんなことよりなんで領主様が?
「し、失礼しました!」
慌てて頭を下げます
「下げなくていい、気を遣うな」
「で、ですが・・・」
貴族様だし、領主様だし、不敬になっちゃう
動揺と混乱で変なことを言わないか必死です
「私はケンタの身内のようなものだから気にするな
君はケンタの家族なのだろう? なら私とも家族のようなものだ」
いやいや、領主様と家族だなんてとんでもないです!
「ところで姿が見えないがケンタたちはどこへ行ったのだ」
「ケンタたちは冒険の旅に出たのだ」
「まあ10日以内に一度戻って来るけどな」
「それまではボクたちがベッキーたちとお留守番♪」
「なんだそれは? もう少し詳しく聞かせてくれ」
ブルーたちがいつの間にか来ていました
混乱していて気づきませんでした
というか領主様は普通に会話している
みんなのことも知っていたようです
「なるほど、サクラのスキルで遠くからでも帰って来れるということか
そして最後に立ち寄ったところから旅を再開できるとは便利だな」
ブルーたちがわたしに代わって説明してくれました
領主様は特に驚くこともなく納得していました
おじさんたち、領主様から信頼されているんだな
「ブルーたちがいるとはいえ子供たちだけでは心配だな
よし、私の私兵を二人警護に当たらせよう」
「そ、そこまでしていただかなくても」
「遠慮するな、私の大事な家族を守るためだ」
いつの間にかわたしたち領主様の家族にされている
そして領主様の私兵さんが二人、翌朝から屋敷の門前に立つことになりました
おじさんたちが旅立って7日目
早くて一週間以内に戻って来るという約束です
まあおじさんたちのことだからギリギリの10日目に戻って来るでしょう
でも帰って来てくれると嬉しいなあ
今日もギルドで仕事です、頑張ります
手の空いたときベルさんから声をかけられました
「ケンタさんたちって最近来ないけどどうかしたの?
ベンケイさんとアオイちゃんすら来なくなっているし」
そういえば旅に出ていることをベルさんは知りませんでした
わたしはおじさんたちが冒険の旅に出ていることを伝えます
「そうだったのね、ケンタさんってば出る前に言ってくれればいいのに」
たしかにお世話になっている人たちには伝えるべきですよね
ずっと姿を見せないと心配するはずです
「それにしてもサクラさんがそんなスキルを持っているとは驚いたわ
でもあなたたちだけで留守番なんて大丈夫なの?」
「はい、ブルーたちもいますし
あと領主様が警護に兵士さんたちを置いてくれています」
「あら、それなら安心ね、でもわたしも頼ってくれていいからね」
「はい、ありがとうございます」
みんながわたしたちのために色々してくれます
嬉しいですがまともなお礼ができないのが心苦しいです
よし、頑張って仕事で返そう!
おじさんたちが旅立って10日目
遅くても10日以内に戻って来るという約束です
ほらやっぱりギリギリの10日目になりました
まったくおじさんたちらしいです
でもやっと戻って来る
そう思うと仕事中ですが嬉しくて顔がゆるみます
「ベッキーちゃん、今日はご機嫌だねえ」
「なにか良いことでもあった?」
冒険者さんたちから声をかけられます
みなさんわたしに親切にしてくれます
「今日はおじさんたちが帰って来る日なの♪」
「ああ、ケンタたち依頼で遠出していたんだっけか」
サクラさんのスキルのことは隠しています
おじさんたちと親しい一部の人たちだけに話しています
だから他の人たちには遠出する依頼ということにしています
15時、仕事を終えてギルドをいそいそと出ます
「ベッキーちゃん、また明日」
「はい、ベルさんまた明日」
「ふふ、本当に嬉しそうね」
「えへへ♪」
「ギルドにも顔出してねってケンタさんに言っておいて」
「はい♪」
少しだけ商店街へ寄り道します
今日はご馳走を用意しようと思います
奮発してちょっとだけお高いお肉とか買います
もちろんメモりますよ?
そうだ、アンナさんの好きなケーキも買いましょう
ふふ、なんだかいつもより買い物が楽しいです♪
夕刻前だからもう屋敷に帰っているかも知れません
わたしも急いで帰ります
「ただいま♪」
「「おかえり姉ちゃん」」
トムとハックがおかえりと言ってくれます
でもおじさんたちの姿がありません
「おじさんたちは?」
「まだだよ」
トムが答えてくれます
「もう夕方なのに・・・」
「きっとギリギリ夜中にあわてて帰って来たりして♪」
ハックが笑いながら言います
おじさんたちならありえそうなのでわたしは苦笑します
とりあえず夕食の準備をします
今日は贅沢なご馳走です
トムとハックも喜んでいます
おじさんたちも喜んでくれるといいなあ♪
テーブルに並ぶご馳走
わたしたちはイスに座って帰りを待ちます
時間がどんどん過ぎていき眠気も来ます
でもおかえりって言いたいから頑張ります
食いしん坊のハックもご馳走を前にしても我慢しています
早く帰って来ないかなあ・・・
そしてわたしたちは眠気に負けて眠ってしまいました
翌朝、目が覚めたときゆっくり部屋を見渡します
おじさんたちの姿はありません
目の前には冷めきったスープや料理があるだけ
門の前にいる私兵さんたちのところへふらふらと行きます
「おはようございます」
「おはようベッキーちゃん」
「あの、おじさんたちは?」
「いや、ケンタたちはまだ帰ってないよ」
「・・・そう、ですか」
わたしは屋敷の中へふらふらと戻ります
おじさんたちが旅立って11日目の朝
約束の日は過ぎてしまいました




