21 つまるところ、
ふいに静寂に包まれた部屋の中、ヴィリディスが息を吐いて、エリアディールに視線を向ける。
「つまり、今回精霊王は三人の花嫁候補を選んでいたけど、そのうちの一人は森のすぐ傍に住んでいる娘だった。王都まで招集して、また森に向かわせるのは大変だろうと気遣った精霊王は、王都へ五人だけを招集・出立させ、途中で村に立ち寄らせてそこから〝三人目〟を同行させて――そして魔王は、その〝三人目の娘〟を花嫁に選んだ――という事で良いのかな」
ヴィリディスの言葉に、エリアディールがにんまりと微笑む。
「盟約違反など、どこにもないであろう? 今回、我は新たなる魔王の花嫁を見届けに参っただけよ」
「しゃあしゃあと………」
「オーギルも諒承しておる故、何の問題もあるまい」
問題大有りだよ、と呟いたヴィリディスが「ちょっと拳で撫でても良いかな」ともう一度コーデリアに打診して「それもご容赦下さいませ」と拒否られていた。
「まぁ、良いよ。 これで僕は堂々とティーアを花嫁に迎えられるって事だよね」
ティレーリアの腰を引き寄せたヴィリディスに、エリアディールがうむ、と大仰に頷く。
「ヴィリディスの子が産まれたら、また飛んでこよう」
「来るな。さっさとくたばれ」
「我はまだ三百年程しか生きておらぬから、ヴィリディスの子が継ぐまでは確実に見届けられるだろうさ」
愉しみ愉しみ、と笑っているエリアディールに、ヴィリディスが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「あー……じゃあ、俺たちは…………あとは帰るだけって事?」
ベルトールが頬を掻く。
王都から魔王の城まで、小旅行に来たようなものだ。
やったるで! という気分で来ていたものだから、実はただの護衛でした、だなんて拍子抜けどころの話ではない。
『勇者』はまだしも『伝説の傭兵』まで担ぎ出す必要はなかったんじゃ…………
と悶々としてしまった根が真面目なベルトールの背に、コーデリアがそっと手を添える。
「万が一だって在り得ますもの、とても心強いわ。それにバルドルフの事は気にする必要なんてなくてよ。あれは褒美さえ与えておけば問題ないもの」
「姫さんの俺の評価って…………」
「自業自得じゃない? 何しょげるなんて似合わない事してるのよ」
少しばかり寂しそうに肩を落としたバルドルフの背を、エレナが笑いながらバシバシ叩く。
「それで――本来は、わたくし達は花嫁が馴染んだのを確認するまでが仕事なのだけれど……」
コーデリアがちらりとヴィリディスを見る。
「必要ないよ、絶対大丈夫だし。っていうかもう邪魔だから、全員さっさと帰ってくれる?」
いつまで人の城で遊んでるの? とにっこり微笑んだヴィリディスに、コーデリアはエリアディールを見てどうしましょうと首を傾げる。
「コーデリアの気が済まぬなら、森の中で野営でもすれば良いさ。それくらいは許せよ」
「城から出てってくれれば、あとは好きにして良いよ」
ひらひらと手を振るヴィリディスに、エリアディールがやれやれとわざとらしく溜息をつく。
「まぁ、この魔力であれば大丈夫だというのは間違いないからな。――ふむ。そういえばキャスリンに一目惚れしたバーディアルも同じ事を言っておったな」
懐かしいのとエリアディールがキャスリンに微笑みかければ、キャスリンの隣でバーディアルがピクリと眉を上げる。
「おっと。余計な事を言ったか」
からかうように笑ったエリアディールの姿が、唐突に光に包まれ始める。
「では、バーディアルに怒られる前に我は帰らせて貰うよ」
そう言うと、エリアディールの姿が掻き消えて、ひらりと蝶が舞う。
一度コーデリアの肩に止まった蝶は、次の瞬間光の粒になって、姿を消した。
「――詫びくらい言っていって欲しいよね」
呆れたようなヴィリディスの呟きに、ティレーリアは苦笑を返した。




