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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ
第2章 ロードアウト、オン

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第35話 門上の狙撃手

撃つのは、倒すためだけじゃない。

 門上第二射撃区画には、すでに熱がこもっていた。


 防護壁の向こうで、門外が揺れている。砲撃跡の残る地面を、小型外殻種の群れが黒く流れていた。乾いた土が跳ね、割れた外殻が転がり、そこへ別の脚が乗り上げていく。迎撃隊の銃声は途切れない。排莢された薬莢が金属床を跳ね、誰かの怒鳴り声が、防衛砲の低い振動に押し潰されて消えた。


「左、押されてるぞ!」


「射線を空けろ、門下が詰まる!」


「新人列、出すぎだ! 戻せ、横が空く!」


 門上にいた兵士の一人が、照準器から目を離した。背後の昇降床が上がってくる音がしたからだ。増援なら下で受けるはずだ。こんな上まで、今さら何を運んでくる。そう思った直後、扉が開いた。


 先に降りたのは、端末を持った女だった。足を止めず、射撃区画の端へ視線を走らせる。その後ろから、白衣の男が端末を片手に現れた。どちらも、前線の兵士には見えない。最後に降りてきた少年は、装甲も銃も持っていなかった。


「おい、民間人を上げたのか?」


 誰かが低く言った。


 女が端末を操作する。射撃区画の端に、白い境界線が走った。立入制限。試験運用区画。そんな文字が一瞬だけ浮かび、兵士が眉を寄せる。


 次の瞬間、その少年の足元から黒が立ち上がった。


 光が消えたわけではない。だが、そこだけ景色が抜け落ちた。防護壁の白い縁も、金属床の継ぎ目も、少年の輪郭も見えない。黒い穴が、門上の一角に貼りついたようだった。近いのか遠いのか、立っているのか倒れているのかも分からない。風の音が、そこだけ欠けた。


「……なんだ、あれ」


 近くにいた兵士たちの指が、引き金の上で止まった。


 一秒。


 黒が剥がれた。


 そこに立っていたのは、さっきの少年ではなかった。右腕側に長い銃身を抱えた、固定砲台型狙撃スーツ。腰から背中へ伸びた反動吸収フレームが門外へ向き、膝部固定機構の爪が金属床を掴んでいる。人間が鎧を着たというより、巨大な銃に人間の身体を差し込んだような姿だった。


 門上の空気が、一瞬だけ遅れる。黒い輪を手首に巻いた少年は、防護壁の向こうを見ていた。銃身の支持部を握る指だけが硬い。だが、門外へ向いた長い銃身は揺れていない。


 女の声が、端末越しに落ちた。


「外装反応、復帰。黒化処理、一秒以内。固定砲台型狙撃スーツ、接続確認。味方位置を青、禁止射線を赤で表示します」


 少年の視線が、門外へ沈む。


 兵士は、そこでようやく気づいた。あれは逃げ込んできた民間人ではない。門の上に置かれた、新しい銃口だ。


 俺の視界に、青と赤の線が走った。


 門下の戦闘員が青。撃ってはいけない角度が赤。射撃可能域が白。訓練場で見た仮想標的とは違う。青い点は動き、赤い線は味方の背中に合わせて揺れ、白い射線は一瞬ごとに細くなったり消えたりしていた。


 銃声も、怒鳴り声も、正面へ集まっている。外殻種の群れが門へ向かって押し寄せ、迎撃隊の火線がそこへ叩き込まれていた。照準を正面の黒い塊へ乗せる。撃てる。だが、白い射線の端で、別の細い流れが残った。


 少し左。前に出すぎた青い点の列がある。押しているように見える。けれど、その横が薄い。壊れた車両の残骸を避けるように、外殻種の群れが細く曲がり、空いた横腹へ入り込もうとしていた。今はまだ青い点と繋がっている。けれど、その線は一秒ごとに細くなっている。


 アリアの声が耳元に落ちた。


「禁止射線、更新。味方位置、移動中」


 ジンの端末上で、戦場ログが一段階拡大される。俺の照準と、門下の味方位置と、外殻種の流れだけが表示に残った。


 言葉はない。


 それでも、撃つ場所を選べと言われているように見えた。


 喉の奥に残っていた硬さが、少しだけ下がる。敵を見る。味方を見る。撃てる場所ではなく、撃ったあとに何が詰まるかを見る。正面の一体に照準を置くと、左の細い流れが残る。左の流れに照準を置くと、前に出すぎた列の横が残る。


