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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ
第1章 剣と魔法はなかった

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第22話 取得経路不明

踏み込みを間違えた。

気づいたときには、もう客ではなかった。

 警備員は、二人では終わらなかった。


 倉庫を出た時点で、通路の両側にさらに二人が立っていた。肩の警告灯が白く点滅し、透明なシールドの奥から細い走査光がこちらを撫でる。視線ではない。体温、脈拍、端末情報、拘束具の状態。俺が人間かどうかより先に、動く危険物かどうかを測っている。


 手首の拘束具が、歩幅に合わせてわずかに鳴る。痛みはない。だが、逃げる余地もない。前に二人。左右に二人。後ろにも一人。さっきまで目の前で端末を抱えていた彼女の姿は、通路のどこにもなかった。


 説明もない。見送りもない。あの整った声も聞こえない。


 アリアという名前を出した瞬間、俺は客ではなくなった。候補者でも、契約者でもない。警備ログには、ただ一つの扱いだけが表示されている。


 確認対象。


 赤い誘導線が、床をまっすぐ伸びていた。


 俺はその上を歩かされた。歩いている、というより、運ばれているに近い。左右の警備員の歩調は揃っていて、俺が少しでも遅れれば拘束具が引っかかる。速めれば、前の警備員が半歩だけ速度を落とす。逃げ道も、急停止する隙も、最初から作られていなかった。


 壁の表示が流れていく。


 販売区画。補給区画。搬送レール。一般通路。


 そこまでは読めた。だが、その先から表示が消えた。区画名が出ない。案内線もない。ただ、警備用の赤い光だけが床に残っている。


「どこへ連れていくんだ」


 声は思ったより乾いていた。


 前を歩く警備員は答えない。後ろの警備員も黙ったままだ。透明なシールドの奥で、走査光だけが一度、俺の顔を横切った。沈黙が返答だった。


 やらかした。


 完全にやらかした。


 名前を出せば届くと思った。装備の組み合わせを言えば、誰かが興味を持つと思った。相手が窓口なら、言葉を選べば通ると思っていた。


 甘かった。


 ここは店じゃない。軍需施設だ。非公開情報を口にした時点で、俺は客ではなく、漏洩経路か異常対象になった。


 スキル。転生。ゲーム。


 どれも説明にならない。俺の中では繋がっている。だが、この世界の記録には載っていない。端末に映らないものは、言い訳ではなく異常として扱われる。妄想。混乱。認識異常。さっき見えた嫌な単語が、まだ視界の奥に残っていた。


