1-4-2 解体作業はもうタイヘン! ①
本日21話目の投稿です。
どこに行くのかと思ったら、左側の職員専用のドアから入った左手の奥。ゲームでは入れなかったところだ。
常駐してる職員の人数が少ないのか、ほとんど物音がしない。
「ここって台所…?」
「みたいですね……」
サイモンさんについて入ったのは、十畳ぐらいの石造りの部屋だった。
ベルトリアの世界じゃステンレスはないから、濡れてもいい作業場所は大体石造りだ。
かまどや調理台、氷冷庫と作業台、どれもが大きいし広い。お鍋はあるけど食器が数人分ぐらいしかないのが不思議だな。
それに、壁際に一体何を切るんだ? ってぐらいの巨大なものから梅干しのヘタ取りに重宝しそうな小さなものまで、いろんなサイズの刃物がずらっと並んでる。
ほかにはハンマーとかのこぎり? みたいなのとか、ここに窓がなくて地下だったら中二病的に拷問施設に見えたかも知れない。
真ん中には巨大な熊型の魔物を置いても余裕がありそうな石の作業台があって、サイモンさんはそこにどさっとグラスボアを下ろした。
「ここは解体作業場だ。俺たちの飯を作ることもあるがな」
そう言いながら、慣れた手つきで顎や四肢を確認して行く。なんだか獣医さんみたいだ。
「ん? 硬直がねえな。まだ熱も残ってる。いつ倒したんだ?」
「えっと…時計を持ってなかったんで詳しい時間はちょっと……」
「エリアの境界でした。そこでこの鞄に収納したんです」
「少なく見積もってもそこからここまで二時間はかかるぞ。……その鞄はただのマジックアイテムじゃねえな」
え、どういうこと?
なんでエルフィーネまで怖いものを見るみたいに俺の鞄を見るの!?
ここで俺のビビリ根性炸裂だよ!
どう言い訳したらいいかわかんなくなって涙目でぎゅっと鞄を掴んだら、エルフィーネが慌てて俺の手を握って言ってくれた。
「ごめんなさい、あなたのおばあさまを悪く言うとか、そんなつもりじゃないんです! ただ、思った以上にすごい鞄だったから、危ないって思って」
「危ない? なんで? 便利なだけで、べつに爆発したりしないよ」
「そうじゃないんです、サトル」
オウルばあちゃんはそんな、誰かに怖がられるような人じゃなかった!
なんとか言い訳したくて言ったら、サイモンさんがわしっと俺の頭を大きな手で掴んで教えてくれたんだ。
「いいか坊主。その鞄にゃ、『収納』と『重量無効』だけじゃなくて『時の天秤』の魔法もかけられてるってことだ。この三重付与はマジックアイテムとしちゃ、冒険者だけじゃなくどんな権力者にとっても垂涎の代物と言っていい。それさえあれば、どんなボンクラだろうが採取専門で簡単にSランクになれる。単純な収納魔法を付与した鞄ってだけでも欲しがるやつはごまんといるんだ。せいぜい気をつけな」
そ、そういうことか!
いや、その危険性はもちろんちょっと考えたけど、これ鞄じゃなくて俺専用のソロモン・コアがあるから使えるんだよな。
でもそんなこと言えないし、ここは素直に頷いておくことにした。
「わ、わかりました。俺しか使えないようになってるそうだから、盗んだらたぶん普通の鞄になると思いますけど…」
「サトル、ほかの人はそのことを知りません。たとえそう言ったところで、信じる人はいないでしょう。だから気を付けないとだめなんです。なにより、大事なおばあさまの形見なんですから」
「うん。気をつける」
「そうしろ。じゃあ、核の抜き方からだ。ついでに獲物の鮮度の見分け方と解体もやっとくか。血抜きが終わってねえから、核は手早くやるぞ」
「お願いします!」
そこからサイモンさんの授業が始まった。
「まず基本だ。どんな魔物にも核がある。植物型や鉱物型はまちまちだから経験を問われるが、獣型なら心臓だ。だから誰にでも取れる」
「心臓…」
「こいつなら刃先からこの角度だな。四つ足の獣型なら前脚の付け根から胴体の幅が多少あっても、大体このあたりの位置だ」
このグラスボアだと、前脚の付け根から俺の手のひら分上って感じか…。ふむふむ。
「肋骨の隙間にねじ込むんですね」
「そうなるな。心臓の中から出すんだ。やってみるか」
「うっ、は…い」
うわ、いきなり短剣を渡された。短剣でも結構重いんだな…。まあこれ、だいぶ刃が厚いからそのせいもありそうだけど。
「この角度でまず刃を差し込んでみろ」
「はい…っ」
「そんな恐る恐るするやつがあるか。こうだ」
「ひぃっ」
石の作業台に寝かされたグラスボアを前に、いざ刺そうと思ったら情けないことにカタカタと手が震えちゃって、サイモンさんが俺を背中から抱くような形で右手を上から掴んで、肋骨の隙間に刃を差し込みながら教えてくれる。
ひいい、思ったより簡単にずぶずぶ入っていく!
とどめを刺したのは俺なのに、なんで今さらびびってるんだ、我ながら! でもお肉の形じゃなくてまだ動物の形だからどうしても抵抗感ががが…!!
「! なんか当たった」
「心臓の中にある核だ。それを引っぱり出せ。違う違う、刃先に引っかけるんだ」
恐々探ってたけど、見つけた!
ガチンって刃先に伝わって、今度はそれをスプーンでするみたいに絡め取って引き出しにかかる。
「わ…うわわ…」
「核は脆いもんじゃねえから大丈夫だ。続けろ」
「はい…っ」
手を離されたから、あとは自分でやるしかない。
サイモンさんが離れたら急に背中が寒くなったのは、心細さじゃなくてきっと物理的な熱量だ。巨人族って筋肉が多いだけあって体温高い!
核を逃がさないよう、慎重に短剣を抜くと、中から俺の拳の半分ぐらいの紫がかった石が出てきた。
へえ、これが核か!
「取れました!」
「よし、次は解体だ」
言うが早いか、サイモンさんが鉄製のハンガーで脚を開いた状態に固定したグラスボアを逆さにして、天井から垂らしたリールに吊るす。
首の傷をさらに大きく開くと、またぼたぼたと血が滴った。
血抜きが不十分だったらお肉に血が残って不味くなるから、売るならこれは絶対やらなきゃダメなんだって。
売るかどうかはともかく、どうせなら美味しく食べたいから気をつけなきゃね。
「川のそばで狩れたら、縄で脚を縛って頭を川下に向けて漬けてもいいぜ」
「あ、それは見たことがあるかも!」
おっと、口から出ちゃった。
普通のイノシシの血抜きだったと思う。いつか忘れたけど、生前にテレビで見たと思う。
ほかにも、今回はこの鞄に入れてたからこれで大丈夫だけど、本当は食べられる魔物を仕留めて持ち帰る場合、最低限でも現場で血と内臓…特に腸を取り出すこと。
鮮度の見分け方として、獣型の魔物は大体顎から硬直が始まって四肢と身体に広がり、解けるときは逆になるとか。時間は個体の状態と環境次第だから、これは大雑把な見分け方らしい。
森でも肉は食べたけど、大体は鳥類とウサギ、あとは魚だったんだ。鹿肉はたまに食べたけど、あれは町に行ったオウルばあちゃんが持ち帰って来たものだったから知らなかった。
小食なばあちゃんと子どもの俺じゃ、大きすぎる獲物は腐らせてもったいないしね。




