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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ
第1章 剣と魔法はなかった

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第20話 帰るための足

勝つための装備ではない。

まず必要なのは、生きて帰るための足だった。

「移動手段も、確認したいんですが」


 俺がそう言うと、受付嬢は端末から顔を上げた。


「車両、ですね?」


 理解が早い。


 端末の表示が、装備カテゴリから移動支援カテゴリへ切り替わる。空中に浮かんでいたスーツの輪郭が薄れ、代わりに車両用のホログラムが床の高さへ並び直した。


「徒歩は避けたい。個人運用で」


「承知しました。単独での移動、偵察、回収補助。加えて、戦闘継続よりも離脱を優先する条件で検索します」


 彼女の指が動く。


 小型装輪車、軽量トライク、多脚偵察機。候補が空中に並んだ。


 どれも悪くない。小型装輪車は安定している。軽量トライクは整備が楽そうだ。多脚偵察機は、不整地でも動ける。


「どれも癖はありますが、実績はあります」


 受付嬢の説明は丁寧だった。端末上の映像をただ流すだけではなく、こちらが見るべき場所へ、指先で視線を誘導してくる。


「小型装輪車は、整備性と積載量が安定しています。ただし、走破性は路面条件に左右されます」


 映像が切り替わる。舗装路では速い。だが、瓦礫混じりの地面では途端に速度が落ちる。


 タイヤが石を噛み、車体が跳ねる。次の瞬間、速度表示が半分近くまで落ちた。安定はしている。だが、安定して遅くなる。


 悪くない。けれど、逃げる足としては少し鈍い。


「軽量トライクは、維持費を抑えられます。小回りも利きます。ですが、被弾時の防御性能は最低限です」


 ホログラムの機体は細かった。無駄がなく、軽い。整備もしやすそうだ。逃げ足はある。だが、撃たれたら終わる。


 映像の中で、側面からの破片がフレームを叩く。車体は持ちこたえている。だが、乗っている人間の方が先に危ない。


 装備が壊れる前に、人が壊れる。


 それは、困る。


「多脚偵察機は、不整地対応能力があります。段差、瓦礫、傾斜地には強いです。ですが、機構が複雑です。整備拠点から離れすぎると、故障時の復帰が難しくなります」


 多脚機の足が、瓦礫を掴む。確かに強い。段差に強く、傾斜にも粘る。荒れた地面を、確実に越えていく。


 だが、足が多いということは、壊れる場所も多いということだ。一本死ねば姿勢が崩れる。二本死ねば、たぶん帰れない。


 なるほど。


 どれも正しい。どれも、選べる。だが、決め手に欠ける。


 俺が欲しいのは、ただ移動するための足じゃない。撃たれたあと、囲まれたあと、想定していたルートが潰れたあと、そこからまだ生きて帰るための足だ。


 視線が、候補の横を通り過ぎる。


 受付嬢は、その動きを見ていた。


 彼女の指が、端末の上で止まる。候補一覧の端で、表示されていない空白がひとつ残っていた。


「……実は」


 声が少し落ちた。


「正式には、お勧めできないものが一台だけあります」


 AIのウィンドウには何も出ない。候補一覧にも、まだ表示されていない。彼女の指は、その空白の上に置かれていた。


「AIは、この機体を候補に出しません。安定性、事故率、整備性、運用保証。そのすべてを総合すると、推奨対象から外れるためです」


 そこで彼女は、こちらを見た。


「ただ、あなたが先ほど言った条件には、噛み合う部分があります」


「逃げる足、ですか」


「はい」


 彼女は小さく頷いた。


「試作段階で、現場から“これだけは残してくれ”と言われた機体です。正式採用には届きませんでした。ですが、実際に乗った人間からは、評価が割れています」


「割れる?」


「二度と乗りたくないという人と、これ以外では帰れなかったという人です」


 その言い方で、胸の奥が動いた。


 奥のクレーンが動く。レールの上を滑る音が、倉庫の天井へ薄く反響した。固定具が外れ、支柱が下がる。暗いラックの奥から、細い影が引き出される。


 現れたのは、タイヤのないバイクだった。


 地面から、わずかに浮いている。


 車体の下で、薄い光が揺れていた。影が床に張りつかない。わずかに浮いたまま、機体全体が細かく姿勢を保っている。落ちそうで落ちない。止まっているのに、静止しているようには見えない。