 最初の一発は、通常射撃だった。


 照準の奥で、外殻種が残骸を避けて細い通路へ入る。先頭の背がわずかに沈む。二体目が、その陰へ隠れるように重なる。


 そこだ。


 引き金を絞る。


 低い音が、背中へ抜けた。弾線が先頭の外殻を割り、奥の二体目の脚を砕く。崩れた二体が残骸の手前で絡まり、後続の流れがそこで止まった。


 前に出すぎていた青い点の横に、逃げる隙間が残る。


 門上の兵士が、照準器から片目を外した。


「……今の、二体を同時にか?」


 返事をする余裕はなかった。


 一発目で分かった。装甲は抜ける。脚も砕ける。だが、照準が戻るまでの間に、別の赤い線が細くなる。左を残せば右が抜ける。右を撃てば中央が詰まる。通常射撃の火力は足りている。足りていないのは、処理の速度だった。


 速射支援。


 銃身の奥で制御音が変わった。照準線がわずかに太くなり、次弾準備の表示が短くなる。威力は落ちる。だが、小型の脚を砕くには足りる。


 一発目は、手前の脚を削り、奥の二体目の足元を崩した。二発目は、倒れかけた外殻の背を抜き、後続の進路を塞ぐ。三発目は残骸の縁へ置いた。土が弾け、小型の足並みが半歩ずれる。


 半歩で足りた。


 門下の銃撃がそこへ入る。ばらばらに見えていた迎撃隊の火線が、詰まった場所へ吸い込まれていく。黒い流れが、一つの波ではなく、撃てる塊に変わった。


「右、止まった!」


「詰まったところ撃て!」


 兵士たちの声が変わる。


 俺はもう次を見ていた。速射の浅い反動が肩に残っている。青い点が一つ下がる。その奥で、大きめの外殻種が小型を押しのけるように進んでいた。正面の火線を受けても止まらない。あれが一歩出れば、さっき残した後退線とぶつかる。


 速射では浅い。


 通常射撃へ戻す。


 切り替え表示が出る前に、照準はもう脚へ沈んでいた。頭ではない。胸でもない。支えている前脚。その奥に、小型が二体重なっている。


 撃つ。


 通常弾が硬い外殻の付け根を抜いた。巨体が斜めに落ち、奥の二体を巻き込みながら残骸へ突っ込む。倒れた外殻が、そのまま黒い群れの壁になった。


 門下の列が下がる。


 青い点が崩れない。


「通常に戻したと思ったら……」


 誰かの声が、そこで途切れた。


 アリアの端末に、射撃ログが積み上がっていく。通常射撃、二対象処理。速射支援、連続三射。複数停滞発生。通常射撃、硬質個体脚部破壊。後続停滞。


 管制の推奨表示より先に、俺の入力が入っていた。


 まだ終わらない。奥で、群れの向きが揃い始めている。小型が散っていたはずなのに、同じ方向を向く。押されていた圧が、もう一度まとまりかけていた。


 何かがいる。


 遠い。見えにくい。砲撃跡の奥、黒い群れの背後。赤い表示にはまだ名前が出ない。ただ、外殻種の流れが、そこから波紋のように戻ってくる。


 あれを通すと、また一つになる。


 高威力狙撃。


 背中のフレームが締まる。膝部固定機構の爪が金属床を噛み直す。反動予測が赤く滲んだ。冷却はぎりぎり。外せば次が遅れる。


 手前の小型が邪魔だ。撃てない。半秒待つ。味方の青い点が下がる。赤い禁止線が細く開く。小型の背が沈む。奥の揺らぎが、ほんの一瞬だけ線になる。


 今。


 引き金を絞った。


 今日一番重い反動が、背中へ抜ける。奥の赤い揺らぎが消えた。黒い群れの向きがばらける。揃いかけていた流れが散り、門下へ向かう圧が崩れた。迎撃隊の火線がそこへ重なり、防衛砲の低い振動が一つ遅れて落ちる。


 門外の波が、割れた。


 門上で、誰もすぐには声を出さなかった。


 だが、終わりではなかった。割れた波の奥で、別の流れが起きている。小型が五、砲撃跡の縁を回り込もうとしていた。今すぐ門下へ届くわけではない。だが十秒後には、側面へ出る。


 通常では遅い。高威力は重い。速射の浅さが、ここではちょうどいい。


 俺は銃身を右奥へ振った。


 一発目で、先頭の脚を削る。二発目で、奥の二体目の足元へ通す。三発目で、倒れかけた個体の横腹を抜き、後続の進路を塞ぐ。四発目は、地面へ置いた。


 土が跳ねる。砲撃跡の縁で足を滑らせた外殻種が、横の個体へぶつかった。五体の流れが、そこでほどける。門上の迎撃隊が、遅れてそこへ射線を重ねた。


「右奥、今だ!」


「見えてる、撃て!」


 黒い群れの波がまた一つ割れる。


 俺は撃破数を見なかった。見るのは、青い点が残るかどうかだけだ。赤い線が閉じる前に、白い射線を一本通す。敵を倒すかどうかより、倒れた身体が何を塞ぐかを見る。


 深く沈む反動のあと、浅く跳ねる反動が二度続く。次に、重い一発が肩へ戻り、最後に背中ごと床へ押しつける圧が来た。


 銃身の奥で設定が切り替わるたび、肩と背中に違う重さが返ってくる。通常射撃は深く沈み、速射支援は浅く跳ね、高威力狙撃は身体ごと床へ押しつける。違いを考えている暇はない。撃つ場所に合わせて、指より先に必要な設定が変わる。


