↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇王、煩悶す。  作者: 瀬綺ララ
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

7

『覇王くん』


 名前を呼ばれ、振り返る。そこに立っていたのは、一人の少女だった。赤色混じりの茶髪と大きな目が特徴的なその女の子は、俺をまっすぐ見つめている。


 俺はその少女の名前を知っているはずだった。その少女の顔を何度も見てきたはずだった。

 だけど、どうしてだろう。俺の喉から出てくるのは掠れた音ばかりだ。彼女の名前を呼びたいのに、何も思い出せない。


 少女は俺に向かって微笑みかける。


『来てくれたんだね、覇王くん。時雨覇王くん』


 誰なんだ。どうして俺は、何も思い出せないんだ。

 

『あたし、ずっと探してたんだ。この場所にあなたが来てくれるのを、ずっと待ってた。……あたしは、ここから離れることはできないから』


 少女の白い手が俺に向かって伸ばされる。俺の顔を撫でようとしているのは分かった。だけど、身長差のせいで届くことなく、細い手は俺の胸元に触れるだけだった。


「ねえ、お願い」


 赤い口元が、秘密を囁くみたいに小さく動く。


「_____のことを、助けてあげて」


 助ける? 誰を?


 そう尋ねようとした瞬間、劈(つんざ)くような耳鳴りが俺を襲った。両耳を塞ぎ、頭が割れそうなほどに大きなその音に耐える。


 その間も、少女は途切れ途切れに言葉を発している。


「_____のことを、思い出して」


 少女の姿が遠ざかっていく。咄嗟に手を伸ばした。けれど、届くことはなかった。


「_____のことを、恨まないであげて」


 待って! 俺を置いていかないでくれ!

 

 叫ぼうとした、その声さえも、耳鳴りに押しつぶされていく。


 その瞬間、思い出した。

 そうだ、彼女の名前は_____


「……ッ!」


 目を覚ますと、見知った天井が俺を待ち受けていた。

 耳の奥で早鐘を打つ鼓動。獣のような荒い息が、自分の口から発されているものだと気がつくのに、時間がかかった。


 天井に伸ばしていた手を下ろし、ゆっくりと上半身を起こす。その拍子に、シーツの上に水滴が落ちた。頬がじっとりと濡れている。頭が割れるように痛い。


 何か、夢を見ていた気がする。忘れてはいけない夢を。見ていた、はずなのに。

 

 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白いと思ってくださった方はぜひブクマをしていただけるの嬉しいです。


感想もお待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。