「実験用ホバーバイクです」


 来た。


 喉の奥で、声にならないものが跳ねた。


 俺は、思わず一歩近づきそうになった足を止めた。近づいたら、手が伸びる。そういう形をしていた。


「不整地対応。段差走破性は高いです。車輪を持たないため、瓦礫や浅い裂け目を越える能力もあります。地面に接触しないぶん、路面の影響を受けにくい」


 受付嬢の説明に合わせて、映像が展開される。


 割れた舗装、崩れた段差、砲撃跡の浅い窪み。ホバーバイクは、その上を滑る。


 速い。


 タイヤが跳ねる場所を、機体はそのまま越えていく。地面を踏まない。だから、地面に足を取られない。


 ただし、機体の尻が小さく振れる。


 乗り手の重心が遅れると、すぐに軌道が乱れる。映像の中で、車体がわずかに横へ流れた。操縦者の身体が遅れ、次の瞬間、姿勢制御が赤く点滅する。


「ですが」


「安定性が低い」


 口に出した瞬間、受付嬢がこちらを見る。


「……ご存じでしたか?」


「予想です」


 正確には、知っている。


 ゲームでも、こういう機体はそうだった。速い。浮く。曲がる。だが、雑に扱うとすぐ暴れる。


「その予想は、ほぼ正しいです」


 受付嬢は表示を切り替えた。


 姿勢制御、重心補正、横滑り、衝突事故率、急停止失敗率。赤い数字が、いくつも並ぶ。


「操縦者の姿勢制御に、大きく依存します。事故も多く、表には出していません。特に、急旋回と急停止の失敗率が高い。機体そのものが壊れるより先に、操縦者が投げ出される事例が多くあります」


 だから、ここにある。


 俺は、ホバーバイクの下に視線を走らせる。


 浮力制御。反応速度。旋回半径。姿勢補正。表示される数値は、正規品より不安定だった。


 だが、不安定だからこそ、動かせる余地がある。機械任せではない。乗る人間の癖が出る。


 戦闘補助が、ここに噛むかもしれない。


 指先が、わずかに熱を持つ。


 いける。


「航続距離は長くありません。整備性も特殊です。部品も、標準品だけでは揃いません」


 受付嬢は、きちんと欠点を並べた。


 いい。


 隠されるより、ずっといい。


「加えて、安定性の問題から、正式な輸送装備としては採用されていません。操縦者が慣れるまでは、転倒よりも姿勢崩壊による衝突事故のほうが多いです」


 危険だ。間違いなく危険だ。だが、危険の形が見える。見える危険なら、まだ対処できる可能性がある。


「それでも、現場が残してくれと言った理由は?」


 俺が聞くと、彼女は少しだけ視線を機体へ移した。


「逃げ切った記録があるからです」


 短い言葉だった。だが、それで十分だった。


「通常車両では抜けられない瓦礫帯を越えた例があります。多脚機では間に合わなかった距離を、これで離脱した例もあります。撃たれながら戻った例は少ないですが、撃たれる前に反応範囲から抜けた記録は残っています」


 俺の頭の中で、映像が動き始める。


 瓦礫の上を抜ける。轍のない地面を滑る。敵の反応範囲をかすめて、斜めに逃げる。荷物を最小限に絞り、足だけで生存率を稼ぐ。


 勝つための装備じゃない。


 死なないための装備だ。


 受付嬢が、最後にこう付け足した。


「ただし、使いこなせれば。これ以上に“逃げられる”個人用車両はありません」


 俺は、頷いた。


 視線が、他の車両よりも長く留まっていることに気づく。悟られないよう、俺は表示された維持費へ目を移した。


 そこで、一度だけ息が止まった。


 支度金では届かない。


 いや、機体だけなら、無理をすれば届く数字ではある。だが、初期整備、予備部品、保険、調整費まで含めれば完全に足が出る。


 やっぱり、普通に買うものじゃない。


「購入は、無理ですね」


 俺が言うと、受付嬢は否定しなかった。


「通常購入であれば、そうなります」


「通常購入であれば?」


 彼女の指が、価格表示の横にある別枠を開いた。


 そこには、販売価格とは違う項目が並んでいた。試験運用、個人検証、保証限定、ログ提出義務、破損時負担、要審査。


「この機体は正式採用されていません。保管コストも発生しています。条件が合う操縦者であれば、通常販売ではなく、検証運用として申請できる余地があります」


 売り物ではなく、実験対象。


 その言葉が、胸の奥でかすかに引っかかった。


「つまり、買うんじゃなくて、使えるか試す」


「かなり乱暴に言えば、そうです。ただし、自由に使えるわけではありません。運用ログの提出、使用条件、破損時の責任範囲、すべて契約に含まれます」


 なるほど。


 安いわけじゃない。安く見えるように、別の鎖がついているだけだ。だが、それでも、戦場に出るための足がなければ、そもそも始まらない。


「それで十分です」


 受付嬢の指が、端末の上で一度止まった。だが、すぐに動き出す。


「……承りました」


 ホバーバイクの下で、薄い光が揺れている。


 まだ、手に入ったわけじゃない。契約も審査も残っている。破損時の負担も、運用ログの提出も、全部これからだ。


 それでも、初めて候補らしい候補が見えた。


 勝つための装備じゃない。帰るための足だ。


 俺がこの世界で最初に掴むべきものは、たぶんこれだ。


 第二段階、ギリギリクリアだ。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


今回は試作ホバーバイクの登場回でした。

勝つための装備ではなく、帰るための足。ただし、通常購入できるものではなく、検証運用という形でようやく候補に残った装備です。


少しでも「このホバーバイク、面白そう」「リゼルがこの足をどう使えるようになるのか気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


凄く励みになります。

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