30 大団円?
魔王の力が馴染んだといっても、ティレーリアがまともに動けるようになるのには、もう数日を要した。
一口に魔力と言っても、人間と魔族ではその質が違っていて、魔王の力を分けられた事で魔力の質も、肉体も、大幅に造り替えられてしまったようなもの、らしい。
当初は、見た目の上では何も変わっていないのでティレーリア自身の自覚は乏しかった。
ただ高熱が出て、起き上がれるようになるまでに時間がかかってしまった、という感じだ。
けれど起き上がれるようになったティレーリアは、確かに以前の自分とは違う点をいくつか発見した。
使える魔法の威力が上がっているとか、今まで使えなかったような魔法が使えるだとかは、まぁ良い方の変化だった。
けれどティレーリア自身が魔法を使うという事がほぼなくなったから、つまらなくはあった。
ヴィリディスや、ティレーリアの専属としてついてくれる事になったメイドのラミアがそれはそれは優秀なので、自分で魔法を使って何かをする必要がほぼなくなってしまったのだ。
子供の頃に頑張って頑張って一番練習した、癒しの魔法が完全に使えなくなっていた事は――――
悲しくなんてない。決してない。
人間と魔族の、魔力の質の最たる違いはそこのようで、魔族は他者を癒すことができない。
癒される事も、出来ない。
その代わり自己治癒力がものすごいらしい、という事を、ティレーリアは身をもって体感させられた。
基本的に人間がするような食事も必要がなく、「自己治癒力」でその辺りも賄うのだとか……。
ただ嗜好品のような感覚で、食べ物を口にする習慣はあるらしい。
確かにあまり……むしろ全くお腹が減らない、という事に気づいたのは、ティレーリアが完全に元気になって、そしてヴィリディスに寝台に引っ張り込まれてからだった。
ごく一部例外もあるらしいけれど、魔力の質の問題がある為に、魔族と人の間ではそういう行為は出来ても、本来子を生す事は出来ないらしい。
けれど魔王の力を分けられた花嫁は、その子を宿すことが可能になる。
ただ、とてもとても宿りにくいのだそうだ。
「僕が生まれるまでに十年近くかかってるらしいよ」と言われて、ティレーリアは飛び上がった。
出来にくいにも程があるわ。
家族いっぱい計画はどうなるの?
と口走ったら、ヴィリディスにとんでもなく良い笑顔で「だから、毎日いっぱいしようね」と言われて、三日間。
本当に丸々三日間。
何度「もう無理」「しんじゃう」と訴えたか覚えていないけれど、とにかく三日間、ひたすら抱かれ続けた。
その間、水分は摂ったけれど、食事はしていない。
水分補給も必要がなかったのかもしれないけれど、とにかく喉が……カラカラに、させられたから。
乾きが癒える間もないくらいに喘がされて、さすがに愛があってもこれは……と思っていたところに、ヴィリディスの執事を務めているというクルシェという何やら壮絶に美しい男性が問答無用で寝室からヴィリディスを連行していってくれた事で、この時のティレーリアは三日で解放された。
彼がヴィリディスを連れ出してくれなかったら一体あと何日続いていたんだろうと青くなったティレーリアは、ふと『もう無理って思ったら、私の名前を呼んでね』と、キャスリンが意味あり気に言っていたのを思い出して、もしかしてこういう事……と遠い目をした。
それ以降は、クルシェがヴィリディスの仕事とプライベートの時間をしっかり管理してくれるおかげで、一応キャスリンの名前を呼びたくなるような事態には陥っていない。
それでも毎晩愛されて、ヴィリディスの仕事がない日には一日寝台で過ごして―――
そんなトロトロに溶かされ続けて、四年。
異例の速さ、ヴィリディスの執着の賜物、と精霊王からの爆笑をもらって、
ティレーリアは一人の男の子を産んだ。
「ヴィリディスよりも、ティレーリアに似ていると思わない?」
「えぇ、とても可愛らしいですわね」
「目元がティーアに似て優しそうだわ」
「だが育つと不思議と可愛げがなくなるからの。今のうちに存分に愛でておくのが良いぞ」
離宮の『謁見の間』改め『ティーサロン』で、すっかりと茶飲み友達と化しているキャスリン、コーデリア、エレナとエリアディールに好き放題言われながらも、そんな彼女たちに囲まれながらすやすやと自分の腕の中で眠る息子をそっと抱き締め直して、
ティレーリアは幸せそうに微笑んだ。
――Fin.――
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