 赤い誘導線が、分厚い隔壁の前で止まった。


 扉には、何も書かれていない。認証窓だけが、壁に埋まっている。


 警備員の一人が端末をかざす。低い音が鳴り、ロックが外れた。重い金属音が通路の天井へ跳ねる。開いた隙間から、白い光が漏れた。


 今度こそ、喉の奥が固まった。


 中は狭かった。


 展示区画の白ではない。病室の白でもない。何も置かないための白だった。壁、床、天井。継ぎ目の少ない面が四方を囲み、中央に固定式の椅子が一つだけ置かれている。


 机はない。窓もない。壁の上部に、黒い小さな穴がいくつも並んでいた。カメラなのか、センサーなのか、銃口なのか、見ただけでは分からない。


 警備員が、椅子の方を顎で示す。


 拒否はできない。


 俺は座った。


 椅子の背が、思ったより冷たい。腰と肩に薄い固定ベルトが走り、手首の拘束具が肘掛けの認証部に吸い込まれる。金属音が二回。固定完了の短い表示が、視界の端に浮かんだ。


 足首までは固定されなかった。


 それが余計に嫌だった。


 逃げられる形だけ残して、逃げられないと理解させる作りだった。


「確認を開始します」


 警備員の一人が言った。


 声に人間味は薄い。訓練場の教官とも違う。受付の事務音声とも違う。ただ、処理が始まることを告げる声だった。


 壁に、俺の情報が表示される。


 リゼル。戦士登録済み。問題行動記録あり。非公開情報接触。個人情報不明取得。取得経路不明。警備確認対象。


 ろくな文字がない。


 俺が手首を少し動かすと、拘束具が鳴った。金属が皮膚に当たり、冷たい輪郭だけを残す。


「対象者リゼル。あなたは、ショップ区画担当者の個人名を、本人が名乗る前に発言しました。また、その担当者の家族関係に関する情報も発言しています。事実ですか」


「……事実です」


「取得経路を説明してください」


 来た。


 そこだけ、逃げ場がない。


 俺は舌の先で奥歯の裏を押した。口の中が乾いている。唾を飲み込むだけで、喉が引っかかった。


「説明はできる。でも、たぶん信じてもらえない」


「信じるかどうかは、確認側が判断します。取得経路を説明してください」


「昔、情報を見た」


「どの情報源ですか」


「それは言えない」


 警備員のシールド奥で、走査光が一度細くなった。


 壁の表示が切り替わる。


 回答拒否。不明取得情報。認識異常可能性。


 胃の奥が、ぐっと縮んだ。


「拒否じゃない。説明しても通じないだけだ」


「通じるかどうかは、回答後に判断されます。説明できない場合は、取得経路不明として処理されます」


 会話にならない。


 いや、向こうは会話をするつもりがない。


 これは取り調べですらない。確認作業だ。俺が人間としてどう考えたかではなく、記録上の空白を埋めるためのやり取りだ。空白を埋められないなら、異常として処理される。


 喉の奥が熱くなる。


 違う。俺は敵じゃない。何かを盗んだわけじゃない。たまたま知っていただけだ。前世で、画面の向こうで、似た名前と役割を見ていただけだ。


 言えるか。


 言えるわけがない。


 そんなもの、この世界では言葉にならない。


 警備員が一歩下がった。壁面の黒い穴のうち、いくつかが薄く光る。走査光が額、首、胸、手首の順に走った。熱を持たない光のはずなのに、皮膚の下まで覗かれているような嫌な感覚が残る。


「生体反応上昇。脈拍増加。発汗あり」


「そりゃ、増えるだろ」


「質問にのみ回答してください」


 思わず笑いそうになった。


 笑ったら、たぶん記録される。不適切反応。認識不一致。いくらでも札を貼られる。


 俺は息を整えようとした。吸った空気が胸の途中で引っかかる。椅子の背が冷たい。指先が汗で湿っているのに、手首だけは拘束具のせいで冷えきっていた。


「あなたは、試作ホバーバイクおよび固定砲台型狙撃スーツに関する非公開情報にも接触しています。単独運用想定、開発者の傾向、非公開装備担当者との関係性。いずれも通常閲覧範囲外です」


「俺は、装備の話をしただけだ」


「装備の話には、非公開情報が含まれていました」


「じゃあ、あの二つの組み合わせを出したこと自体が問題なのか?」


「単独運用想定については、異常判断として記録されています。ただし、現時点での確認対象は、取得経路不明の情報です」


 壁に、また文字が出る。


 取得経路不明。


 その四文字が、俺の首にかけられた札みたいに見えた。


「俺が、たまたま予想した可能性は?」


「個人名および家族関係は、予想として処理できません」


「偶然は」


「偶然として処理できません」


「記憶違いは」


「記憶対象を提示してください」


「……言えない」


「取得経路不明として記録します」


 終わった。


 言葉が、全部壁に吸われていく。


 俺が何を言っても、決まった箱に入れられる。拒否。混乱。説明不能。不明取得。認識異常。壁の表示は増えるのに、俺の立場はどんどん狭くなる。


 頭のどこかで、冷えた計算が始まった。


 拘束継続。外出制限。戦士登録の凍結。装備契約の停止。ギルドへの警戒共有。最悪、都市外退去。


 都市外退去。


 壁の外。エイリアン。補給なし。医療なし。


 終わり。


 背中に汗が落ちた。白い部屋の空調が、やけに乾いている。汗が冷えるのに、口の中だけが乾く。椅子の固定ベルトが胸の動きに合わせてわずかに擦れた。


「俺は、何かを盗んだわけじゃない」


 声が少し低くなった。


「非公開情報を売る気もない。誰かを脅す気もない。俺はただ、装備を探してただけだ。部隊に入れない。信用もない。だから、どうにかして一人で帰れる形を作ろうとした。それだけだ」


「動機は記録されます」


「記録じゃなくて、聞いてくれ」


「確認中です」


 違う。


 聞いていない。


 処理している。


 俺は歯を噛んだ。


 ここで暴れれば本当に終わる。叫んでも終わる。泣きついてもたぶん終わる。なら、できることは一つしかない。


 言葉を減らす。


 余計な説明を捨てる。


 この世界で通る形だけを残す。


「俺にできる証明はある」


 警備員の走査光が止まった。


「取得経路の説明にはなりません」


「それでも、俺がただの妄想で言ってるかどうかは分かる」


「方法は」


 俺は手首の拘束具を見る。


「拘束を外せば、見せられる」


 部屋の空気が変わった。


 警備員の一人が、明らかに足の位置を変えた。壁の黒い穴のうち、二つがこちらを向いた気がした。気のせいであってほしい。だが、たぶん気のせいじゃない。


「不許可です」


 即答だった。


「対象は警備確認中です。拘束解除は認められません」


「じゃあ、確認は終わらない」


「取得経路を説明してください」


「だから、それはできない」


「では、確認不能として処理します」


 確認不能。


 また一つ、終わりに近い言葉が出た。


 俺の喉が鳴る。


 ここまでか。


 ホバーバイクも、固定砲台型狙撃スーツも、ジンも、アリアも、全部遠い場所に戻っていく。俺は、非公開情報を口にした危険人物として処理される。戦士登録は残るかもしれない。でも、装備も任務も、まともな道は閉じる。


 せっかく、帰るための足が見えたのに。


 せっかく、撃つ場所と逃げる道が見えたのに。


 手に入れる前に、自分の口で潰した。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


 届くと思って出した言葉は、届く前に危険物として処理されました。


 次の扉が、救いなのか。

 それとも、もっと深い場所なのか。


 少しでも続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


 大変励みになります。

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