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剣と魔法だと聞いたのに、転生先は未来ロボ戦争ゲーム世界でした。チート無双の予定が、科学文明で初期スキル死亡  作者: はちねろ


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第10話 強さは金を食う

単騎で戦える機体はある。

だが、強さは買った瞬間から金を食う。

 俺は、英雄になりたいわけじゃない。


 前線で撃ち合いたくもない。できるなら、金で人を雇って、後ろから安全に指示だけ出したい。それが無理なら、せめて誰かの部隊に組み込まれずに済む道を探すしかない。


 見つかったのなら、見つけ返す。俺が生き残れる場所を。


 教官が、再び端末を操作した。


「参考までに、機動兵器運用の実情も表示する」


 壁面のホログラムが切り替わる。


 人型機動兵器。いわゆる、ロボット。


 一覧に並ぶ機体名は、さっきの訓練用よりもずっと現実的だった。最新鋭でも、夢物語でもない。現行配備。実戦投入済み。数字も、型式も、補給規格も、どれも実際に動いているものの匂いがした。


「単騎運用の定番は、こっちだ」


 教官の声は淡々としている。


「部隊を組まずに前線へ出られる。火力、装甲、索敵範囲。いずれもパワードスーツ単体より上だ」


 ホログラムの機体が、正面を向く。胸部装甲は厚く、肩には追加装備用の接続部がある。腕部の武装は訓練機より大きい。脚部も太い。動けば床が沈みそうな重量感があった。


 強い。それは、見ただけで分かった。


「初期費用は、パワードスーツ部隊を一式揃えるより、やや高い程度だ」


 思ったより、差はない。


 喉の奥で、期待が少しだけ動いた。単騎で動ける。部隊を組まなくていい。性能も高い。俺が探しているものに、少しだけ近い気がした。


 だが、次の項目で理解した。


「問題は、維持だ」


 教官が画面を切り替える。


 月次整備費。消耗部品。弾薬。関節部交換費。冷却系保守費。保管用倉庫維持費。項目が、次々と積み上がる。しかも、どれも削れない。


「この数字を軽く見るな」


 教官の声が、そこでわずかに重くなった。


「機体を買えた新人は多い。だが、機体を維持できた新人は少ない。出撃すれば削れる。戻れば直す。直せなければ次は出られない。次に出られなければ稼げない」


 ホログラムの機体が、灰色に変わる。右腕の装甲が落ち、脚部の関節が赤く点滅する。胸部の冷却ラインに警告が走り、画面の横に修理見積もりが積み上がった。


 数字は、敵よりも無慈悲だった。


「強い装備は、持った瞬間から金を食う。動かしている間も、壊れたあともだ」


 稼げる分、出ていく金も多い。


 強い機体を持つということは、強いまま維持し続ける責任を抱えるということだった。


「操縦者の力量も重要だ。だが、最終的に物を言うのは機体性能だ」


 教官は、表示された機体を二つ並べた。片方は標準機。もう片方は上位機。同じ動作をしても、踏み込みの距離が違う。旋回の戻りが違う。被弾したときの姿勢の崩れ方が違う。


「性能差は、戦場でそのまま生存率になる」


 知っている。ゲームでも、そうだった。


 強い機体に乗っているやつは、多少雑でも生き残る。腕だけで埋められる差には限界がある。どれだけ上手くても、遅い機体は遅い。薄い装甲は薄い。火力が足りなければ、倒す前に詰められる。


 その差は、努力じゃない。性能だ。


「単騎行動は可能だ。だが、逆に言えば目立つ」


 教官は、淡々と続ける。


「複数機で動く場合は、機体を揃える必要がある。性能差があると、隊列が崩れる」


 揃える。それだけで、金の匂いがする。


「音も大きい。機体駆動音は、エイリアンの反応を呼びやすい」


 ホログラムに、反応拡散図が表示された。索敵範囲。呼応範囲。駆動音検知範囲。機体を中心に、赤い円が広がっていく。


 広い。


 撃てば強い。進めば目立つ。止まれば囲まれる。強いはずなのに、自由ではない。


「火力が高い分、素材を破壊しやすい。回収目的の作戦では、不利になる場合もある」


 そこも痛い。


 撃破数は稼げるが、素材は持ち帰れない。敵を倒すことと、稼ぐことは同じじゃない。派手に吹き飛ばせば、そのぶん回収できるものも減る。強すぎる火力は、財布まで焼く。


「操縦が上手ければ、ある程度は補える。だが」


 教官の声が切れた。


 ホログラムの機体が、敵影に囲まれる。四方から赤い反応が寄り、退路を示す青い線が一本ずつ消えていく。訓練場の空調音が、やけに近くなった。


 教官は画面を見たまま言った。


「戦場では、上手いだけでは残れない。強いだけでも残れない」


 敵影が、機体の周囲を塞ぐ。


「退く場所がない機体は、その場で削られる。援護が届かなければ、装甲が厚くてもいずれ割れる。大きいということは、守られなければならないということでもある」


 ホログラムの機体の装甲が、一枚ずつ赤く染まっていく。


「命のやり取りでは、小回りが利くかどうかが、最後に効く場面も多い」


 それだけ言って、説明は終わった。


 評価も、結論もない。ただ、現実だけが残った。


 ロボは強い。だから稼げる。でも、金がかかる。音で呼ぶ。壊しやすい。目立つ。単騎でいけるのが強みで、単騎だからこそ逃げ場がない。


 今の俺には、重すぎる。


 腕はある。評価も悪くない。だったら、と思いかけて、端末に並ぶ維持費をもう一度見た。


 数字は、何度見ても減らない。


 画面越しなら、迷わず選んでいた。高火力。高装甲。単独運用可。けれど、これはゲームの購入画面じゃない。


 買って終わりじゃない。乗って終わりじゃない。勝って終わりでもない。次の戦場まで残さなきゃいけない。次の修理費を払わなきゃいけない。次に撃つ弾まで、用意しなきゃいけない。


 強い。稼げる。目立つ。そして、維持できない。


 俺は喉の奥で息を止めた。


 最強に近いものほど、ひとりでは抱えられない。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


単騎で動ける強さはある。

けれど、その強さを維持するには金も場所も補給も必要になる。


少しでも「強いだけでは進めないこの世界、面白いな」「リゼルが何を選ぶのか気になる」と思っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。


大変励みになります。

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