帰還
帰路についてオーレッドとフェルマンが「港湾の方に抜けて大回りする」か、「来た道を引き返すか」で話し合いになり、道を変更すれば無傷の戦力不明な別のならず者集団に襲われる可能性も考慮し、それはできれば避けたいという方向に話が纏まり来た道を警戒しながら引き返す事になったのだけど、帰路に先程の連中からの報復も無く、無事に冒険者ギルドへ到着したのだった。
冒険者ギルドでフェルマンのパーティと挨拶を交わして別れた後、『雲雀の踊り子亭』に向かい、一階の喧噪を余所に直で二階のオーレッドの借部屋へ行く。早速、彼への依頼の清算をしようと机の上へ巾着袋を取り出してひっくり返し、中身をぶちまけるとジャラジャラと金属の心地よい音が響く。
集めて数えるとアルブル小金貨が二枚とトロン銀貨が三十枚残っていた。
トロン銀貨十枚は小金貨1枚と等価で扱われるらしいから……ギリギリ、彼への残りの報酬額に足る。危なかった。もし払えなかったらどうなるところだったか……。足りない分は体を要求され……いやいや無い無いっ!体を抱えブルブルと頭を振る。
「今日は助かったわ。二つも商品があるって知らなかったし、あんたのお陰で何とか両方手に入ったわ……本当はどっちか片方でも良かったんだけど」
「お嬢様、この方に釣られて言葉使いが乱れていますよ」
「あっ……!」
「……それとオーレッド様、立て替えて頂いた冒険者の皆様へのお支払いは如何致しましょう?」
「あー、それな。アレは冗談だ。ハハハッ!最初から報酬に込み込みで話してたからよ、気にすんな」
「通りで、ただの道案内にしては高いと思いました」
アンは合点がいったとしきりに頷く。
「あのお店のお爺さんが言ってたけど、貴方ってどこかの組織の人なの?凄く強かったし、相場の知識もあるし……」
「おっと、人の詮索はヤボってもんだぜ?」
「それよりあんたは気がついたか?」
「え?なに?」
「あの部屋の横に飾ってたバカでかいタペストリーがあったろ?あの向こう側、幾つもの気配があったぞ。きっと隣の部屋と繋がってる出入り口をアレで隠して、何かトラブルがあればそこから用心棒達が飛び出してくる仕掛けになってたな」
「全然気がつかなかった……あは、あははは……」
「それに潮の香りも僅かにした。あそこは多分、地下水路か何かで港の方に繋がってるな。いざとなったらすぐにとんずらするって寸法だろうな」
「あー、なんか水が流れてる音がしてた気がする……」
「中はその様になっていたのですか。オーレッド様の観察眼、流石でございます」
アン……前はあんなにこの人のこと疑っていたのに、さっきから「様」がついてる。すっかり変わっちゃったなぁ……。
慈愛を込めたつもりでニコニコとアンを見つめる。
「どうしたのですかお嬢様。ちょっと気持ち悪いですよ……」
どうやらアンには伝わらなかったみたいだ。むむ、残念。
「じゃ、また何かあったらよろしくな?外は祭りの真っ最中だ。油断してると、この前みたいな目に遭うかも知れないぜ?気を付けて帰れよ」
「そうね、今日は高価な物を持ってるから、十分気をつけて帰ることにするわ」
「それではオーレッド様、失礼します」
彼と別れ店を後にする。言われたとおり人が混んでいる道はできるだけ避けて通る。この服のままでは学院へ戻れないので、着替えるために一旦、屋敷へ寄る。
門のドアノッカーをコンコンとノックする。すると、すぐさま門が開き執事が顔を出す。
「おぉ、お嬢様……お帰りなさいませ。良くご無事で。お怪我などございませんか?」
「え?ええ、無事よ!なにも問題ないわ!」
「その仮面、大変お気に入りの様子ですが、そろそろお顔を拝見させて頂けませんか?」
言われて気が付き恥ずかしくなる。大事な品を持っているという緊張と、周囲を警戒するあまり仮面はどうでも良くなっていて付けっぱなしだった。急いで仮面を外すとアンもそれに続く。
外では暗くてよく見えなかったが、門に取り付けられている照明の下でよく見るとアンの外套の所々に小さな血の点々がついていた。
彼はアンを一瞥した後、相好を崩すと彼女の肩に片手を置き頷く。
「アン、有言実行……見事に果たしたな」
「そ、そんなセルジャン様……。私はただ、務めを果たしただけです」
「お嬢様、疲れでしょう。中で一休みしていって下さいませ。アンお前も充分に休むと良い」
彼に勧められるまま屋敷に入る。屋敷の中に入ると彼が振り向き、照明に照らされたアンを一瞥すると、
「お嬢様、その厚着では汗をおかきになったことでしょう。お風呂の用意ができてございます。
アン、お前も一緒に入りお嬢様のお背中をお流ししなさい。本日の浴室内での行為は、お嬢様のお許しさえあれば何事も不問とする」
