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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ
第2章 ロードアウト、オン

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第29話 臨時検証費

戦う形は見えた。

だが、それを動かすには金と名目が必要だった。

 壁に、二つの表示が並んでいた。


 試作ホバーバイク。


 固定砲台型狙撃スーツ。


 どちらにも赤い警告が重なっている。推奨不可。安全基準外。通常販売不可。同時運用却下。さっきまで試験用フレームを吊っていた検証室の壁が、そのまま処刑台みたいな数字の並びに変わっていた。


 俺はその文字を見上げたまま、喉の奥に残っていた熱を飲み込んだ。


 ジンは壁の表示を指で弾き、こちらを見ないまま言う。


『で、お前はこれをどう使う』


「ホバーで行って、狙撃スーツで撃つ。危なくなる前に引く。言葉にすれば、それだけだ」


 ジンの指が止まった。


『ずいぶん軽く言うな』


「軽く言ってるだけだ。中身は軽くない」


 俺は赤い表示から目を離さなかった。


 試作ホバーの機体図には、細いフレーム、浮力制御部、荷重許容、事故率が並んでいる。固定砲台型狙撃スーツの方には、重量、展開時間、固定姿勢、護衛要求、回収班要求が赤く残っていた。


「ホバーは戦うための装備じゃない。行くためと、戻るための足だ。狙撃スーツは、近づかれる前に終わらせるための場所。俺は部隊に入れない。継戦も救助も、誰かの援護も前提にできない。だから、撃ち合いになった時点でかなり負けに近い」


 アリアの指が端末の上で止まった。


 ジンは何も言わない。


 だから、続けた。


「まず敵の反応範囲に入る前に位置を見る。撃てる距離なら撃つ。撃てないなら撃たない。倒しても敵を呼ぶなら撃たない。回収できるものだけ拾って、ホバーで戻る。外で必要なのは、たぶん倒した数じゃない。持ち帰れたかどうかだ」


 口に出すほど、ひどい作戦に聞こえた。


 それでも、俺の条件で前に出るなら、それしかない。


「死亡記録を見た。どこで帰れなくなったか、何を持ちすぎたか、何を撃ちすぎたか、どの装備を過信したか。あれを見たら、強い装備を持てば何とかなるとは思えない。むしろ、強い装備ほど使いどころを間違えると死ぬ」


 アリアが端末から顔を上げた。


「正式には、事故要因共有ログです」


「名前を変えても、死に方の一覧だろ」


 アリアは少しだけ間を置いた。


「否定はしません。あれは、次の対象者を死なせないために残された記録です」


 否定しないのかよ。


 ジンが喉の奥で短く笑った。


『いい。そこを見る新人は少ない。だいたいは武器の威力、装甲の厚さ、討伐報酬、派手な成功例を見る』


「成功例は真似できない。失敗例は避けられる可能性がある。俺が見るなら、そっちだ」


 言いながら、頬の医療パッチが冷たく感じた。


 さっきまで自分が処分寸前だったことを、体がまだ覚えている。失敗した時に何が残るか。その答えは、壁の赤い文字より分かりやすかった。


 ジンはホバーの図面を拡大した。細い機体の下に、青い制御光の表示が走る。


『考え方は悪くねぇ。だが、撃って逃げるって言葉ほど簡単じゃない。固定砲台は弾が高い。銃身も焼ける。冷却材も食う。撃った場所は敵に見られる。ホバーは速いが、荷重と姿勢に弱い。逃げる途中で姿勢を崩せば、そのまま地面に削られる』


