29 目覚め
熱くて熱くて、体中の血が沸騰してしまったみたいで
このまま死んでしまうのかしら と思った事を
朧気に、覚えている。
「――――あ、れ……?」
ぼんやりと目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。
ティレーリアは高熱にうかされた後のようなふわふわとした感覚に、一体どうしたんだっけと、回りきっていない頭で考える。
チチっとすぐ傍で小さな鳴き声が聞こえて、ティレーリアはゆっくりと視線を動かした。
枕元に、水色の小鳥が止まっていた。
人を恐れないのか、枕元でじっとティレーリアの様子をうかがっている小鳥に手を伸ばそうとして、どうも身体もあまり言うことを聞いてくれないという事に気づく。
そうしている間に、水色の小鳥はもう一度小さくチィッと鳴いて、羽ばたいた。
「あの子――………」
昔、村まで帰る道を教えてくれた、ヴィリディスが貸してくれた小鳥と似ているなと思って、ティレーリアはふと部屋を見回す。
「ここ、は……ヴィー……の………」
魔王の城だ、と思い出して、そして自分の身に起こった事も、思い出す。
「あっ………」
ヴィリディスとの、ここで行われた行為までを一気に思い出して、ティレーリアの頬がかぁっと染まる。
どんな顔で会えば……と思ったその時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「ティーア!!!」
すごい勢いで枕元までやってきたヴィリディスの、そのあまりの勢いにティレーリアはゆっくりと瞬いて、そしてはにかんだように微笑む。
「ヴィー……」
腕を伸ばそうとしたけれど、やっぱりうまく動かない。
そんなティレーリアの腕をそっと取って、ヴィリディスはティレーリアの身体を抱き締めた。
「ティーア、大丈夫?」
「うん……あの、私………ごめんなさい。え、と、最後、を、あんまり覚えてなくて………」
寝ちゃったの? と上目遣いで聞いてきたティレーリアに、ヴィリディスはほっとしたように微笑む。
「違うよ。僕の力を分けたから……熱が、出たんだ」
「熱………」
言われて、ティレーリアはあの熱さを思い出した。
熱くて熱くて、死んでしまうんじゃないかと不安になった事も、
抱き締めてくれていたヴィリディスの腕を振りほどこうとした事も、思い出す。
「あっ………!」
さっと青くなったティレーリアに、ヴィリディスが首を傾げる。
「ごめんなさい……私、ヴィーに………いやって……振り払って……」
「そんな事。苦しめたのは僕なんだから……ティーアは、もっと、怒っても良いんだよ」
「怒るだなんて………」
ゆるく首を振ったティレーリアの頬を包み込んで、ヴィリディスが眉を下げる。
「ごめん、ティーア……。ティーアが苦しむって知ってて………僕はわざと言わなかった」
「―――うん」
「苦しいのは嫌だって言われて、ティーアが逃げちゃったらどうしようって………」
ごめん、と呟いたヴィリディスを暫く見つめて、そしてティレーリアは、その頬をぺちんと叩く。
「……ティーア?」
驚いたように目は瞬かせたヴィリディスに、ティレーリアは頬を膨らませる。
「私、ヴィーのこと大好きよって、言ったわよね。お嫁さんにしてくださいって。だから、苦しいって知っても、絶対逃げたりなんてしなかったわ」
「ティーア………」
「私、もうヴィーと離れたくないもの。ずっと一緒に、いてくれるんでしょう? 絶対一人にしないでいてくれるんでしょう?」
「―――うん。うん、ティーア。誓うよ。この先ずっと、ティーアと共に」
ヴィリディスはそっとティレーリアの手を取って、手の甲に口付ける。
「私、ちゃんとヴィーのお嫁さんに……奥さんになれたのよね?」
「うん。もう、馴染んだし、大丈夫」
その答えに微笑んで、ティレーリアは自分の手を取っているヴィリディスの手を返すと、その手の甲に口付けた。
そしてそのままヴィリディスの首に腕を回す。
「ヴィー、愛してるわ。死が二人を分かつまで、私はヴィーと共に生きるって、誓うわ」
「ティーア」
ありがとう、という小さな小さな呟きの後に、ゆっくりと近づいてくる愛しい夫の唇を、
ティレーリアはそっと瞳を閉じて、受け入れた――