 外殻種の流れが、一本の波から、いくつもの小さな塊へ割れていく。前列が下がり、左が戻り、右奥の回り込みが止まり、中央の硬い個体が倒れた外殻を越えられずに詰まる。そこへ迎撃隊の火線が乗り、削り、割り、止める。流れが戻ろうとするたび、その前へ銃弾を置く。


 アリアの声が一瞬、途切れた。


 管制が止まったわけではない。端末には表示が走り続けている。ただ、言葉にするより早く、俺の入力が先へ進んでいた。通常射撃、二対象処理。速射支援、三連射。複数停滞。通常射撃、硬質個体脚部破壊。速射支援、回り込み阻止。高威力狙撃、遠距離目標、消失。


 白いログが積み上がる。


 ジンの指が、端末の端で止まった。


「……おいおい」


 それだけだった。


 その一言が、妙に遠く聞こえた。


 門外の圧が、目に見えて薄くなっていく。外殻種はまだいる。だが、門へ押し寄せる形が崩れていた。波だったものが、いくつもの小さな塊に分かれ、迎撃隊の火線に削られていく。


 左の列が戻る。右奥の回り込みが消える。正面の硬い個体が壁になる。出すぎていた新人列の青い点が、ようやく後退線の内側へ下がった。


 その時、奥で甲高い反応が上がった。


 端末に赤い揺らぎが走る。周囲の小型が、その音に合わせて向きを変えようとしていた。指揮個体か、呼び寄せる何かか。名前は分からない。だが、意味は分かった。


 あれを通すと、また流れが一つになる。


 高威力狙撃。


 冷却は限界に近い。


 背中のフレームが締まる。膝の爪が金属床を噛む。銃身の先が、奥の赤い揺らぎへ向いた。手前には小型。右から味方射線。赤い禁止線が揺れている。


 今じゃない。半秒待つ。味方の青い点が一つ下がる。赤い線が細く開く。小型の背が低く沈む。奥の赤い揺らぎが、ほんの少しだけ見えた。


 今。


 引き金を絞った。


 反動が、今日一番重く背中へ抜けた。奥の赤い揺らぎが消える。周囲の小型が、進む方向を失ったようにばらけた。門下の戦闘員たちが、その乱れを逃さなかった。銃声が重なり、防衛砲の低い振動が一つ遅れて落ちる。


 門外の圧が、はっきりと抜けた。


 しばらく、誰も喋らなかった。金属床に落ちた薬莢が、遅れて一つ転がる。防護壁の向こうで、黒い群れが散っていく。熱を含んだ風が、銃身の先を撫でた。


 アリアの端末に、射撃ログが並ぶ。


 通常射撃、複数。速射支援、複数。高威力狙撃、二。冷却限界接近。弾薬消費、警告域手前。


 俺はその最後の行で、ようやく息を吐いた。


 弾薬消費、警告域手前。


 胸の奥に浮きかけた熱が、端末のその一行で冷えた。


「……高いな」


 思わず声が漏れた。


 ジンが、そこで初めて笑った。


「撃ったからな」


「撃たせたんだろ」


「設定を切り替えたのはお前だ。撃つ場所を選んだのもな」


 アリアは端末を見たまま、しばらく黙っていた。それから、小さく言う。


「今の射線処理は、管制側で指定していません」


 門上の兵士たちの視線が、少し遅れてこちらへ集まる。最初に「民間人」と言った男が、照準器を下ろしたまま固定砲台型狙撃スーツを見ていた。黒い輪を巻いた手首。門外へ向いた長い銃身。まだ熱を持っている反動吸収フレーム。


 誰かが、低く呟いた。


「漆黒の狙撃手……」


 俺は銃身を下ろせなかった。


 まだ終わったとは言われていない。弾薬費も、冷却も、次の敵も、全部残っている。だが、門下の青い点は残っていた。さっき折れかけていた線が、まだ戦場の上に残っている。


 勝ったわけじゃない。ただ、戻れる形を一つ残した。


 それだけで、今は十分だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


撃つことで、誰かの退路を残す。

リゼルの装備と判断が、ようやく戦場で噛み合い始めました。


次回、戦場のログが残したものを見ていきます。


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