 壁に事故記録が開いた。


 転倒、制御喪失、帰還不能、回収失敗、機体破損、操縦者死亡。赤い文字が淡々と並ぶ。


『戻れたとしても、赤字なら次がない。機体を壊して帰ってきた、弾薬を使い切って何も拾えなかった、回収物より修理費が高かった。そういう生還は、次の出撃を殺す』


「だから、撃たない判断がいる。倒せるかどうかじゃなくて、撃ったあとに戻れるか、拾えるか、次も出られるかを見る」


『だが、撃たなきゃ死ぬ場面もある』


「その時は撃つ。けど、その時以外で撃つなら、理由がいる。弾代も、冷却材も、修理費も、全部あとで自分の首に返ってくるなら、気持ちよく撃つのはただの赤字だ」


 ジンの目が少しだけ細くなった。


『その“その時”を判断できるかを見る』


 壁の表示が切り替わった。


 固定砲台型狙撃スーツの射撃ログが出る。模擬弾薬、実弾、銃身摩耗、冷却材消費、反動補正、照準固定、展開解除時間。


 数字が並んでいるだけなのに、胃の奥が重くなる。


 撃てば弾が減る。動けば部品が削れる。冷やせば冷却材を食う。壊れれば終わる。戦闘は派手な絵ではなく、次に出るための数字が減っていく作業だった。


 アリアが端末を操作する。


「想定運用を試算します。試作ホバーバイク、固定砲台型狙撃スーツ、模擬弾薬、実弾使用時の単価、冷却材、整備費、破損時補填、回収不能時損失。検証運用として最低限に抑えても、この組み合わせは金銭的にかなり危険です」


 壁に新しい表が開いた。


 数字の列を見た瞬間、喉が鳴った。


「……これ、出撃する前に死ぬだろ」


「比喩としては正確です。装備を買えば終わりではありません。動かす、撃つ、冷やす、直す、運ぶ、保管する。次に使える状態へ戻すところまで含めて、装備です」


 アリアの声は淡々としていた。


 だが、淡々としている分、余計に刺さる。


 俺が見ていた棚の価格なんて、入口でしかなかった。買えば終わりじゃない。動かすたびに金が減る。撃つたびに次の選択肢が削れる。


 ジンが壁の数字を見上げたまま言う。


『だから、臨時検証費だ』


 アリアの指が止まった。


「兄さん。その名目は本来、正式試験対象のための枠です。処分保留中の対象者に、試作ホバーと固定砲台型狙撃スーツの同時検証費を通すのは、かなり強引です」


『正式じゃないから臨時なんだろ。問題ない』


「言葉遊びです」


『制度はだいたい言葉遊びだ。通る言葉を選べるかどうかで、動く金が変わる』


「記録に残ります」


『残せ。あとで俺が読む』


「読むだけで済ませないでください。監査が入った場合、説明するのはこちらです」


『じゃあ、お前が説明しやすい名目に直せ。俺よりうまいだろ』


「そういう問題ではありません」


 兄妹喧嘩の途中で悪いが、聞かないわけにはいかなかった。


「その費用、俺が払うのか?」


 アリアの視線がこちらへ向いた。


「原則として、検証対象者負担です。ただし、今回に限り、兄さんの承認で臨時検証費を申請できます。自由に使える資金ではありません。用途はホバー、狙撃スーツ、弾薬、冷却材、整備、検証に必要な範囲に限定されます」


「つまり、俺が金持ちになるわけじゃない」


「違います。あなたは予算を持つのではなく、予算の使用対象になります」


「言い方が怖い」


「事実ですので」


 ジンが胸元から黒い決済タグを取り出した。


 薄い金属片の端に、細い認証光が走る。さっき俺が消して、戻したものだ。ジンの手元にあるだけで、壁の数字が少し違って見える。


『臨時検証費として俺が通す。だが勘違いするな。好きな装備を買う金じゃねぇ。必要な検証を進めるための金だ。お前が変なものを欲しがったら、アリアが止める』


「変なものは買わない」


 アリアが端末から目を上げないまま言った。


「あなたはすでに、警備備品の椅子を欲しがっています」


「あれは証明のためだ」


「記録上は、警備確認中に備品の譲渡を要求した対象者です」


 ジンが腹を押さえて笑った。


『肩書きが増えてきたな、リゼル君。警備対象、観測管理対象、備品要求者。あと少しで書類だけなら一人前だ』


「書類で一人前になりたくない」


 軽口を叩いているのに、壁の数字は消えない。


 試作ホバー、固定砲台型狙撃スーツ、臨時検証費。


 戦い方を語ったら、次に出てきたのは費用だった。夢の装備でも、万能の力でもない。動かすための金と名目と承認者。そこまで揃って、ようやく一歩目だった。


 アリアが壁の表示に、さらに項目を追加した。赤い警告と青い予算枠の間に、食事、医療チェック、施設内移動権限、宿泊区画の文字が差し込まれていく。


「装備検証に必要な最低限の生活維持費も、検証維持費として処理します。食事、医療チェック、施設内移動、それから宿泊区画の使用です。外部契約者用の客室を一室、あなたの滞在用に確保します」


