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令嬢は嗤う  作者: バーン
24/63

会議

休みが明けた翌日、次の授業のため廊下を移動中、ふと思案にふける。


精霊祭が終わり、実行委員という肩書きが消滅したため、生徒会室へ入る大義名分は無くなってしまった。これからどうやってランセリアと連絡を取ろうかしら。


ぼんやりそんなことを考えながら歩いていると、急に背後から声が掛かる。


「ごきげんよう。アルメリー、今日の放課後は空いているかしら?」

「は!はイッ!?」


最近は特にもめ事も何も無かったので、精霊祭準備期間中は委員会の仕事で一人で行動する事も増えていた。

次の授業もたまたまリザベルトと選択した授業が別々で、一人で考え事してた所に後ろから声を掛けられ、驚いて思わず声が裏返ってしまった。

振り向くと、そこには先程まで思っていたその彼女が凛と立っていた。


「ランセリア様!今日も素敵ですね!はい、精霊祭も無事に終わりましたし、特に用事は無いですよ?」


「よかったわ。この前私と話をした校舎の庭園のあの場所、憶えていて?放課後、あそこへ来て頂けるかしら?」

「はい、ランセリア様。よろこんで!」

「では、また後ほど会いましょう」


お互い軽く会釈をして行き交う。短いやり取りだったので、遠巻に見ている周りの生徒がただの挨拶だと思ってくれるといいけど。


「……ランセリア様が、下級生の生徒と挨拶を!?二人はどういった関係かしら?」

「あのお方って、必要最低限の行事の連絡や、余程の事が無い限り他の方と関わらないという噂の……あの方が?」

「挨拶してたあの子、たしか精霊祭の実行委員じゃなかったかしら?学院内を忙しそうに動き回ってたのを見たことあるわ。だから必然的に親しくなったのかしら?」

「ランセリア様にこちらからお辞儀する事はあっても、私とか返礼を返されたことなんてないわ。いいなぁ~あの子」

「あなた、私と同じ平民の出だからじゃない?」

「え~、それでなの~?じゃぁ仕方無いか~。生徒全員の顔を憶えて見分けてるって事なのかな?ランセリア様って記憶力が凄いのね……」

「え、違うわよ。私の聞いた噂では貴族の方はボタンを変えたり、あまり目立たない大きさの刺繍を袖や襟に入れたりとか制服を多少弄っても許されるって話、知ってる?学院には黙認されてるらしいわよ。私達みたいな平民の子はいつも生活ギリギリでそんな余裕ないじゃない?だからちょっと観察すれば分かるわけよ?」

「いやいや、貴族の子の顔だけ全員覚えているんじゃない?平民の子より圧倒的に少ないんだし」

「「なるほど~」」

「私の家は、親から毎月支給されてる学院からの奨学金を弟や妹の為に少しでも良いから送って欲しいって言われてるから何割か送ってるわ。残りのお金も殆ど生活費や消耗品の購入で消えるし、これって将来返さないといけない借金って教官が最初に言ってたよね?はぁ~……」

「お互い辛いわね~……」

「あ、話はかわるんだけどぉ~貴族の方々って群れるの大好きよね~?でも、ランセリア様って貴族の中では珍しく孤高でちょっとカッコイイわよね~」

「「あ~、それわかる~」」


近くを通り過ぎる時に女子のグループの会話が耳に入ったが、う~~。あの人とちょっと会話しただけでも目立つっぽい……。でも彼女の隠れファンが、少なからず居るのは嬉しい気がする。





