3-2-5 再会、そして ②
本日2話目の投稿です。
「遊んでないでどいてよ!」
「どかないよ。ごめんね。彼を燃やされちゃったら商売あがったりだからね」
「あんたの商売なんてどうでもいいわよっ!」
「どうでもよくないんだなーこれが。ほら、あのクソ男を燃やすついでに森まで飛び火しそうになったとこを消火して、ついでにいっしょに詫び入れたボクに免じて堪えてよ。ね、この通り!」
な、なんとなく、なにがあったかわかった気が……。
悔しそうにしながらもだけど、マリーベルが引き下がってくれてほっとした。
あとでピルピルさんにもお礼言わないとだな。
「じゃあサトル君はこっちね」
あ、またヴィントが俺を抱っこするつもりだ。でももうこれ以上の荷物扱いはごめん被る!
抱えようとしてきたヴィントを避けてルーファスネイトの腕から降りたら、ぐらっとめまいはしたけど、今度はなんとか立っていられた。
「立てるか?」
ルーファスネイトに聞かれてこくりと頷く。
なるほど、痛いのは痛いままだけど、ちゃんと治ってはいるんだな。
全体的に痛みが薄まってくれたらいいのに、一か所ずつって感じなのがもどかしいよ。
「立ったは良いが、歩けるか?」
「あるく…よ」
腰というか背中というか、俺が転ばないようにしっかり支えてくれるルーファスネイトに苦しい息をつきながら答えたら、頭の上で笑った気配がして、ぽんぽんと頭を撫でてから先に行った。
振り向かない背中がちょっとうれしい。
「もう、ルーさんとピルさんはスパルタだからなあ。僕は心配だよ。無理はよくないと思うんだけどな」
心配そうに言いながらまた俺に伸びてきたヴィントの腕をぺしっと払って、まず借りものの上等な革の上着の前をしっかり合わせる。前を開けたままじゃ、電信柱の陰から飛び出して下半身を見せる変態みたいだからね!
「ちゃんと歩ける?」
「うん。大丈夫」
心配してくれるのはもちろん有り難いし、ヴィントにはそれこそこんな扱いをされても文句言えないようなみっともないところを見せたから、しょうがないってわかってるんだけどね。
中身は一応大人だし、ここで意地を張らないでいつ張るんだ。
大見得を切ったものの、生まれたての小鹿ってこんな風にぷるぷるしてるよねって有様なのは、見なかったことにして欲しい。
「じゃあ、あたしが肩をかしてあげるわ」
「ありがとう」
「ただし一回でも転んだら、そこの人に任せるからね!」
うわあ、ヴィントがいい笑顔で「任せて」なんて言ってるし、絶対転べないな!
でもマリーベルも泣き止んでくれたし、こうして見たら元気に歩けてるからほっとした。
「さて、では裁きの時間だな」
裁き…?
少し先の小さく開けた場所で、ルーファスネイトが腰の長剣の柄を握ったのが見えて、慌てて後を追う。
なんとか転ばずに追いつけてよかった。
「くそ…くそ…くそが…ッ」
そこにはオールバックにぴしっと撫でつけていた前髪がぐしゃりとなって、形相も紳士からかけ離れたノウマンが後ろ手に縛られて転がっていた。
なんで逃げないんだろうと思ったら、両足が膝の下からなくなってる…。
よく見たら血だまりができてて、ひっと思ったけど…なるほど。本人の持ってたエーデルポーションで治したのか。
うわあ、最初からなかったみたいな断面になってる! 切り離されたら元に戻らないってこういうことなんだな。
「少年! ほら、見ろ!!」
一人で納得してたら、いきなり目の前にぬぅっとなにか突き出され…足!? 足の断面図とかいらない!!
「どうだ、この綺麗な切り口! これぐらい綺麗にスパっとやれたら、実は欠損部位でも繋ぐことができるんだぞ。もちろん早急に、ぴたっと傷口同士をくっつけて回復術士に治癒をかけてもらうか、エーデルポーションなりをかけてやる必要があるけどな」
わかりました! わかりましたからもういいです!
全力でピルピルさんが見せてくるそれから顔を背けてたら、なぜかヴィントが「そんなに褒めたってなにも出ないけどね」なんてカッコつけて髪をかき上げてた。
つまり斬ったのはヴィントか。謙遜してカッコよく決めたつもりだろうけど、尻尾がぶんぶんしてるから褒められてうれしいのがバレバレだよ!
「これも形式でな。なにか言い残すことはあるか?」
「あるわけないだろう…!」
そこはかとなく残念な空気になってたけど、我関せずなルーファスネイトはまるで天気の話でもするようにノウマンに問いかけた。
あんな恐ろしい形相っていうか、火を噴くように睨んでくる相手でも気にせずおっとり聞けるのはすごいな。
こういうのも慣れなのか、ただマイペースな性格なのか気になるところだけど。
「ほれ、少年。そろそろいけるだろ。残りも飲んどけ」
え、ポーションはもうダメだよ。さっき吐いちゃったし。
「い、いらない…」
ぶんぶん首を横に振ったけど、ピルピルさんは聞いてくれない。
「ダメだ。せっかく本物のエーデルポーションがあるんだ。内臓の深部まで効くポーションはこれだけだからな。腹の中だけは治せるとこまで治した方がいい。今のおまえがまだろくに声を出せないのは、喉より腹のせいだぞー?」
ううう、わかったよ! 飲めばいいんでしょ、飲めば!!
ヴィントもマリーベルも心配そうにこっちを見てるし、俺はやけくそになってピルピルさんが渡してくれた小瓶の残りを飲み干した!
確かにさっきみたいにおえっとはならなかったけど、今度はお腹の中がぐるぐるして気持ち悪いぃ…!!
「あうぅ…!」
「よーしよし、顔色がましになってきたぞ。これでだいぶ楽になるからなー?」
蹲って呻く背中をピルピルさんがさすったり、ヴィントが首の後ろを大きな手で温めたり、マリーベルがハンカチで汗を拭いてくれたり。
三人の親切に感謝しながら内臓がもぞもぞしてるような不快感にお腹を抱えてしばらく悶えてたんだけど、確かにじわじわと、でも今度はかなり楽になった。
あれ、さっきまではこんなに苦しんでたら下半身が緩んであれこれ垂れ流してたのに、もう出ない。
やった! どこがやられてたんだかわかんないけど、俺の下半身もちゃんと復活したらしい!
「声は出るか?」
「あ、あー…出ます。本物ってなに? エーデルポーションに本物とか偽物ってあるの?」
「あるぞ-。エーデルポーションと名乗っていいのは、本来はエルフの里で作られるものだけさ。ジークハースで作ってるものとは味が違うだろ?」
「それはまあ確かに……」
ノウマンたちに使われた方はもっと薬っぽいっていうか、後味が悪かった。今飲んだのは甘くて後味が優しい。
「最初からこっちを使われてたら、もっとちゃんと治っただろうにな。偽物は一回や二回使う分にはいいが、しばらく自分の回復力が落ちるのさ」
そうなのか……。ポーションにもいろいろあるらしい。




