12 守られた約束
「ティーア」
不思議な浮遊感の後に、優しく名前を呼ばれたティレーリアがのろのろと顔を上げると、そこはさっきまでとは違う、どこかの部屋の中だった。
「ここ、は…………」
「城の中の、僕とティーアの部屋」
「お城……?」
「うん」
そっと腕から下ろされて座らされたのは、ふかふかの――寝台の上だった。
「ティーア、やっと逢えた」
ティレーリアの手を握って跪いたヴィリディスを、ティレーリアはまだぼんやりとしたまま見つめる。
「魔王って……」
「うん」
「本当にヴィーが……ヴィリディスが、魔王、なの……?」
「うん」
「髪の色は……?」
「こっちが本当。あれは、色を変えてたんだ。黒のままだとすぐに魔族だってバレるからね」
「私の事、花嫁って……」
「必ず迎えに行くって、約束したよね」
「いつ、から…………」
流石に意味が分からなかったのか、ヴィリディスが首を傾げる。
「私と……初めて会った時から、もう、魔王だったの?」
「違うよ。あの頃はまだ……僕は魔王ではなかった」
「じゃあ、どうして……」
何があったの? と瞳を揺らしたティレーリアの頬を優しく撫でて、ヴィリディスはそっとティレーリアの隣に座る。
「魔王はね、世襲制なんだよ」
「……え?」
「魔王も人間と同じ。父と母がいて、子が生まれる。僕の父が先代魔王。母は、人間の――王家の、お姫様だった」
「え???」
ぱちぱちと瞬くティレーリアの髪を、ヴィリディスが愛おしそうに撫でる。
「ねぇティーア。 僕のお嫁さんに、なってくれる?」
魔王になっちゃったけど、と付け足されて、ティレーリアは困ったように首を傾げる。
「私、王様のお嫁さんになれるようなものを、何にも持ってないわ」
「良いよ。ティーアがティーアであるなら、何にも要らない」
「ただの人間の、村娘でも、魔王のお嫁さんに、なれるのかしら……?」
心配そうに呟いたティレーリアに、ヴィリディスは少しだけ申し訳なさそうな顔をする。
「魔王の花嫁になる為に、儀式を二つ、こなして貰わないといけない」
「……儀式?」
「そう。 といっても、どっちもここでするんだけどね」
ぽんと寝台を叩いたヴィリディスに、ティレーリアは何となくその意味を察して頬を染めた。
そんなティレーリアを見て、ヴィディスが口端を上げる。
「じゃあ、始めようか?」
え? とティレーリアがヴィリディスを見上げようと顔を上げた次の瞬間、柔らかい何かがティレーリアの唇を塞いだ。
「――――……っ!」
驚いて見開いた目が、間近にアメジストを捉える。
キスをされたのだとティレーリアが気付いたのは、ゆっくりと離れていくアメジストを追いかけようとして無意識に傾いだ身体を、ヴィリディスに抱き留められてから。
「ティーア」
小さく呼ばれて、返事ごと、また塞がれる。
何度も何度も、自分はティーアと呼ぶくせに、ヴィーと呼び返す暇は与えてくれずに、ついばむ様に口付けられて。
「んっ…………」
溢れる吐息と、背中に回した腕だけで、ティレーリアは必死にヴィリディスに応えた――




