第13話 正解の席がない
強い装備は、どれも正しい。
けれど、正しいものが自分に合うとは限らない。
まだ、戦えない。
戦場で生き残るには、準備がいる。武器を持ち、装備を選び、維持できる形を作らなければならない。勢いで選べるほど、この世界は甘くない。
「まずは……整理だな」
端末を操作する。
視界に展開されたのは、大きく区切られた三つのカテゴリだった。
地上。空。特殊。
まず、空を見る。
輸送機、戦闘艇、支援ドローン母艦、空中砲撃プラットフォーム。名前だけで胸が動いた。
空を取れるやつは強い。ゲームでもそうだった。視界を広く持てる。逃げ道も多い。地上の連中を上から殴れる。拠点をまたぎ、補給路を押さえ、崩れた戦線の上に火力を落とせる。
画面の向こうなら、何度でも夢を見た。
だが、価格を見た瞬間に閉じた。数字の桁が違う。操縦士、管制、格納庫、燃料、整備班。必要なものが多すぎる。
強い。だから、個人の持ち物じゃない。
次に、特殊。
電子戦、妨害、索敵、通信攪乱、補給支援、特殊回収。使いこなせば、戦況をひっくり返せる。
敵の目を潰す。通信を切る。補給を乱す。回収地点を隠す。撃破数には出ないのに、勝敗だけを裏から動かす枠だ。
嫌いじゃない。むしろ、ゲームではこういう尖った役割ほど面白かった。
だが、使いこなせれば、の話だ。支援する前線がいる。守ってくれる味方がいる。失敗したとき、拾ってくれる部隊がいる。そういう前提があって初めて意味が出る。
今の俺が持っても、宝の持ち腐れだ。火力も装甲も足りないまま、味方の後ろに立つことになる。その味方が、そもそもいない。
残るのは、地上。
一覧の大半を占める、一番現実的なカテゴリだった。
歩兵。ロボット。装甲車両。
ここからが、本番だった。
歩兵系には、パワードスーツが並んでいる。
汎用強化スーツ、重火力スーツ、近接制圧スーツ、対空迎撃スーツ、長距離狙撃スーツ、白兵戦特化スーツ。どれも、役割がはっきりしていた。
前に出る。撃つ。守る。探す。落とす。拾う。戦場で必要な仕事を、人間の身体に直接背負わせる装備だ。
安い。速い。数が出る。そして、死にやすい。
教官が言っていた通りだった。
部隊で動くなら強い。役割を分け、互いの穴を埋め、戻った経験を次へ回せるなら、これが一番現実的なのだろう。
だが、ひとりで抱えるには薄い。装甲も、火力も、退路も、全部が仲間を前提にしている。
次に、ロボット系。
軽量人型ロボット、中型戦闘ロボット、重装戦闘ロボット、火力支援ロボット、索敵支援ロボット、旧式標準ロボット、実験型ロボット。胸は、どうしても躍る。
ロボットだ。
こういう機体に乗って戦場を駆け抜ける自分を、一度くらいは考えてしまう。肩の装甲を軋ませて踏み込み、腕部火器で敵を削り、背中の推進器で崩れた戦線を抜ける。
ゲームなら、それだけで十分に楽しかった。
だが、価格を見る。維持費を見る。修理費を見る。
現実が、三回続けて顔面に入ってきた。
強い。欲しい。無理。
欲しいという感情だけは残る。だが、その感情を支える金がない。機体を買えても、次の出撃まで残せない。弾を撃てば減る。装甲が削れれば直す。関節が傷めば替える。
勝っても、維持できなければ終わりだ。
最後に、装甲車両系。
主力戦車、重装主力戦車、高機動戦車、自走砲、対空戦車、電子戦装甲車、指揮戦車、超重戦車。名前だけで戦場の匂いが変わる。
こいつらは、個人の武器じゃない。戦線を押し、陣地を固定し、味方の移動ルートを作るための塊だ。
強いか弱いかで言えば、間違いなく強い。
だが、俺が一人で持つものじゃない。
戦車は、孤独に強い兵器じゃない。補給と整備と支援を引き連れて、初めて前に出る。弾薬を食い、燃料を食い、修理班を食い、場所を食う。
つまり、今の俺とは一番遠い。
端末の光が、指先に薄く残った。
しばらく画面を見ていた。
空は論外。特殊は味方がいて初めて意味がある。ロボは欲しいが、維持できない。パワードスーツは現実的だが、部隊前提。装甲車両は、そもそも個人の持ち物じゃない。
どれも強い。どれも正しい。だが、どれも俺の形じゃない。
支度金がない。融資も通らない。部隊を組む信用もない。強いものは、全部、誰かと組むことを前提にしていた。
正規品。推奨装備。主流構成。どれも、この世界で生き残るための正解なのだろう。
けれど、正解の席に座れる人間だけが使える正解だ。
今の俺には、その席がない。
端末の暗くなった画面に、自分の顔が薄く映った。疲れた顔だった。情けないくらい、普通の顔だった。
それでも、まだ見ている。
金がないなら、金のかからない道を探すしかない。信用がないなら、信用のいらない入り口を探すしかない。部隊に入れないなら、部隊の外で成立する形を探すしかない。
正規の一覧だけ見ていても駄目だ。
見るべきなのは、たぶんその外側だ。
型落ち、試験中止、用途限定、運用非推奨。普通の部隊なら嫌がるもの。普通の新人なら選ばないもの。普通に使えば弱いもの。
そこにしか、俺の席は残っていないのかもしれない。
端末を握る指に、力が入った。
正規の一覧に席がないなら、一覧の外を探すしかない。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
空も特殊装備もロボも装甲車両も、どれも強い。
けれど、今のリゼルにはどれも遠すぎる選択肢でした。
正規の一覧に席がないなら、見るべきなのはその外側。
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