「客室?」


 処分保留、観測対象、検証協力者。そんな単語が並んでいたせいで、仮眠室か、倉庫の隅みたいな場所を想像していた。だが、アリアが告げたのは、来客技術者や短期滞在の契約者が使う客室だった。


「個室、寝台、シャワー、洗面設備、壁面端末、食事受け取り設備があります。高級宿泊施設ではありませんが、通常の短期滞在には十分な環境です。少なくとも、外部の安宿より安全性と衛生面は上です。ただし施設内客室ですので、入退室には認証が必要です。食事の受け取り、医療チェック、検証区画への移動、夜間外出、緊急呼び出しへの応答はすべて記録されます。室内の私的領域には原則干渉しませんが、安全管理用の環境センサーと異常反応検知は稼働します」


 悪くない。というより、普通に良い。


 ベッドがあって、シャワーがあって、飯も受け取れる。金も信用もない今の俺からすれば、文句をつける理由はほとんどなかった。


 けれど、ドアを開けた時間も、飯を受け取った時間も、どこへ移動したかも残る。閉じ込められているわけではない。外に出るなと言われたわけでもない。ただ、自由に動いた跡は全部残る。


 ジンが横から言った。


『外の宿に放り込む方が面倒なんだよ。お前は今、試作装備触ってる上に処分保留から予算引っ張ってる。何かあった時、探し回る方が手間だ。施設内にいた方が医療も警備も近いし、呼び出しも早い。こっちも楽だし、お前も死ににくい』


 言い方は雑だが、筋は通っていた。信用されたから客室を用意されたわけじゃない。管理しやすい場所に置いた方が、俺にも施設にも得だからだ。


「待遇はいいけど、完全に自由ってわけじゃないんだな」


「自由行動は可能です。ただし、施設内権限と安全管理の範囲で記録されます」


「それを不自由って言うんじゃないのか」


「安全管理です」


「便利な言葉だな」


「便利だから使われます」


 アリアは表情を変えなかった。


 壁の表示には、試作ホバー、固定砲台型狙撃スーツ、臨時検証費、宿泊区画が並んでいる。行くための足、撃つための装備、それを動かす金、寝るための部屋。必要なものが一つずつ揃っていく。ただし、どれも俺のものではない。使えるだけで、自由にできるわけではない。


 俺は頬に残る医療パッチの冷たさを指で押さえた。助けられているのは間違いない。だが、迎え入れられたわけではない。ここにあるのは信用ではなく、管理する価値だ。それでも、外で寝るよりはいい。金も信用もない今の俺には、十分すぎる足場だった。


 ジンが黒い決済タグをしまう。


『覚えとけ。装備は手に入れたら終わりじゃねぇ。使ったあとに、次も使える状態で残せるかだ。戦場から戻るだけなら、まだ半分だ。機体も、弾も、金も、信用も、次に繋がる形で残して初めて帰還になる』


「……分かってる、とは言いにくいな」


『分かってねぇ顔だ』


「今、分かり始めたところだ。少なくとも、撃てるから撃つ、乗れるから乗る、買えるから買う、そういう話じゃないのは分かった」


 ジンはそれで納得したのか、壁の奥にある扉へ向かった。認証音が鳴り、検証室の奥の扉がゆっくり開く。低い駆動音が床を震わせ、冷えた空気の中に、金属と樹脂の匂いが混じった。


 作業灯の下で、細いフレームがわずかに浮いていた。車輪はない。脚もない。機体の下には青白い制御光が薄く滲み、固定アームだけがそれを床へ繋ぎ止めている。展示棚で見た時より、ずっと危うく見えた。軽いというより頼りない。速いというより、落ちる寸前で止まっている。


『まずはこいつだ。撃つ前に、帰る足を作る』


 ジンの声に、俺はまだ痺れの残る頬を押さえた。


「最初から落ちる前提なのか」


『ホバーは最初に落ちる。そういうもんだ』


「嫌な断言だな」


『安心しろ。施設内だ。死ぬほどは落ちねぇ』


「その“ほど”がいらないんだよ」


 青白い制御光が床の上で細く震えている。まずは、帰るための足。その足は、見るからに信用ならなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、リゼルの戦い方と、それを動かすための現実の話でした。


装備は手に入れたら終わりではなく、動かし、直し、次も使える状態にしなければならない。


そのための第一歩です。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


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