3-2-5 再会、そして ③
本日3話目の投稿です。
「偽物って言っても、ちゃんと効果あったと思うよ?」
「詳しくは言えないが、そもそも原料も作り方も違うのさ。本来のエーデルポーションは量産できるようなものじゃあない」
原料が気になるなあ……。おばあちゃんなら知ってたかも知れない。俺、難しい調合をするときは部屋に入れてもらえなかったから、わかんないや。
「じゃあ、顔の腫れはまだ引かないのもそのせいなの?」
「そうだぞー。一度に何回も粗悪品を飲まされたから効力が落ちたのさ。ルーが本物を持っててよかったな」
「そうなのね……。さっきはきついことを言っちゃったし、あとでごめんなさいって言っておくわ」
ピルピルさんの言葉に納得したマリーベルが頷いて、自分の方が痛そうな顔で俺を見た。
「それにしても、ひどいわ。あんな大きな図体をしてるくせに、あんたみたいな子どもをこんなになるまで殴るなんて」
いや、子どもなのはお互い様だし、実はこれでも目が開くようになっただけましなんだけど。
マリーベルが怒り心頭って様子で火のマナまで散らしながら言ってくれたものだから、黙ってることにした。
女の子にケンカ傷…ケンカじゃないけど、こういうケガを見せるって、刺激が強そうだしね。
「簡単な話さ。ポーションでも治癒でもそうだが、命に関わるとこから治すからなー。顔はそりゃ最後になるとも」
そりゃそうだ。うんうん納得してたら、ヴィントが笑顔で言った。
「ちなみに、ルーさんに使うと真っ先に顔から治るって噂だよ」
「それはさすがに嘘でしょ? ……嘘よね?」
いや、俺にきかれてもわかんないよ!
……冗談だよね? 思わずピルピルさんを見たら、ピルピルさんはにやにやしながらちらっとルーファスネイトを見上げた。
「おーい、ルー。なんか言われてるぞー?」
そんな騒動はどこ吹く風だ。
ピルピルさんに呼ばれて、しゃら、と音を立てて銀の光を帯びた長剣を抜いたルーファスネイトが、懐から黒い手帳のような本を取り出してこっちを見る。
「なんだ。俺がポーションを飲んだのはずいぶん昔なのでな。俺にも真相はわからんぞ」
そんなルーファスネイトにピルピルさんは苦笑して肩をすくめて、くるっと俺を振り返った。
「まあ、そんな与太話はさておき、本題だ。今夜は送りの祝詞も塩も聖水も祝福の水もいらないぞ。こいつがいるからな」
え、なんでそこで俺の紹介? っていうか、俺がいたらなんでいらないの?
「どういうことなの?」
「どういう意味かな?」
「俺はべつに構わんが」
いや、マリーベルとヴィントはともかく、最後のルーファスネイトはおかしいよね?
よくわかんないけど、このシチュエーション的に、そこは構うべきじゃない!?
「少年、竪琴は?」
「持ってるけど…え?」
「よし! 『清めと赦しの唄』だ」
………は!?
ピルピルさんにびしっと指されて、俺は固まった!
「へえ、サトル君、歌えるの? それはすごいね」
「歌うなんて無理よ! さっきまであんな弱ってたのに! それに、あれって教会じゃないと意味がないんでしょ? だから塩とか聖水を持ち歩かないと外じゃ送りはできないって、ダリアさんたちにも聞いたわ」
ヴィントは感心して、マリーベルは俺の味方になってくれたけど、ピルピルさんは聞いてくれない!
「いいから竪琴を出しな。身体が辛かったらボクが弾いてやるさ。なんなら笛でもいいけど?」
「清めと赦しの唄だと? ふざけるな! 私は私の誇りにかけて、女神など認めない!!」
「うーん、俺はどっちでも良いんだがなあ」
よくない! ルーファスネイトはもうちょっとこだわれ!!
でも、今回は二人に味方する!
「お、俺もいきなり歌えって言われてもいやだよっ。それに、なにも聞きたくない人に聞かせなくても」
断固拒否の気持ちで動かずにいたら、ふっと真面目な顔をしたピルピルさんが鞄から小さな銀色の横笛を出して、俺を見上げて言ったんだ。
「罪深き者ほど、『清めと赦しの唄』の呪歌が持つ力が必要なのさ。いいか、少年。それは吟遊詩人の仕事でもある」
わあ、それはバラさないでほしかった!!
恥ずかしくて俯いてしまったんだけど、誰も笑わなかったというか、…あれ? なんでみんな黙ってるんだ?
「吟遊詩人…?」
最初に口火を切ったのは、一番関心がなさそうなルーファスネイトだった。
思わず顔を上げると、あの美しい目をわずかに丸くして探るように俺を見てる。
び…美形の真顔怖い…!
「待って、吟遊詩人って、本当に?」
「うそ…。あんた、吟遊詩人なの!?」
ヴィントまで「信じられない」って表情で首を横に振ってるし、マリーベルは珍獣でも見つけたのかって驚きようだ。
しかも、なんだよ。なんでノウマンまで唖然と俺を見るの!?
「ピルピルさん、やめて! 俺、人前で歌ったことないんだよ…!」
俺みたいな地味な性格のやつが、吟遊詩人なんて目立つの大好きそうなジョブを持ってたらびっくりだから!?
注目を浴びて、かぁっと顔に血の気が上る。俺はみんなから顔をそらして一歩引いた。
「さ、酒場とかで歌ってる上手な吟遊詩人の人といっしょにしないで…ください。そんな、俺なんか趣味って言うか、人並み程度に歌えたらって程度で…」
「少年。酒場に吟遊詩人がいたのなんて、もう何十年も昔の話だ」
「え、でも…」
「おまえは、ナーオットに来てから酒場に入ったのかい?」
もちろん入ったことなんかないから、素直に首を横に振った。ピルピルさんが「だろうな」と笑って凝った意匠の笛をくるりと器用に指で回す。
「今も歌い手や楽師はいる。でも、吟遊詩人はいない。……実際に酒場で歌うような陽気な吟遊詩人は、もうボクぐらいかも知れないな」
「え?」
ど、どういうこと?
だって確かにゲームではどこの町でも小人族の吟遊詩人が酒場にいて…って、いや、そりゃここは現実だってわかってるけど!
「森から出てきて初めて入った町がナーオットじゃ、わからないことさ。まあ、それはいい」
「よ、よくないよ。俺、人前で歌うなんてできないよ…」
今は一応「元」だと思うけど、音痴が人前で歌えって強制されるの、ものすごい苦痛なんだ。
それにピルピルさんだって吟遊詩人なら、ピルピルさんが歌えばいいじゃないか!
だから俺は絶対に歌わない。そう決意したんだけど。
「サトル、誰にだって最初の一歩がある! 今がおまえのその時だ!!」
言うが早いか、ピルピルさんが銀の横笛を咥えて、一小節吹いた。
吟遊詩人なら、この意味がわかるだろう。
言葉にならないその想いが、たったのその一小節で俺の中に響いた……。




