1-4-1 嵐を呼ぶアイテムボックス ②
本日20話目の投稿です。
「ええ~、すごい! まさか初心者二人でグラスボアをねえ…!」
「えへへ、がんばりました! あの、それでまず採取の依頼なんですけど…」
「うん、ちょっと待ってね」
ほっとした様子のマイヤさんがにこにこしながらこっちへ出てきて、掲示板の依頼書を手に取る。
「次からはカウンターに来る前にここの依頼書で条件が合うものを取るといいわ。採取の場合は緊急依頼じゃない限り報酬は変わらないから、日付が短くなっちゃったものから取ってね」
「わかりました! じゃあこれとこっちと、…あっ。ねえ、エルフィーネ。こっちのレダの根の依頼もできそうだよ!」
「はい。すごい、こんなにたくさん…。サトル、本当にあなたのおかげです。わたしではあんなに見つけられませんでした」
「もう、そういうのやめようってば。ほら、採取の依頼はほかにもあるし、見てみよう」
「はい」
エルフィーネは本当に素直ないい娘さんなんだけど、こんなことぐらいでそんなに感謝してたら、変なやつ相手にあっさり騙されそうで心配だよ!
でもまあ、今回はサーチ・オリジンが便利だったってことかも。うれしいし、ここは素直に喜んでおくか。
うーん、退治系の依頼はいろいろあるけど、やっぱり高額な緊急依頼は駆け出しじゃ歯が立たないようなのしかないなあ。
残念だけど、この中でやれるのはラトリ草とレダの根の採取だけだった。
「あら~、本当にいっぱい! ふふ、がんばってくれたわねえ。じゃあ受け取るから二人ともここに出してくれる? 査定するわね」
「はい!」
依頼は十本ごとだから、まずはラトリ草をばさっと出して数えてもらう。
森のやつの方がいい効能になるからそっちを出したかったけど、鑑定されたら採取場所がばれるから素直にさっき集めた分を出した。
「八十八本ね! うん、合格。八件分の依頼達成と、残りはうちが買い取るわね。さっき言ってたけど、レダの根もあるの?」
「はい。これもお願いします」
鞄からエルフィーネのショールで包んだレダの根を出したけど、よかった。つぶれてないし、グラスボアの血もついてない。アイテムボックスって本当に便利だ。
「へえ、丁寧な採取ねえ…! レダの根はよく途中で千切っちゃって中が漏れてるものが多いのよ。しかもこれだけまとまってだもの。これは色を付けさせてもらうわね」
「やった! これはエルフィーネが採ってくれたからだね」
「そ、そんなこと」
「いやいや、丁寧な採取ってすごく大事なんだよ! 俺もばあちゃんにものすごく仕込まれたもの」
万事控えめというか遠慮っぽい子だから、ここは自信をつけてもらうために褒めないと!
兄貴のとこの姪っ子ちゃんもこういうタイプだったんだよなぁ。あっちはまだ幼稚園児だけど、控えめすぎたら調子のいい子にいいように利用されたり、いじめられたりしないかおじさんとしては心配だった。
「そうよ。採取専門の子はちゃんと丁寧にしてくれるんだけど、ついで採取だとどうしても細かいところがね~。冒険者を続けるなら、二人ともこの姿勢は忘れないでほしいわ」
マイヤさんもそう言ってくれて、エルフィーネは落ち着かなさそうにしながらも、ほわっとうれしそうに笑ってくれた。
「これ、まだ洗ってないけど返すね。貸してくれて助かったよ」
丁寧に土を払ってたからだろうな。レダの根を包んでいた生成りのショールもあまり汚れてないし、肩から元のようにかけてあげたら返り血がだいぶ隠れていい感じだ。
「ありがとうございます」
「ううん。さすがに女の子に俺の着替えを貸すわけにはいかないからね」
さて、あとはほかの薬草とグラスボアか。薬草の方はまとまった数がないし、ポーションを作るときに使いたいから出すのはやめとこう。
「マイヤさん、グラスボアってここで買い取ってもらえるんですか?」
「もちろんよ。もしかして核が取れたの?」
ぴこんっと耳を立てたマイヤさんが猫目を輝かせて聞いてくれたけど、核じゃないんだよね。っていうか、森じゃ鳥かウサギぐらいしか捕らなかったから、やり方がよくわからないし。
「核じゃないです。俺、取り出し方を知らなくて」
「あら! それじゃこれから困るじゃない。本もあるし、ここで教えてもいいわよ。授業料は自分で魔物を用意するなら百ダルム、魔物の持ち込みができない場合千ダルム! できたら先輩冒険者に現場で教えてもらうのが一番だけどね」
