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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ
第2章 ロードアウト、オン

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第28話 位置ズレなし

金属片では済ませてもらえない。

次に試すのは、戦場で使うための大きさだった。

 五つ。


 今は全部空いている。


 決済タグより大きい。重さも違う。だが、枠に入るかどうかは重さでも体積でもない。俺がそれを一つの対象として見られるかどうか。少なくとも、今のところはそう感じる。


 喉が乾いた。


 失敗すれば、やっぱり危険物だ。成功しても、もっと厄介なものになる。


『顔が固いぞ』


「壊したら怒るって言われたからな」


『怒るだけで済むようにしろ』


「無茶言うな」


『やれ』


 俺は息を吸った。


 手は伸ばさない。触れない。フレーム全体を見る。固定具ごとではない。フレームだけだ。支えている器具は別。吊られている骨格だけを、一つの対象として掴む。


 意識を、枠の内側へ押し込んだ。


 試験用フレームは、すぐには消えなかった。


 最初に歪んだのは、作業灯の光だった。黄色い線が骨格の輪郭で折れ、真っ直ぐ届かなくなる。そこにあるはずなのに、目が焦点を結ばない。腕部の骨格が揺れ、脚部の影が床から剥がれる。


 固定具が遅れて軋んだ。


 金属が外れる音はしない。切断もない。転送光もない。爆発もない。ただ、そこに置かれていた重さだけが、世界から抜き取られていく。


 フレームの輪郭が薄れた。


 次の瞬間、固定具が支えるものを失って、わずかに跳ねた。吊り具が遅れて揺れ、乾いた金属音が検証室の壁へ飛ぶ。


 試験用フレームは、なくなっていた。


 床には影だけが残り、その影も作業灯の揺れに合わせて薄く崩れていく。


「質量反応、消失。位置情報、喪失。搬送ログ、不一致。外部転送履歴、該当なし」


 アリアの声が細くなる。


 端末上に赤い警告窓がいくつも開いた。彼女はその全てを追おうとしていたが、指が明らかに遅れている。機械が異常を吐き、アリアがそれを拾う。順番が逆だ。


 ジンは動かなかった。


 笑わない。驚きもしない。ただ、消えた場所を見ている。頭の中で、起きた現象を分解している目だった。


『戻せるか』


 第一声は、またそれだった。


 アリアが顔を上げる。


「兄さん」


『壊れてないなら戻せるはずだ』


「壊れていない保証がありません」


『だから戻せるかを見る』


 ジンの声は低い。けれど、熱があった。


『消滅じゃねぇ。破壊でもねぇ。質量反応が切れたあと、残留熱だけが残ってる。転送なら座標の尾が出る。圧縮なら空間負荷が残る。今のは、そのどれでもねぇ』


 ジンは一歩だけ前に出た。


 消えた場所へ手を伸ばしかけ、途中で止める。自分の指を危険域に入れない。興奮していても、その線は踏まない。


『世界の中で動かしたんじゃねぇな』


 俺は答えなかった。


 肯定もしない。否定もしない。


 視界の端を見る。


 五つある枠の一つが埋まっている。表示名はない。ただ、ぼんやりとした輪郭だけがある。試験用フレーム、と俺が認識しているものが、そこに収まっていた。


 重さの表示はない。体積もない。枠だけが埋まっている。


 ジンの目が、俺の視線の動きを追った。


『見えてるんだな』


「俺には」


『枠か』


 ジンの肩が、わずかに止まった。


 それだけで十分だったらしい。


『出せ』


「場所は」


『元の場所だ。固定具に噛ませろ。置けるならな』


「また要求が高い」


『戦場で使うなら、雑に戻す方が危ねぇ』


 言われて、反論できなかった。


 戻す場所を意識する。


 座標ではない。距離でもない。置かれていた場所。吊られていた姿勢。固定具に支えられていた角度。作業灯の下にあった、あの状態。


 この世界の計測ではなく、俺の認識で指定する。


 枠の中のものを掴む。


 意識を、逆向きに押し出した。


 空間がまた歪んだ。


 最初に現れたのは影だった。次に、金属の輪郭。黄色い作業灯が折れ、骨格の表面に戻っていく。腕部、脚部、胴体、センサー枠。欠けていない。焼けてもいない。


 試験用フレームが、元の位置に戻った。


 固定具が、最初からそこにあったみたいに噛み合っている。吊り具もずれていない。床も鳴らない。ただ、消えていた重さだけが、世界へ戻った。


 検証室の機械音が、遅れて耳に入ってくる。


 アリアが端末を見下ろした。


 指が止まる。


「質量反応、復帰。外装損傷なし。熱変化、軽微。位置ズレ……」


 声が止まった。


 ジンが視線だけを向ける。


『どうした』


「位置ズレがありません」


 赤い警告窓が、ひとつずつ消えていく。


「元座標と完全一致。姿勢角、固定点、接触圧、すべて復帰前と同じです」


 アリアの声がかすれた。


「……ありえません」


 ジンの顔から、薄い笑みが消えた。


 今度こそ、技術者の目になった。


『ズレなしか』


 彼は試験用フレームへ近づいた。固定具に指を当て、支柱を見て、床の傷を見る。フレームの表面を軽く叩くと、乾いた金属音が鳴った。


『転送なら無理だ。再配置なら必ず誤差が出る。吊り具の応力も変わる。だが、こいつは戻したんじゃねぇ』


「戻したんじゃない?」


『元にあった状態そのものを戻した』


 俺は答えなかった。


 頭の奥に熱が残っている。痛みではない。強く集中したあと、視界の端だけがわずかに遅れるような感覚だった。大きいものを一つの対象として掴むには、まだ意識をかなり持っていかれる。


 ジンはそれも見逃さなかった。


『負荷はあるな』


「ある。けど、できないほどじゃない」


『連発は?』


「できる。ただ、雑にやるとズレる気がする」


『ズレる?』


「感覚の話だ。大きいものほど、ひとつの対象として掴むのに集中がいる。慣れれば短くなるかもしれない」


 ジンの目が細くなった。


『限界じゃなくて、操作精度の問題か』


「たぶん」


『いいな。訓練で詰められる』


 アリアの端末を持つ指が止まる。


「その“たぶん”で装備を出し入れするつもりですか」


「だから、今ここで試してる」


『正論だな』


「兄さん、正論ではありません。危険な検証です」


『危険だから記録してる』


 ジンは壁に表示を開いた。


 試作ホバーバイク。


 固定砲台型狙撃スーツ。


 どちらにも、赤い警告が並んでいた。推奨不可。安全基準外。通常販売不可。同時運用、却下。


『ようやく話が戻るな』


 ジンは笑わなかった。


『お前が欲しがった二つだ。次は、それを繋げるか見る』


 俺は作業灯の下に戻った試験用フレームを見る。


 頭の奥には、まだ熱が残っている。だが、膝は崩れていない。吐き気もない。少なくとも、一度なら大きなものも扱える。


 その事実を、ジンもアリアも見た。


 便利な力ではない。安全な力でもない。だが、使い道はある。


 壁の赤い警告表示の向こうで、試作ホバーバイクの細いフレームが浮かんでいた。その隣に、固定砲台型狙撃スーツの長い銃身が伸びている。


 撃つための装備。帰るための足。


 その二つの間に、ようやく俺の異常が置かれた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は、リゼルの力が次の段階へ進む回でした。


便利かどうかではなく、どこまで正確に扱えるのか。

そこを見られ始めています。


少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


大変励みになります。

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