第14話 一覧の外側
正規の一覧に席がないなら、見るべき場所は決まっている。誰も選ばなかったものの中に、まだ道が残っているかもしれない。
端末の暗くなった画面に、ひとつの考えだけが残っていた。
正規の一覧に席がないなら、一覧の外を探すしかない。
空は遠い。装甲戦力は論外。ロボは欲しいが、維持できない。パワードスーツは現実的だが、部隊前提。どれも強い。どれも正しい。だが、正しいものを正しく使える人間のための選択肢だった。
今の俺には、その席がない。
支度金は削られている。追加融資も期待できない。問題行動の記録は残ったまま。講習で評価されたとしても、それは信用とは違う。
使えそうだと思われることと、背中を預けてもらえることは、まったく別だ。
俺は端末を握り直した。
なら、見るべきものは一つしかない。
正規品。推奨装備。主流構成。そこではない。
その外側だ。
型落ち。試験中止。用途限定。運用非推奨。尖りすぎて、誰も選ばなかった装備。普通に使えば弱い。普通に運用すれば事故る。普通の部隊なら嫌がる。
だからこそ、残っているかもしれない。
俺みたいなやつが、無理やり噛み合わせられる何かが。
ゲームでも、そういう装備はあった。
カタログの上位には載らない。攻略サイトのおすすめにも出てこない。大会の主流構成にも入らない。けれど、条件が噛み合った瞬間だけ、妙に化ける。
欠点が大きすぎて誰も使わない。維持が面倒で嫌われる。役割が狭すぎて部隊に入らない。扱いにくくて倉庫に眠る。普通なら、外れだ。
だが、外れには理由がある。
そして理由があるなら、使い道もある。
俺は、それを探すしかない。
金がないなら、安い理由のあるものを探す。信用がないなら、信用を前提にしないものを探す。部隊に入れないなら、部隊の外で成立するものを探す。
そういう歪んだ条件に合う装備が、この世界のどこかにあるなら、たぶん、正規の一覧には出てこない。
俺は端末の案内表示を開いた。
ショップ区画。
その文字が表示された瞬間、胸の奥で小さく熱が戻った。
そうだ。あそこがあった。
「……あの子に繋がれば、裏に届く」
誰に言うでもなく、声が漏れた。
ゲームで、何度も世話になった窓口がある。ただ商品を並べるだけの場所じゃない。定番装備だけを売る場所でもない。
仕様の隙間。開発の残り香。誰にも選ばれなかった装備の理由。そういうものに、一番近い場所。
ショップ。
名前だけなら、普通の販売所だ。
だが、俺が知っているあの場所は少し違う。強いものを買うためだけの場所ではない。条件を投げて、候補を絞り、時には開発側の在庫や試験機まで引っ張ってくる、変な窓口だった。
ゲームの中では、便利なシステムに見えていた。
だが、この世界であれが本当に存在するなら。
俺のスキル構成と、この世界の隙間が噛み合う場所があるなら。
そこに届く可能性がある。
俺は立ち上がった。
講習区画の白い光が、背中側へ流れていく。端末に表示された案内線が、足元に青く伸びた。通路の床材が薄く点灯し、ショップ区画へ向かう道筋を示す。
歩き出す。
人の流れは、訓練場側とは少し違っていた。
講習を終えた新人たちは、受付や待機区画へ散っていく。装備を選ぶ者、誰かと話し込む者、端末を睨んだまま動かない者。それぞれが、自分の値段を測っているように見えた。
俺は、その中を抜ける。
補給区画へ近づくほど、空気の匂いが変わった。消毒薬の白い匂いが薄れ、油と金属の匂いが強くなる。壁の奥でコンテナが滑る低い振動が響き、天井付近を配送ドローンが無言で横切っていく。
人が運ばない世界。
人が作らないわけではない。けれど、人が直接抱えて走る余地は少ない世界。
そこでアイテムボックスを持っている。
笑えるくらい噛み合わない。
それでも、完全に無価値ではないはずだ。
弾薬カセット。予備部品。修理キット。緊急用の消耗品。五枠しかなくても、持ち込めるものを選べるなら、それだけで戦い方は変わる。
問題は、その五枠を活かせる装備があるかどうか。
普通の装備では駄目だ。普通に強いものは、金と部隊と信用を要求してくる。
俺に必要なのは、普通の強さじゃない。
俺の間違った選択を、どうにか武器に変えられる形だ。
通路の先で、表示が切り替わる。
補給。修理。販売。契約。認証窓口。
文字が順に流れていく。
人の数が、さらに減った。代わりに、機械の音が増える。
配送ドローンの羽音。レールを走るコンテナの低い振動。遠くで工具が金属を叩く音。何かのフレームが固定される、鈍いロック音。
戦場の前にある音だ。
撃つ前の音。壊れる前の音。誰かが生きて戻るために、金と部品を積み上げている音。
足元の案内線が、緩やかに右へ曲がった。
その先に、ショップ区画の表示が見えた。
俺は足を止めなかった。
選べる状況じゃないなら、選べる場所まで行くしかない。
普通にやっていたら、絶対に選ばないやり方だ。だが、この条件なら。正規の一覧から外れたものの中に、俺が入れる隙間があるなら。
無双、まではいかなくても。
少なくとも、切り捨てられない形には近づけるかもしれない。
ショップ区画の扉が近づく。
表面に触れる前に、認証光が走った。端末が短く震える。
入場許可。
その文字を見た瞬間、胸の奥にあった熱が、少しだけ強くなった。
次に会う相手は、俺がこの世界で生き残るために、必ず必要な存在だった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
正規の一覧には、今のリゼルが入れる席がありませんでした。
だから次に探すのは、誰も選ばなかったものが眠る場所です。
少しでも「ショップ区画で何が出てくるのか気になる」「リゼルがどんな抜け道を見つけるのか見たい」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。
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