全ての授業が終わった事を知らせる終業の鐘が校内に鳴り響く。さっと帰る用意をして例の場所へ急ぐ。

暫く待っているとランセリアが優雅に現れた。


「あ、ランセリア様!」

「待たせたかしら?」

「いえ、こちらもつい先程、来たところです!」

「精霊祭が終わって、あなたが普通の一生徒に戻ってしまったから、生徒会に顔を出すのも難しくなってしまったわね。これからは、あなたとお話しするのも大変ね」

「たしかに、そうですね。何か連絡手段があれば良いのですが……」

「今日……ここへ呼んだのは、例の件の進捗が気になって。精霊祭の後夜祭ではあまり話すことができなかったし……」

「その件は喜んで下さい!なんとか無事、手に入れることが出来ましたっ!すごい大変だったんですよ!」

「ええ……その話にはとても興味があるわ?だけど、今日のところは確認がしたかっただけなの。そうね、あなた今週末の休日は空いているかしら?」

「はい、特に予定もありませんし空いてますよ?」

「ならよかったわ。この前、二人でメイドを連れて行った演習場近くの森の中のあの場所、憶えているかしら?あそこへ二の鐘(午前10時半位)の時間くらいに来て頂ける?今回は私の側がもてなすから、あなたは例のモノを持って一人でいらしてね?その時にでも、詳しいお話を聞かせて頂戴?」

「分かりました!楽しみにしてます!」

「では週末にまた会いましょう」




                  ◇




「あなた、セドリック様に馴れ馴れしく近づいてるんじゃ無いわよ!騎士の家柄の分際で!生意気よ!」

「「「そうよ、そうよ!」」」

「この子、頭おかしいって噂よ?『夢色の遥か』がどうのとか『アローンなんとか』がどうのとか……なにそれってかんじ。周りの子も引いてたわー」


ん……!?今、聞き覚えのある単語が……?


「すいません、すいません、つい出来心で~~~!!」

「ていうか、テオドルフ様にも近寄ってガン見してたでしょう?」

「テオドルフ様だけではないわ?フェルロッテ様やエルネット様他、生徒会の方々が近くを通りかかる時は(ひと)しくイヤらしい目で見ていたわ!?」

「なにそれ、誰でも良いの!?」

「問題はそこじゃ無くない~?」

「だ、だって、『夢色の遥か』のあの方達が現実に!目の前で!生命を持って活き活きと動いているんですよ!?ガン見してしまいますって!」

「え?命を持って動いている……って何当たり前のこと言ってるの、この子!?こわっ!」

「『ガン見』って何よ!?そのたまに出てくる意味不明な単語や、『夢色のナントカ』って何なのよ!昔の戯曲か何か?私達に学が無いからって馬鹿にしてるんじゃ無いわよ!?」

「「「・・・・・」」」


イジメに加わっていた他の子達が一斉にその子を見つめ「一緒にしないで?」とでもいう風に憐れみの目を浮かべ首を振る。


翌日、魔法の授業のため研究棟へ移動している最中、建物の影で何やら言い争っている現場に運悪く遭遇してしまった。

正直あまり関わりたくないが、気がついてしまった時点でスルーしてしまうと寝覚めが悪いのよね。

それに気になる単語を連発してる子がいる。もしかして私と同じ様な存在(イレギュラー)かもしれない。一度詳しく話を聞いてみたいという欲求に抗えず、介入することにした。


「リザベルト、荷物みてて。私ちょっと行ってくる!」


親の爵位があまり高くない私の言葉なんて、相手が素直に聞いてくれるか分からない。となると、とれる手段は限られる。

彼女に荷物を預けると、イジメ現場から直接姿を見られないように建物の影に隠れて叫ぶ。


「教官!こっちです!誰かが虐められてます!」


その声に反応して彼女達は周囲を見渡す。


「やば!見つかっちゃった!?」

「あなた、もうあの方達をイヤらしい目で見ないようにッ!」

「へんな言動もやめなさいよねっ!」


彼女達は捨て台詞を吐きながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、やがて辺りが静かになると一人取り残された彼女に近づく。