彼女は先程の戦闘で激しく動いているし、汗もかいているだろう。セルジャンは武装した彼女を止められなかった時点で、私達が戦闘を避けられない事を見越していたというの?だからお風呂を沸かして待っていてくれていたのかしら?なんて気が利く人なのだろう……。
「セルジャン様……」
「セルジャン、わざわざありがとう!」
彼は優しく微笑む。
「お嬢様、入浴前にまずは防具を……」
言われて気がつく。浴室へ直行していたら二度手間になる所だった。アンについて武器庫へ行き、胸甲を外すのを手伝って貰う。外した防具を彼女はそれぞれ元の場所へと戻す。
手元の今回の戦利品を見てふと思う。入浴中、更衣室へ無造作にコレを置きっぱなしにしておくのも、なんだか不安を感じる。高かった買い物だし。
「アン、ちょっとお風呂の前に自分の部屋へコレ、置いてくるね」
「では、私も自室に荷物を置いてきます」
二階に上がり自室に入ると、まず机の上にそっと今回の戦利品を置く。
街はお祭りで騒がしく、もし人とぶつかって落として割れるとかあったら嫌だし、学院に持って帰るのは街が少し落ち着いてからの方がいいよね……?
そう思い、どこか隠せそうな所が無いか見渡す。が、モノを隠すのには全く向いてない部屋だった。
あえて隠すとすれば、クローゼットの中かベッドの下ぐらいしか無いかなぁ……。
念のため別々の場所にそれぞれ隠し終えたと同時くらいに、ドアにノックの音とアンの声がしたので、部屋へ入る様に促す。
アンがいつものメイド服に着替えて部屋に入ってきた。
「お部屋での用事はお済みになられましたか?」
「ええ、大体ね。アン、今日手に入れたモノは、一旦ここに置いていくわ。一応隠しておいたし……セルジャンが屋敷を管理してるから大丈夫よね?」
「はい、問題無いと思います」
「では、そろそろお風呂に行きましょうか」
アンがクローゼットから制服と下着の替えを出してきて先導する。
一階に降り、湯殿の更衣場で着ていた物を脱ぎ散らかす。
「あーっ!やっとこれを脱ぐことが出来たわ!」
アンは溜息を一つ漏らすと、脱ぎ散らかされている服を拾い上げて畳み、衣類籠に入れる。
「お嬢様、脱ぎ散らかさないで下さい。はしたないですよ?淑女たる者、もっとおしとやかに……」
「だってこれチクチクするし、早く脱ぎたかったのよ……。アンも早く脱いでお風呂へ入りましょう?」
更衣場とカーテンで仕切られただけの空間に、木造の大きなバスタブがなみなみとお湯を湛えており、水面に幾つもの花びらを浮かべて花の香りを立ち上らせている。
「お嬢様、お背中を流させていただきます……」
サボンを使い泡立てた、たっぷりの泡でアンが丁寧に私の体中を隅々まで洗う。
「あっ……。アン、そこ少しくすぐったいわ……あはっ」
「我慢して下さいませ……」
体についた泡を全て流して貰い、綺麗になってから湯船に浸かる。お湯の温度はぬるま湯のように感じた。
「アンも早く体洗って入りなさいよ~」
「私は、お嬢様の出た後に入らせて頂きます……」
「セルジャンも私が許せば不問にするって言ってたでしょう?だから一緒に入りましょう、ね?」
「……では、体を洗いますので少々お待ち下さいませ」
と言って体を流し始めた。
湯船からアンの体をまじまじと見る。お椀ぐらいの胸、くびれたお腹、全体的に引き締まった肢体。言動は大人びているけど、いまだ少女の面影を残す顔立ち。茶色の髪の毛が濡れて束になり先端から雫を床に垂らす。
「そうだ!私も洗ってあげるね♪」
「お嬢様がその様なこと、いけません……」
「いいから、いいから。普段一緒に入れないじゃない?だから今日だけ特別よ!」
浸かっていた湯船から出るとすぐに両手にたっぷり泡を立て、ソフトに腕から洗い始める。そして肩から首筋、背中と洗う場所を移してゆく。いよいよ前面の方を洗おうと背中から
手を伸ばそうとするとアンが抵抗する。
「ま、前は自分で洗えますから……!」
恥ずかしがり、普段とは打って変わって弱気なアンの姿に加虐心を煽られたのか、何だかゾクゾクとした感情が湧き上がる。
「私に洗わせてくれなきゃダメよぉ~。ふふっ」
アンの背中に胸をくっつけ、後ろから彼女の胸を入念に洗う。
「いいなぁ、アンの胸は形も大きさも良くて。私もせめてこのくらい欲しいわぁ……」
ふにふにと彼女の乳房を揉む。
「あっ、いけません、お嬢様……」
「よいではないか、よいではないか……ふふふ」
切なそうな吐息を吐きながらアンが反応する。
「はぁ、はぁ……。んっ、それは、どなたかの物真似でしょうか……?」
『時代劇の悪代官』と言っても通じないわよね……。ここは黙っておくのが賢明かな?