「魔物なら用意できます。ここに出してもいいですか?」
「ここ?」
マイヤさんが首をかしげて、後ろでほかの冒険者の相手をしてたサイモンさんも「なに言ってんだこいつ」って様子でこっちを見た。
「はい。えっと…引っぱり出せるかな」
カウンターにどさっと鞄を置いて、まずはアイテムボックスを起動。パネルからグラスボアを探してタップして手を突っ込むと、すぐそこに太い脚があった。
よし、あとは掴んで引っ張るだけだ。ぐいっと掴んで引いたら、蹄がぴょこっと顔を出した。
でも、そこまでだ。あとはぐいぐい引いても鞄がゆさゆさするだけでびくともしないし、両手で力を込めたらずる…っとちょっとだけ鞄が動いた。
「へっ、蹄??」
マイヤさんの目がぱちくりと丸くなって鞄の中を覗いたけど、猫目でも真っ暗で見えないらしくて首をかしげる。
うん。不思議だよね。持ち主の俺が見ても真っ暗なんだ。
中に入ってるもの自体はリストでわかるんだけど、覗くと目的のものしか見えないんだよな。
「サトルくん、これは一体?」
「グラスボアなんですけど、出すときのことあんまり考えてなくて…」
「サトル、わたしも手伝います」
「ごめん、助かる」
「いっしょに引っぱればなんとか…」
「じゃあ行くよ。よいっしょ~!」
エルフィーネもいっしょに脚を掴んで二人でぐいっと引っ張ったけど、出てこない!
それなら鞄をひっくり返せばと思ったけど、取り出し始めたせいかもう重くて鞄自体を持ち上げられなかった。
「エルフィーネさん、交代しましょう! 私の方が力がありますからねっ」
「じゃあ、わたしは鞄が動かないように抑えます!」
次はマイヤさんと俺が引っ張って、エルフィーネが抑え役。
ずるっと太ももまで出たけど、そこで俺とマイヤさんが疲れちゃって休憩!
「お、重い!」
「お肉の鮮度が落ちやすいし、グラスボアを持ち込むなんて、力自慢の冒険者が担いで月に一回あるかどうかですからねえ…!」
だめだこれ、サイモンさんの手が空いてからお願いしたら、引っぱり出してくれないかな!?
「あのぉ、サイモンさん……」
そう思っておずおずとサイモンさんを見たら、ぽかんとこっちを見てる冒険者を放り出してこっちに来てくれた。
「この中だな?」
「はい。収納したのはいいけど、出すときにこんなに大変だと思わなくて…。今まで旅の道具ぐらいしか入れてなかったし」
だってなんとかなると思ったんだよ! ゲームでも出すときの呪文なんかないし!!
しょぼんとしてたら、サイモンさんが「貸せ」って俺たちの代わりにグラスボアの脚と鞄を掴んで、ぐいっと力を込めた。
丸太のような腕が膨らんで、ずるるっと大きなグラスボアがカウンターの上に引きずり出される。
「にゃあああ!?」
「嘘だろ!?」
耳も尻尾もびこーんとなったマイヤさんとカウンターにいた冒険者が飛び上がって、バンコにいたほかの冒険者もざわっと一斉にこっちを見た。
わかるわかる。だってどう考えてもこの鞄に入らないものが出てきたら、びっくりするよねっ!
「ほお、こりゃいいグラスボアだ。若い雌で出産経験もねえな」
「えええ~!? サトルくん! 君、マジックアイテムの鞄を持ってたの!?」
「あはは…実はばあちゃんの形見でして…」
うわぁ、猫じゃらしで超興奮した猫みたい。
瞳孔がまん丸くなるぐらい興奮してずずいっと身を乗り出してきたマイヤさんにそう答えたら、ふっとニヒルに笑ったサイモンさんが血でべとついたグラスボアの毛皮を撫でながら言ってくれた。
「そういや坊主は森の魔女オウルの養い子だったな。いいもんを遺してもらったことに感謝しとけ」
「…はい。大事にします」
「核の取り出し方を教わりたいんだったな。よし、ついでだ。今裏で教えてやろう。どうせ血が付く。そのままでいいから二人ともついてこい」
「え!? あ、でも」
「こっちは私が替わるから大丈夫、行って!」
ひょいっとグラスボアを担いだサイモンさんがのっしのっしと行っちゃって、ぽかんとしてる冒険者とサイモンさんの大きな背中をきょろきょろ見てたら、マイヤさんが「さあさあ」と促してくれて助かった。
エルフィーネと頷き合って、慌ててサイモンさんのあとをついて行く。