「あの、……大丈夫?」

「は、はい……大丈夫です」

「立てる?」


そう言って手を差し伸べる。彼女は瞳を潤ませながら、おずおずとその手をとり立ち上がる。


人なつこそうな幼い顔つき、橙色のショートボブ。くりっとした茶色の瞳。なんか全体的に妹感が滲み出てる子ね。


「……先程の声はあなたが?」

「ええ、そうよ。あ、自己紹介しておくわね?私の名前はアルメリー・キャメリア・ベルフォール。あなたは?」

「私は……早かわ……いえ、ティアネット・ガエル・フェルネです!」


早川?え?聞き間違いじゃ無ければ、この名前は日本人の姓よね……!?これは私の予想通り、同じ境遇の子かしら……!?でも入学して二ヶ月もの間、どうして彼女に気付かなかったのだろう?こんな言動を続けていたら明らかに目立つハズなのに……考えても答えは出ない。彼女の口から直接聞いてみるしかない。


「こ、怖かったですぅ~~~!助けてくれてありがとうぅ~~!」


感謝の言葉と共にガバッと思い切り抱きついてくる。


「だ……だいじょぅ……ぶ?」


あ、リザベルトも気になってこっちにきちゃったかー。んー。これはツッコんだことが聞きづらくなったわね……。


「あ、紹介するわね、この子はリザベルト・シャルール・マディラン様。私の友人よ」

「……!?」

「え?どうしたの?大丈夫?」

「えー!?あのアルメリーに、リザベルト……えーっ!?とうとう私の時代キター!?……これゲームだと私のポジって何っ?どこっ!?」


驚きと共にばっと身体を離し、私達の顔を交互に何度も見比べる。


一体何に驚いているのかリザベルトと困ったような笑顔を交わし困惑する。


「えっと……ティアネット様、何をそんなに驚かれているの?」


いじめていた彼女達がこの子の家の事を何か言ってたような気がしたが、覚えていないので一応、敬称を付けて呼んでおく。

私の敬語も随分様になってきてると思う。これならアンも「流石です、お嬢様」と言ってくれるに違いないわ。うんうん。


「あの『夢色の遥か -Alone with youー』の主人公アルメリーと、セドリック様の婚約者リザベルトォ!?うんうん、確かにリアルだとこんな感じかも!」

「あ、あのー……?」


だめだ、この子テンション上がりすぎてこちらの問いかけに反応してくれないわ。アハハ……。


「え、でも待って?この二人が友達ってそんなのあり得るの?たしかそんな設定なかったよね……?う~ん、この二人が仲良く絡むルートやスチルとか無かったハズだし……」


自分の世界に入り込み、ブツブツとずっと独り言を言っている。



そのまま彼女を見守っていると鐘の音が辺りに響き渡る。


「アルメリー……そろそろ……移動……しないと」


リザベルトが催促をしてくる。そう、今は次の授業の為に移動中だったんだわ。私個人としては彼女の状況や、周りの環境、今の認識、前の世界の記憶など色々聞いておきたかったんだけど……。


「ティアネット様、私達もう行きますわ。また今度ゆっくりお話しましょう?では、ごきげんよう」

「あ、済みません、またやっちゃった……。私、一度入ると妄想の世界からなかなか帰ってこれない事が良くあって……。はい是非、お願いします!あの私、マロンクラスです!アルメリー様いや違っ……お姉様、今回はホントにありがとうございました!」


お、お姉様ぁ!?ちょっ……その制服のリボンの色って、あなた同じ下級生でしょ!


