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天空海  作者: 倫 正道
8/11

町編[6]

[六]


 聖歴一九四一年十一月五日、未明。

 ロシア管区、レニングラード上空十七キロメートル付近には五つの機影が濃く冷たく発達した雲に映し出され、噴式エンジンは外気との温度差によって真っ白い尾を引いていた。

 ロシア管区空軍西部航空方面隊第四飛行中隊。五つの地上連合軍所属機の編隊はいつもの通り第十五コロニー周辺の哨戒任務にあたっていた。


「隊長ー。そろそろ終わりにして基地に戻って寝ましょうよー」

 ふと、哨戒任務中としてはふさわしくない覇気の無い声がスピーカー越しに聞こえて来た。デルタ型の編隊で右翼二番機を操縦する声の主、ニコラス・ドミトリー・フライシュマンはあくびを何度もしながら隊形の先頭を務めるマラット・ラブール・カラコーゾフ大尉にそう愚痴をこぼした。

「ニコラス……。お前が内の隊で二年ぶりの新人だからと言って大目に見てきたが、その怠慢な態度はどうにかならんのか?」

 と、マラットが言う。

 人口激減時代の中において、芳しくない戦況にある地上連合軍にとって重要なのは何より人員の確保だ。

 地上連合軍の所属人数は陸海空軍で総計百六十万人、その内ロシア管区軍に配属されているのは全体の約九パーセントの十四万三千人である。

 流星爆弾による若年層の死亡率増加や世論の厭戦ムード拡大などの影響もあってか、近年は軍の養成機関である連合国防士官大学校の入学者数は減少傾向にあり、新兵配属は各管区軍共々厳しい状況であった。

 ここ第四飛行中隊は総員三十二人の小部隊だが、末端の部隊であるがためにここ二年新しいメンバーの入隊が全く無かった。そういう中でのニコラス入隊は部隊全体にとって新鮮なものであり、部隊隊員はこの新兵を大分可愛がって来たようだが、元来軍人よりは浮浪者の方が天職だと言われ続けていた彼の態度を益々付け上がらせるものとなってしまった。

「『どうにかならんのか?』って言われても難しいですね。てゆうかそれよりもここの空域は大丈夫ですって。過去の哨戒情報を見てもこの空域には敵艦影が現れる事は無いと思いますよ」

 だがそんな彼でも国防大学校航空科を上位の成績で卒業し、適当に仕事をしているようでも任務前の事前資料以上に独自で下調べをしていたりする。勤務成績は至って真面目、風紀面では多少問題があるようだが……。

「まあ確かにこの空域での流星爆弾投下や交戦記録は今の所無いが、かと言って今後天人が出現しないという根拠にはならない。危機管理意識の低下が即刻死に繋がる事を忘れるな」

 マラットはニコラスの意見を尊重しつつ、自分の、隊長としての考えを編隊全体に簡潔に述べた。

「はぁ、分かりましたよ。任務続行します」

 ニコラスは相変わらず脱力したような口調で返答したが、マラットの意見を理解したのかそれ以降愚痴る事は無くなった。


「三番機、九時の方向に敵艦隊と思わしき影を目視確認」

 沈黙続く哨戒任務の中、左翼三番機を担当するシルヴァーニ・チェンからスピーカーを通して聞こえて来た報告内容はあまり穏やかなものでは無かった。

「どこだ」

 直に隊長であるマラットが自ら確認を行う。

「斜め上方……。高度二十一キロメートル付近、中央無重力帯外縁部を飛行中と思われます」

 シルヴァーニは目視で確認できる事を可能な限り報告した。マラットも確認できたらしく、目を細めながら

「高度を徐々に下げてやがるな。明らかに地上圏に突入する気だ」

 と抑揚のない声色でそう言った。

 編隊に一気に緊張が走る。

 天人の飛行艦隊が確認されたのはロシア管区で実に四年ぶりの事だった。

「あー……、あれが天人の艦隊なんですか。俺初めて見ました。何かゴツゴツしてないスラっとした感じの船体ですね。教科書の写真通りだ」

 そんな中ニコラスは緊張や恐怖よりも好奇心の方が強く出たらしく、目を輝かせながらその艦影を眺めていた。

「隊長、どうしますか?」

 緊張感の無い声とは裏腹に既に臨戦態勢に入っていた右翼四番機を担当するダビド・シドルスキーから指示を促され、マラットは、編隊各機に一斉に指示を出した。


「第四飛行中隊各機に指示。これより当部隊は通常の任務を破棄、敵遭遇時行動に基づき支援部隊到着までの間は哨戒任務を続行。ただし敵からの先制攻撃が行われた場合は自衛行動として攻撃を許可する。

