11 魔王の正体
「どう、して――……」
ティレーリアの小さな小さな呟きは、正面にいる魔王と、すぐ後ろにいたコーデリアにしか届かなかった。
「ヴィー……なの……?」
混乱したまま、ティレーリアの唇から零れた音に、魔王がふわりと微笑んだ。
「迎えに来たよ、ティーア」
うっとりするくらい綺麗な笑顔で手を差し出されて、ティレーリアは呆然としたまま、けれど当然の事のようにその手を取る。
「本当に、ヴィー……なの………?」
ティレーリアの手の甲に、まるで忠誠を誓う騎士のように唇を寄せて、魔王は――ヴィリディスは、ティレーリアを引き寄せる。
「っお前!!」
ガンっと、ヴィリディスのすぐ横でバルドルフの剣が見えない何かに弾かれる。
「どういう事だ、娘!!」
バルドルフの叫びに、ティレーリアはゆるゆると首を振る。
「ヴィー、は……違うわ………魔王、じゃ……」
綺麗で、優しくて、なのに魔法ではどうしたって追いつけなかった、大好きな男の子。
大好きだったお月様みたいな銀色は、闇夜に姿を隠してしまっている。
でも大好きだったアメジストは、確かにそこにある。
ヴィーは、少し遠くからあの湖畔に来ていると言っていた。
「遠く」とは、どこだったのか。
あんなにすごい魔法をたくさん使えたのに、何故癒しの魔法だけが使えなかったのか。
ティレーリアは震える手で、ヴィリディスの頬を包む。
「ヴィーは……魔王、だったの……?」
「うん。ごめんね」
ヴィリディスが首を傾げると、さらりと漆黒の髪が流れる。
「ティーアには、あとでゆっくり説明するね」
蕩けるようにティレーリアを見つめていたヴィリディスの瞳からすっと甘さが消えて、そしてヴィリディスはコーデリアに視線を投げる。
「当代魔王は、この娘――ティレーリアを花嫁に迎える。 そう、人の王に伝えて」
「っ……!? それでは、盟約が………っ!」
コーデリアの叫びの途中で、ヴィリディスはティレーリアを横抱きにすると、ふわりと浮かび上がる。
「待ち焦がれた花嫁にやっと会えたんだ。 悪いけど、話し合いはまた今度」
じゃあね、と軽く言うと、魔王はその腕に呆然としたままの少女を抱えて、
そして勇者一行の前から、ふっと姿を消した。