心の中でツッコミを入れながら彼女へ手を振り、私達は研究棟へ向かうのであった。



                 ◇



「さて、今日の議題はこれだ!」


アルベールが指揮棒を振り、黒板を叩く。


「期末試験で決まる次期生徒会、メンバー入れ替えの件だな?」

「入れ替えと言っても成績が極端に落ちる事がなければ脱退という事は無いから、基本的には追加されるだけだが」

「その通り。教官達からは既に期待され推薦されている者もいる。これがそのリストだ」


皆に配られているリストの名前をパラパラとみて放り投げるテオドルフ。


「どいつもこいつも面白みのねーやつらだな!はっ」

「ほう、なら卿は誰か良いと思う候補はいるのか?」

「アルメリーはどうよ?委員会でも頑張って実績も作った。……実務能力も案外悪くないんじゃねーか?」

「彼女はダメだな。このリストに入れないような成績では、生徒会入りは認められない。努力している他の生徒への示しもつかない」

「セドリック、そんな堅いこというなよ~」

「テオドルフ!貴様がそんなだからいつも私がどれだけ……。分かっているのかっ!?」

「まぁまぁまぁ、二人共。私に良い案がある」

「あ、兄貴……!?」


「我々の誰かが家庭教師をし、学期末までに彼女の成績を推薦リストへ入れる所まで引き上げればいい。リストに入りさえすれば任命権はこちらにある」

「そんな、アルベール様……!私、彼女を生徒会へ入れるのは……」

「ランセリア……。君も彼女とはだいぶ親しくしているみたいじゃないか。彼女も君を慕っているのが、君を見る仕草や声の調子を聞くだけでも分かるぞ。なにか問題でもあるのかい?」

「だが、そんなあからさまな優遇はまた新たな問題が起きるだけでは……?」

「なるほど、セドリック……いい視点だ。だが私は、ゆくゆくは王となる身。常々生まれに関係なく優秀な者を臣下にして行かねば、国を発展させて行く事は出来ないと思っている。慣例や前例主義にまみれた臣下からの進言を追従するだけの御輿の王などになるつもりは毛頭無い。魑魅魍魎の巣食う城に上がる前の予行演習のようなものだ。抵抗や不満も出るだろう。だが後学のためにも対処・経験をつんでおくに越したことは無いだろう?」

「確かにそうだが……。なら委員長のエフォール嬢はどうなのだ?精霊祭は彼女のお陰で何事も滞りなく進んだと聞いている。特に交渉や問題解決の手腕が見事だったと、複数の人物から伝え聞いているが?」

「実はな、すでに彼女も誘ってみたのだが……『無用なもめごとは避ける主義なので』と、にべもなく断られてしまっていてな……」

「そうか……」

「……我々生徒会の男子が大手を振って赴けばまた彼女は悪目立ちし、新たな火種となる……か?ふむ。なら優秀なここの女性陣に教師してもらう、……というのはどうか?」


クルッとターンしてポーズをキメる。一呼吸分の間を置き、振り返り気味にセドリックへ向けて話を再開する。


「……君の父上が進めようとしている例の件、停滞していると聞く。やはりあの派閥が裏で動いているのだろう?……前に進めたくはないか?何通りかの手立てがあるのだが?」

「……分かった。会長の好きなようにしてくれ……」

「そんな、セドリック様!?」


困惑と批難がないまぜになったような視線をセドリックに向けるランセリア。

セドリックはたまらず目をそらす。


アルベールはフェルロッテの前へと移動し、目を見て話しかける。


「フェルロッテ、君はどうだ?教師役……頼まれて貰えないだろうか?」

「私には学院内の風紀を守るという役目がありますし。常に目を光らせておかないと……。それに空いた時間には、私が(・・)テオドルフ様の勉強を見なければいけませんし……そうですよね?」

「ははっ、フェルロッテ悪ぃな!男が相手だと勉強とか全くやる気が起きねえからな、ははは!」


「……ではランセリアはどうだ、教師役をやる気はあるか?」

「私は……、私は……」

「済まない、君の性格を考えると無理を言ってしまったようだ。許せ」

「エルネット、君はどうか?」

「え、なんでそんな面倒くさい事しないといけないんです?そんな事をしていては、かわいい弟を見守る時間が減るでは無いですか!?」

「私はもう幼くありません。いい加減やめて下さいよ、姉上……」


げんなりするヴィルノー。


「うーむ。では、教師役の報酬として王家御用達の最高級スィーツの差し入れや、予約必須な人気高級菓子店『プリムヴェール』の商品を用意しよう。これでどうか?」

「……良いでしょう。その仕事、受けます!全力であの子をリストに載るところまで引き上げて見せましょう!!」


「ああっ……エルネットまで……」


その場にくずおれるランセリア。


キッとマルストンを睨み付ける。


「……ひっ!?」


居竦まれてマルストンはじっとりと冷汗をかくのだった。


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