 敵集中攻撃を防ぐため隊形を第二哨戒陣形に移行。移行後の行動は各機の判断に任せる。ああ、あとニコラスは初陣だから……、ダビド、お前はニコラスの支援に回れ」

「了解。ニコラス、落ち着いて周りを良く見ろよ」

「別に大丈夫ですよ。ダビドさん、じゃあよろしくお願いします」

「おう、後ろは任せろ」

「準備は良いな。各機の幸運を祈る。第二哨戒陣形展開!」


 マラットの指示により、第四飛行中隊各機はデルタ型を維持しながら機体間の距離を出来る限り長距離に取り、素早く展開を完了させた。

 展開後、マラットは敵艦隊の構成や予想進路を把握し、ロシア管区軍総司令部が設置されている第十五コロニーに現状報告を行った。

「こちら第四飛行中隊。当部隊はチェルニーヒウ上空二十一キロメートル付近にて敵飛行艦隊を目視確認。艦数は十八、確認できる限りではケレス級空母二艦、アルテミス級戦艦七艦、あとは駆逐艦と思わしき艦艇九艦。進路は西、巡航速度時速約五九◯キロ、欧州管区内にあと一時間十七分で侵入する模様。至急支援部隊の要請を願う」


 報告を終えたマラットはふぅっと深く息を吐き、敵艦隊がいるはずの空域を改めて確認してみた……が、そこに艦影は無く、目の前に飛び込んで来たのは見慣れた物体、そして最も自分が恐れ嫌っているものだった。

 その不気味な程青白く発光する物体は高速度でマラットの操縦する一番機の左主翼をかすめ、そして左翼三番機……シルヴァーニがいるコックピットに衝突し、轟音とともに機体は木っ端微塵に爆発、消滅した。

「シルヴァーニ!!」

「なっ!?」

 突然の出来事。三番機は深黒の尾を引きながら空中分解し、だが緊急脱出したと思わしきパラシュートは見つける事が出来なかった。

 第四飛行中隊は一様に動揺した。

 誰もが知る『悪魔兵器─流星爆弾─』による仲間の死は、隊員一人一人に多大な精神的ダメージを与えるには十分だった。だが、陣形先頭を務めるマラットは、直後に新たな指示を出した。

「怯むなっ! 敵艦隊の所在確認だ! 索敵急げ! 四番、五番機! 長距離空対空ミサイルの用意、二機はこれより第二哨戒陣形から離脱し、対艦攻撃態勢に移行せよ!」

「り、了解!」

 狼狽する事無く、編隊全体に喝を入れるような声量の指示に隊員達は怯みかけた精神を奮い立たせた。

 命令を受けた四番、五番機はミサイルを機体下部の発射装置に装填後、陣形から離脱した。

 一方支援機のいなくなった二番機、ニコラスは一人恐怖に打ち拉がれていた。

 先ほど、ほんの一瞬前まで好奇心と興奮の色に染まっていた目の色は、黒く深い畏怖の色に変わり、先頭のマラットの機体から離れずにいるのが精一杯という操縦をしていた。

 大学校では体験し得なかった模擬空戦と実戦の違い、今日今まで共に飛んでいた仲間が敵の兵器を前に為す術無く一瞬で塵となった光景は、彼の網膜にこれでもかという程に焼き付き、残像を幾度も彼の脳の中で再生させていた。

 戦意喪失……。ニコラスは最早戦闘空域にいる事さえ自分の意識領域から吐き出そうとしていた。

「……二番機! 応答しろ! 二番機! おいっ……! ニコラス!! 正気を保てっ!!」

 スピーカーが対応できる音量を越えて、ノイズ混じりで繰り出された怒号。浮遊していたニコラスの精神は、はっ、として現実へと引き戻された。

「いいかよく聞けニコラス!これは大学校でやるようなちゃちな演習とは分けが違うんだぞ! 今のお前のままなら基地に帰還するまでに三回は死んでる。視野を広げろ! 敵艦隊の索敵急げっ!!」

