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天空海  作者: 倫 正道
7/11

町編[5]

[五]


 今日も一段と深い青碧の空の下、アランとリルは台車を引いて荒れた旧街道を北へと向かっていた。


 アランの懇願空しく一日で復活した姉は、リルからの頼み事を知って少し訝しげな顔をしたが、

『……じゃあ私も一緒に行こうかな』

 と言い出し、治りたての体とは微塵も感じさせない手際の良さで荷物をまとめ準備し始めた。しかし出発前夜となって工場から備品発注の要請が政府からあったという事で、なくなく第二コロニー行きを諦めて工場勤務へと戻って行った。

 ちなみに、その備品発注の内容は西欧縦断鉄道の保線関連のものだったらしい。

 

 ———という訳で、現在アランとリルの二人で第二コロニーを目指しているのだが、出発から三日経っても都市の影が見えない。

 第二コロニーは内陸のコロニーにして欧州管区第二位の人口、約百五十万人を有する大都市である。主産業は繊維業や加工業であるが、他管区の企業が多く進出しているなど物流・経済の面では当管区最大のコロニーである。

 以前私用で一回訪れた事があったが、恐らく自分史上これほどの数の人を見たのは後にも先にもこの時だけだろう。長空にそびえるビルや黒くススかぶった煙突、物で溢れ帰る町、そしてこれ程までに汚れた空気を嗅いだ事は無かった。

 都会に嫌悪感を抱き始めたのはこの時からである。いつしか自分の中には「田舎でひっそりと暮らしたい」という願望が生まれていた。

「……だから都会は嫌なんだよな」

「え? なに?」

 考えていた事が言葉としてボソッと出て来てしまっていた。リルは怪訝そうにこちらを眺めて来るが、

「いや、何でも無い」

 と、アランは左手をひらひらと横に振った。


 コロニーの城壁に着いたのはそれから五時間後の事だった。

 現世界のコロニーに共通して見られる構造がこの城郭都市型の設計だ。周囲は運河から引いてきた水によって大規模な二重の堀を形成し、高さ三十メートル、厚さ十メートルの壁の上には二百メートル間隔で地対空砲が常に空を刺している。

 門兵に通行手形を見せ、台車をグッと押して壁内に入ると、そこは以前来た時と何ら変わらない風景だった。

 路面は凹凸の欠片も無く隅から隅まで舗装され、空は百メートル級のレンガ製ビル群がそびえて狭く感じる上に妙な圧迫感を憶える。

「……相変わらず臭いが酷いな」

 アランは鼻がもげてしまいそうだというばかりに顔をしかめた。決して工場街に差し掛かった訳ではないが、遠くからビルの合間合間を流れる独特の気流に乗って排気ガスやススがコロニー全体を包み込み、空は灰色がかっていた。

 ふと前方を見てやると巨大な時計塔があるのに気付く。

 目を細めて文字盤を見れば、時刻は午後五時を回っていた。

「今日はもう市場も閉まってるだろう。リル、とりあえず適当に宿探して買い出しは明日のしようぜ」

 第二コロニーの市場閉鎖時刻は確か午後五時だったはずだ。

(ぎりぎり間に合わなかったか)

 という思いの他、

(早く息できる所に行きたい……)

 という欲求の方が今のアランを占めていた。

「う〜ん……。そうね、じゃあ明日は朝一番から市場に行こうかしら」

「えっ、別に朝一番で無くてもいいんじゃ……」

 自分が人一倍朝に弱いのは誰よりもアラン自身が良く知っている。特に冬に近づいて日に日に気温が下がっているこの頃はベッドから出れる気がしなかった。

「甘いわねアラン。朝市こそが買い出し最大の醍醐味じゃない」

 対照的にリルは明日の早朝買い出しを楽しみにしている様子だ。目の輝きがいつもの三倍ぐらい眩しく感じる。

(……目覚まし、用意しとくか)

 自分の茶色く変色した麻製の肩がけバックの中から自前の特製目覚まし時計を取り出し、ため息をつきながらも、朝市を楽しみにしている自分が内在している事にアランは気付いていなかった。



 

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