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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ


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第11話 戻るための装備

ロボットは、ひとりでは重すぎた。

なら、もっと現実的な装備はどうか。

 最強に近いものほど、ひとりでは抱えられない。


 その言葉が、端末の光みたいに目の奥に残っていた。


「もう一つ、主流を出しておこう」


 教官が端末を操作すると、表示が切り替わった。


 パワードスーツ。


 人が着用する前提の、軽量機動装備。


「こちらは思想が違う」


 火力、装甲、索敵範囲。並んだ数値は、どれもロボには及ばない。


「だが、維持費は低い。操縦者の負担も小さい」


 整備、補給、保管。項目は短く、数字もロボほど膨らんでいなかった。倉庫一つを食い潰すような規模ではない。弾薬も部品も、桁が違う。壊れたとしても、機体ごと人生が終わるほどの金額ではなかった。


 それでも、安いわけじゃない。ただ、手が届く可能性がある。その程度だ。


「何より──」


 教官の指が、表示の中央で止まった。機体名の光が薄れ、代わりに人間のシルエットが前へ出る。


「人が主役だ。機体が壊れても、即座に撤退できる」


 教官は、拳を見せた。


「ロボは機体を失えば、そこで終わる。回収にも修理にも金がかかる。だがパワードスーツなら、最悪、装備を捨ててでも人間だけは戻れる」


 拳が、ゆっくり開く。


「勘違いするな。逃げろと言っているんじゃない。戻れと言っている」


 講習室の空気が、わずかに詰まった。


「戻った人間には、次がある。撃たれた場所を覚えている。崩れた隊列を覚えている。誰が遅れ、どこで支援が切れ、どの判断が間に合わなかったかを持ち帰れる」


 教官の声は荒くならない。それでも、さっきまでの説明とは重さが違った。


「死んだ新人は、ただの損耗だ。ログと装備の残骸しか残らない。だが生きて戻った新人は、次の戦場で死ににくくなる」


 教官は拳を下ろし、端末へ視線を戻した。


「だから、戻れ。経験を捨てるな。判断を持ち帰れ。それができる装備が、パワードスーツだ」


 表示の中心から機体名が下がり、代わりに人間側の数値が前に出た。ナノマシン適性、反応速度、負荷耐性。同じ装備でも、使う人間で性能差が出るらしい。


 機体が主役じゃない。


 ロボは、機体を買う戦いだ。こっちは、身体ごと戦場に持ち込む戦いだった。


「小回りが利く。隠密性も高い。回収作戦との相性はいい」


 ホログラムに、部隊編成図が浮かぶ。前衛、支援、索敵、回収。役割が、明確に分かれていた。


「部隊で動く前提だ。得手不得手を組み合わせて戦う」


 火力表示が変化する。単体では低い。だが、連携時の数値は大きく跳ね上がった。


「一人で敵を倒す装備ではない。前に出る者、横を見る者、退路を確保する者、倒れた者を引く者。それぞれが役目を果たして、ようやく火力になる」


 教官の視線が、講習室をゆっくり横切った。


「だから今の主流は、こっちだ」


 淡々と、そう言った。


 だが、教官は画面を閉じなかった。部隊編成図の光が、講習室の壁に薄く滲んでいる。前衛、支援、索敵、回収。その文字列が整ったまま、教官の指だけが止まった。


「欠点もある」


 誰かが息を飲む音がした。


「ロボより、死にやすい」


 現実的な言葉だった。


「装甲は薄い。火力も単体では劣る。連携が崩れれば、即瓦解する。前衛だけが走れば孤立する。支援が遅れれば前衛が死ぬ。索敵が見落とせば、全員がまとめて食われる」


 教官は端末を操作する。


 ホログラムの部隊編成図が、一瞬で赤く染まった。


「信頼関係と報酬分配が前提だ。誰が前に出るか。誰が弾を使うか。誰が危険な回収をするか。そこを曖昧にした部隊は、戦う前から崩れている」


 さらに、と教官は続けた。


「単独行動は、ほぼない」


 それだけで、意味は十分だった。


 信頼関係、分配、役割。どれも、今の俺には重い。問題行動の記録が残っている。講習前から妙な札がついている。さっきの模擬戦で評価されたとしても、それは信用とは違う。


 使えそうだと思われることと、背中を預けてもらえることは、まったく別だ。


 説明中の視界の端に、価格帯と維持費の一覧が残っている。誰も説明しない。誰も勧めない。ここでは、それが当たり前だからだ。


 俺は、端末を閉じた。


 無理だ。


 支度金が、そもそも足りない。問題行動の記録が残っている以上、追加融資も望めない。操作が上手くても、評価が良くても、金がなければただの数字だ。


 買えなければ、意味がない。


 詰み、だ。


 端末の光が、指先に薄く残っている。


 ロボは強い。パワードスーツは現実的だ。けれど、そのどちらも、今の俺には遠すぎた。


 金がない。信用がない。背中を預ける相手もいない。


 ロボだけじゃない。パワードスーツも、ひとりでは抱えられない。


 なら、俺は何を持っている。


 装備ではない。金でもない。誰かに証明された信用でもない。


 この世界の端末に映らない、俺だけの手札。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


ロボットより現実的に見えたパワードスーツも、部隊・信用・分配が前提でした。

金も信用も仲間もないリゼルに残っているのは、この世界の端末に映らない手札だけです。


少しでも「この世界の装備選び、面白いな」「リゼルに残された手札が気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


とても励みになります。

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