「は、はいっ!」

 ニコラスは震える手を抑えながら直に対空索敵レーダーのスイッチを入れ、自身も目視による周辺空域の監視を行った。気付けば額や背中にはじわっと脂汗が吹き出て、不快に感じた。

(なにやってんだ俺は……)

 ニコラスは心の内でそう呟いた。

 大学校では模擬空戦で仮想天人軍機を何十機と撃墜して来た彼だが、自分がここまで何も出来ない人間だとは知らなかった。

 この隊に入隊して、期待の新人だとか言われて浮かれ、先輩パイロットをそれほど尊敬していなかったが、そんな自分が恐怖で心身共に衰弱しているのが何とも滑稽で悔しかった。

 索敵を行う自分の前にはマラットが操縦する一番機が、自分の索敵報告を今か今かと待っている。機体越しではあるが、その一番機から感じられる尋常じゃない殺気と戦闘高揚感はニコラスの感覚を圧倒した。

 突然、レーダーから警報音が鳴った。

(見つけた……!)

 ニコラスはマイクの電源を入れ、前衛のマラットに透かさず報告した。

「に、二番機索敵完了しました! えぇと……、敵飛行艦隊は現在地より、じゅ、十時の方向、距離十一キロメートル、中央無重力帯内を航行中!」

「そうか、よくやった!」

 噛み噛みではあったが何とか伝える事が出来た。自分が今出来る範囲の事をやり切った感覚だった。ニコラスはふぅっと息をつき、ふと天窓を通して空を見ると、厚い雲の中にうっすらと飛行中隊と等速で飛行する影があるのが見えた。

(……嘘、だろ?)

 ニコラスは目を細め、その正体たるは何なのかを必死に確認したが、どう見てもそれは、自分が人生で二回目に出会う忌諱の代物であった。

 ニコラスはマイクを取って編隊各機に頭上の危険対象の存在を知らせようとした……が、一足遅く、隊長含め他の三機は空対空ミサイルを発射してしまった。

「ま、待って!」

 と、ニコラスは言ったが間に合わない。仮に間に合っていたとしても敵を前にして闘争心剥き出しの隊員に報告が正確に届いたかは定かではなかった。

 各機から二発、計六発の熱探知機を搭載した長距離空対空ミサイルは一直線に秒速二キロの速さで白い尾を引きながら敵飛行艦隊と思わしき物体へと衝突、爆発した。

「よし!直に三発目、四発目の装填を完了させろ!」

 敵艦隊と思わしき物体が黒煙を上げて地上圏の重力に引かれ落ちて行くのを見てとどめを刺そうとしたマラットだったが、ふと天窓越しに自分の頭に向かって来たびりびりとした感覚が全身を貫いた。スピーカーからニコラスの悲鳴混じりの声が聞こえる。


『───す、すみませんっ!! 索敵誤認しました……敵艦隊、直上!!』


 マラット含め他の隊員も一斉に自分たちの首を上へと捻り上げた。瞬間、その化け物は雲を抜け、隊員達には衝突せずとも痛い程にずっしりとした重みが伝わった。

 開戦以来地上人類の度肝を抜いた天人軍の飛行艦隊が天窓を仲介として鼻先数十メートルの所まで迫っていた。

「当空域から離脱しろっ!!」

 マラットは装填作業を途中で切り上げ、隊員に戦闘空域からの一時離脱を命じた。

 前方の空域を見てやれば、黒煙を上げて地上重力圏に吸い込まれて行く天人の艦隊が確かに見える。

(……ダミーだったか!)

