3-2-5 再会、そして ①
本日1話目の投稿です。
「サトル!!」
マリーベルだ! ああ、やっと会えた!!
悲鳴のような声で呼ばれて顔を上げたら、クリスタルワンドに松明のような火を灯したマリーベルが駆け寄ってきてくれた。
袖が千切れてたり、スカートのリボンやレースが引き裂かれてたり、可愛いらしい服がぼろぼろだ…!
あのふわふわした髪も片方がざんばらに切られていて、まだ続いてる物理的な痛みとはべつに胸が苦しくなった。
ケガはしてない? 大丈夫だった!?
聞きたいことは山ほどあるのに、声がろくに出ないのがもどかしい!
間近で俺を見て息を呑んだマリーベルの手からクリスタルワンドが滑り落ちて、「おっと」なんてとぼけた声を出しながらルーファスネイトが受け取る。
さすがだ。すぐに火の魔力を込めたから、火が消えない。
「サトル…、酷い、こんな…!」
いやあ、実はポーションを飲んでこれなんだよね、なんて、絶対言えない。しかも俺、ルーファスネイトに抱えられたままだしなあ。
「なにをされたの…。ううん、痛かったよね…!」
たぶんまだ腫れてるらしい俺の顔や、着せてもらってる黒い上着の中を見て、マリーベルがとうとう涙声になった。
「娘。この子は今、声が出んのだ」
マリーベルが息を呑んで、生意気そうに尖らせてることが多かった小さな唇をきゅっと噛んだ。
言わなくていいよ! …と言いたいとこだけど、黙ってる方が心配されるか。
それに喋れても殴られたり蹴られたりしてちょっと何回か内臓が破裂してね、なんて言えないよな。自分で立てない状態で大したことないって言うのも白々しいし、困ったな……。
まあいいや。俺よりマリーベルの方が心配だよ。
こうして見たら無事なところを探す方が難しいぐらい汚れてるし、くそ、あいつら……!
「バカね! あたしの髪なんか、汚れたり傷んだとこだけ切ったようなものだから、いいのよ!」
泣きそうな気持で片方だけやけに短くなった部分に触ったら、マリーベルが大粒の涙を浮かべたままの大きな目できっと睨みながら怒った。
「よう少年! ずいぶんオトコマエになったなー?」
そこにのんびり歩いてきて明るく声をかけてくれたのは、ピルピルさんだ。なんだかすごくほっとした!
「男前がこんなズタボロになることだったら、誰も男前になんかならなくていいわよ!」
怒ったマリーベルの華奢な身体からぶわっと火のマナが舞い上がって、ピルピルさんが笑う。
でも、マリーベルだって怖い目に遭ったんだよ。本当に無事だったのかな?
ああでも、そんな聞き方できないし、俺はどうでもいいけど、こういうときは交渉スキルだって役に立たないし、もどかしいなあ!
「どれどれ。あー、なるほど。見たとこ、腹の中身までやられてるな。下っ腹をやられたらどうしても漏れるもんだ。気にするな」
ぺらっと黒い上着をめくってあっさり言ってくれて、ちょっとだけ気持ちが軽くなった。
「応急手当はしたかー?」
「うん。これを少し飲ませた。表面の傷はヴィントがポーションで洗ったはずだ」
「じゃああとは中身だな。ほら、少年。残りを飲め」
ぽんと小さな手に渡されたのは、さっきルーファスネイトが俺に飲ませた小瓶だ。
うう…もう見たくない……。今日だけで何回飲んだり浴びたりしてるんだろ。
さっきも飲んだし…とためらってたら、ひょいとふたを開けられてしまった。
「サトル、飲まなきゃだめよ!」
「そうだぞー。それに、これは少年がさんざん飲まされたヤツとは違う、本物だ」
……どういう意味?
不安に思いつつ一口、二口飲むと、今度はじんわりと心臓の痛みが消えてくれた。
「サトル!」
「よーしよし、そこまで。一回休みだ」
でも、三口目でうえってなって、もう飲みたくない!
お腹に力が入ったら痛い! っていうか、気がつかなかったけど脇腹も痛い!!
息を吸っても吐いても痛いって、なんだよこれ!?
「痛いの? ポーションも飲めないぐらい? あたし、治癒の宝珠は使えないのにどうしよう…!」
「そこはあばらだろ。ここはすぐ折れるからなー」
「うん、折れるなあ。まあ中身に刺さったままの様子はないから、エーデルポーションを使う賊が相手だったのは幸いだったな」
「そんな連中に捕まった時点で幸いじゃないわよ!」
け…けんかしないで…!
っていうか、マジで痛い!
さっきまではあんなに殴られたり蹴られたりして、あばらだけじゃなくて内臓もやばかったんだからもっと痛かったはずなのに、なんでちゃんとポーションを飲んだ今の方がこんなに痛いんだ…!
「うぅ…ッ」
「サトル! ど、どうしたら」
噛みしめた歯がギリっと音を立てて、お腹を抱えて生理的な涙をぼろぼろ零した俺に慌てたマリーベルが、おろおろと俺の背中をさすってくれていたたまれない。
ルーファスネイトも片手で俺を抱えたまま、ピルピルさんが渡したハンカチで汗や涙を拭いてくれるけど、正直今は二人とも触らないで放っといてほしい!
「ねえ、あんたはなにか回復系の宝珠を使えないの!?」
「俺か? 使えんなあ。闇魔法の生命吸収なら使えるが」
「吸い取ってどうするの! 逆でしょ!? なんでもできそうな顔して頼りにならないわね!!」
「す、すまん」
でも、恥ずかしがってる場合じゃなかった!
ルーファスネイトにまで飛び火してるし!!
っていうか、いくら顔がよくても、それが能力に繋がるわけじゃないから!
だって繋がってたらさ、顔以外に取り柄のないダメなヒモ男とか誕生しないと思うんだ…!!
「いいわ。待ってなさい、サトル! せめてあいつも、あたしが燃やしてやるから!」
しかも、燃やすってなに!?
背後のマリーベルから恐ろしい怒りの気配と物理的な熱気が立ち上って、慌ててお腹から手を放してマリーベルに伸ばす。
「はい、ベルちゃん。そこまでだ。ルーさん、手配書のノウマンはもう捕まえてあるよ」
俺の伸ばした手はピルピルさんにキャッチされたし、クリスタルワンドを取り返して歩きかけてたマリーベルは、ヴィントが現れて通せんぼしてくれた。
ノウマンって、逃げてたのか。そういえばさっきそんなことを言ってたな……。
「吐かせたのか?」
「当然。ピルさんがいい仕事をしてくれてね。いやあ、尋問はやっぱりピルさんだよねえ。交代してから即落ちだったよ」
「ピルパッシェピシェールだっての! おまえが一番失礼だぞ、クソ狼め! いらんこと言うな!!」
「あなたも大概でしょ」
「ヴィっちゃんって呼んでやろうか!?」
「むしろ歓迎」
ふっとキザに笑われて、ピルピルさんが「ぐぬぬ…」ってなってる!
すごい、今日から俺、ヴィントのこと尊敬しよう!!