 マラットは心の中で舌打ちをした。だが索敵を誤認してしまったニコラスを糾弾する気持ちは心の隅にも一切無かった。

 むしろ正確に敵を見ずに貴重な特殊武装を無駄にしてしまった自分に腹が立っていた。マラットは一個中隊の隊長という地位に就いているが、実戦経験は大学校卒業間もない十四年前の第二次第一コロニー防衛戦と九年前のエゲリア作戦の二回のみであり、最前線のパイロットと比べ明らかに実戦経験が少なかった。それがここに来て大きなハンデになってしまったのかも知れない。

 そうこう考えているうちに頭上の圧力は確実に増していた。

 全長二五◯メートル、巨大な主翼を含めた全幅は五三◯メートル、全高九◯メートルの巨大な純白の船体に、大規模推進エンジンを二機搭載している天人軍の飛行戦艦───地上連合軍コードネーム『アルテミス』───は、その船底に取り付けられている大口径の四連装砲を一斉に第四飛行中隊に向けた。

「くそっ……! エンジン出力最大! 離脱急げ! 早くっ!」

 中隊は最早陣形を保てていなかった。

 混乱と恐怖……、実戦不足は隊員たちの冷静な判断力を失わせた。

 連装砲から射出された弾丸はそんな彼らを追い立てる猟犬のようだった。隊員たちは生き延びるため、自身が持つ空間認識能力をこれでもかと拡張させた。

 急上昇、急降下、急旋回を繰り返し、持てる飛行技術を駆使して編隊各機はその弾丸を避け切った。

 しかし、避ける必要は無かった。いや、正確に言えば、避ける意味なんて無かった。

 その弾丸は一直線に地上に向かうかと思われた。何とか無人地帯に着弾してほしいとマラットは思っていたが、不意にその弾丸が眩い発光体となって空中で拡散した。

「空雷!?」

 マラットは叫んだ。

 途端に不規則に乱れる猛烈な爆風と光、そして炎に空の一地点は包まれる。

 天人軍が使用する広域破壊兵器、通称『空雷』が中隊下部で炸裂した。その破壊領域は地上連合軍の調査によれば爆心から半径四十メートル圏内、それがこの局所空域で計四発、一斉に爆発した。


 マラットは爆発領域に突入する寸前で最大出力により該当空域からの離脱に成功していた。

「各機、応答しろ! 無事かっ!?」

 と、マラットはマイクに向かってそう叫んだ。後方は爆煙によって形成された黒い雲に包まれ、機影は確認出来なかった。

 金属のひしゃげる音が聞こえる。辺りを見回すが僚機らしきものは見えない。しかし、突然コックピッド内にノイズ混じりで、

『……隊……隊長! ……こちら計器に……異常な……です!』

 と、聞き慣れた仲間の声が聞こえた。

「……ニコラス? 無事だったのか!」

 途切れ途切れであったが雑音の中でもニコラスの声だとマラットは判断できた。

 灰や破片が舞う空域から完全に抜けると、スピーカーは従来の調子を取り戻し、互いの声がはっきりと聞こえるようになっていた。

『すみません隊長。俺が索敵を間違えなければ……』

「気にするな。それよりあとの二人は?」

 途端にニコラスは黙り込む。しかし、今の自分の状況に改めて気付いたのか、それほど長い間黙ってはいなかった。スピーカー越しにニコラスの小声が聞こえる。

『……四番機、ダビド・シドルスキー少尉。五番機、アンドレアス・イリヤ・ボグダノフ中尉。爆煙の中でしたが……、機体が空中分解しているのを確認。あの空域からの生存は絶望的かと思います。恐らくは……戦死かと』

 ──戦死……。

 マラットの耳にはしきりに自分の力不足や謝罪の言葉を述べるニコラスの声が微かに聞こえていたが、それらのほとんどが聞き流されていた。

 長年共に空を飛んで来ただけでなく、日常生活でもこの時代を打破しようと誓っていた仲間がこうも呆気なく殺されたのだ。マラットの心中は空雷の如き憎しみと恐怖による爆風が強く吹き荒れていた。


 憎しみから生まれる敵に対する復讐欲は、自身の自己生存欲求をも超越させる。


 ──隊長!?


 スピーカーからニコラスの戸惑いと驚きが入り交じった声が聞こえる。だが、気に留める事は無かった。マラットは操縦桿を握り、残り少ない燃料を顧みず、噴式エンジンは青い炎と白い尾を引いて雲へと突っ込んだ。


 ──隊長!


 ニコラスの声がスピーカーから聞こえるが雲の中の為か、音質は悪く聞き取りづらくなっていく。マラットは機体下部に長距離空対空ミサイル二発を静かに装填させた。

 やがて雲を抜け、両翼に巻き付く帯状の雲を振り払うと、雲海すれすれに等速で飛行する、天人軍大艦隊のど真ん中へと突入した。

 無数の弾幕。避け切るのは物理的に不可能だった。だがマラットの操縦するロシア管区軍最新鋭多目的戦闘機『MF-三六モーラト』は、機体に被弾した跡を増やしながらも墜落する事無く艦隊間をするするとすり抜けて行った。


(目指すは敵旗艦のみ!)


 マラットは東西南北に幅広く展開された大艦隊の中で、一際電波を強く発する一艦を発見した。

 敵艦隊全てが地上連合軍絶対防衛ラインである中央無重力帯を越えている。これ程の大規模侵攻はここ十年無かった事だ。

 視認できるくらいまで接近したその一艦を見てやると、すらりとして極端なまでに簡略化された外装が太陽光に反射して光沢を帯び、それに不気味な程巨大な四連装砲が四基、船底と主翼に取り付けられていた。

 マラットはその艦の右翼推進エンジン部分に標準を合わせた。

 その間にも三六◯度全空間からの集中的な弾幕はやむ事が無かった。操縦席からは流弾が赤か橙色になって残像を残しながら高速で飛び交う映像が見えた。

 マラットは連続旋回を繰り返しながら避けていたが、いよいよ空間認識能力の限界が訪れていた。頭の奥が鉛のように重く、めまいと吐き気が激しさを増す。

 ミサイル発射準備を終え、操縦桿の右下にある赤いスイッチを押そうとする。これ以上この空域での単独戦闘は不可能と判断した。しかしその瞬間、右翼が黒煙に包まれた。マラットの機体が突如回転し始める。ガラス越しに見えるその光景には、大半を削り取られ茶褐色の燃料をまき散らす右翼の残骸であった。


 ニコラスは雲海の下にいた。ただし単独飛行ではない。

 マラットの単独交戦空域突入後、ニコラスは援軍として到着した西部航空方面隊第一航空団に合流した。ニコラスは現在の状況を航空団を率いているヴァジム・ダーシャ・フェドロフ大佐に事細かく伝えたが、ヴァジムは、ちっ、と軽く舌打ちをした後、航空団全機に指示した。

「各機に告ぐ。フライシュマン大尉の単独行動は軍の秩序維持を乱すものであるが、仲間の死を悼みその報復対象に一矢報いる行動を起こしたのは地上人類の模範とすべき姿であった。我々は大尉に続かなければならない……」

 隊長は戦死したのか……? 今の言い方ではそう取ってしまう。とゆうよりも正確な確認をしてないだろう。とマラットは思い、大佐機を、キッ、と睨みつけた。

「現在我々は欧州管区境界上空に差し掛かろうとしている。今回の天人軍侵攻はここ十年で最大規模のものとなるだろう。その為、今回は欧州管区空軍・アフリカ管区空軍との合同防衛作戦を展開する。これは国防省大元帥閣下が決定された事だ。マラット大尉の報告とその後の進路から判断して、敵軍の狙いは……」

 どこなんだ? ニコラスは手が汗でぐっしょりと濡れている事に気付いた。ヴァジムはの声はスピーカー越しにゆっくりと聞こえて来た。

「第二・第三コロニー、二百四十万人の命。場所ではない。現在我々が追撃している敵飛行艦隊は天人侵攻軍の一端でしかない……。報告があった。欧州管区第三コロニーは既に敵の爆撃にさらされている」

 背中に悪寒が走った。天人の目的は占領では無く、地上人類の大量虐殺。天人がどういうものなのか、ニコラスの頭の中には沸々と黒い影が形成されて行った。

「より多くの人命をこの身を投じて守れ。大元帥閣下はこう仰せられた。いいか、自分の命を惜しむな。我々の戦果によって地上人類の、未来の子孫たちの運命が決まる」

 ニコラスは上空にいるであろう天人艦隊をこれでもかという眼力で睨みつけた。

 負けてたまるか。ニコラスはそう心に誓って操縦桿を強く握った。

 航空団は境界を越え、戦地欧州管区へと突入して行った。

 


 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 


 



 

 

 

 

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