左手は揉むのを継続しながら、右手を胸から放して人差し指と中指を合わせ、彼女の体の線に沿って這わせながら、焦らすような速度で、つつつ……とお腹の方へ降ろしてゆく。おへそを通り過ぎ、その下辺りまでいったところでその手が軽く掴まれ、それ以上先へは進めなくなってしまった。
「お嬢様。さすがに、それ以上は怒りますよ……?」
アンが顔を真っ赤にし、目に涙を溜めて怒っている。
「ご、ごめんなさいね?……あはは」
「……ここから先は私が自分で洗いますから、お嬢様は湯船へお戻り下さい」
やり過ぎちゃったと、少し反省する。
私って加虐嗜好があったのかしら……?
二人共湯船に浸かるとアンが語り始めた。
「お嬢様、知っていますか?お風呂を用意するのは大変なのです」
「え、そうなの?」
「もし魔法が使えれば、魔法で簡単に水が沸かせるのでしょうが、私達殆どの者は魔法を使うことができません。ですから薪でお湯を沸かしては湯船が一杯になるまで何度も往復して運ぶのです……。今回セルジャン様はこれをお一人で用意されていたのでしょうから、少々大変な作業だったかと……」
「セルジャンはいつもそうやって、ここでお風呂に入ってるの?」
「とんでもありません!ここは旦那様、奥様、お嬢様をはじめとしたキャメリア家の皆様や、この屋敷に来られた貴族のお客様にだけ、使用して頂くところです。
私共は普通ならば早朝、風呂屋へ参ります。街中にはパン屋のパン釜の上に浴槽を設置しているお店が何軒もありまして、風呂屋はそこで早朝にパンを焼く熱を利用して水を沸かしたりしてるのです。
そこで私共は身嗜みを整えてからお屋敷に戻り、一日のお仕事を始めるのです」
「それだと、寮の入浴時間も同じ様に早朝のはずよね?なぜ、入浴する時間帯が違うのかしら?」
「実際の作業風景を見たことがありませんので、これは私の推測になりますが、学院には魔法を使われる方が多く通われていますので、火の魔法などで水を沸かしてるのではないでしょうか?それならば一般的な生活様式や時間にとらわれること無く、学院や寮の都合によって入浴時間を自由にすることが可能です。そもそも、寮の周辺に薪を積み上げて保管している施設を見た憶えがありませんし」
「……確かに。寮の浴室や浴槽って総石造りで結構広いし、あの量の水を沸かそうと思えば……あ、そっか……薪が必要だものね、それも大量に。なのにそういう施設が無いとなったら、やっぱりアンの言う通り、魔法で沸かしてるのかもね。量が量だけに大勢での練習にうってつけかもしれないし……」
いままでお風呂の事なんて全然深く考えた事が無かった。前の世界では電気やガスのインフラが各家庭にまで整っているからボタン一つで湯船にお湯張りまで自動で出来てたし、寮のお風呂だってすでに沸いた状態で用意されていて、指定の時間が来たら入浴する、それが当たり前になっていた。
……でも、貴族出身の子がお風呂を沸かすなんて行為は聞いたことが無いし、言われてもやらないと思う。そういった仕事は多分、平民出身の生徒の役目なんだろう……。
「アン、そろそろお風呂から上がるわ……」
「分かりました。では少々お待ち下さい、お嬢様。用意をしてまいります」
そう言われたので湯船で暫くゆっくりする。アンから「ご用意が出来ました」と回答があったので湯船から上がり、カーテンを開ける。アンはメイド服に着替えて待機していた。
体を拭き終わると、アンに全て任せて制服を着ていく。
「その服はどうしようかしら?」
「それなら、私が預かっておきます。あと、オーレッド様に買って頂いた仮面は如何しますか?」
「そうねえ、私達の冒険の記念に……持って帰ろうかしら?」
「わかりました。少々お待ち下さいませ」
彼女はその服を持って部屋を出て行く。暫く待つと手に仮面を持って戻り、軽く頷く。一緒に居間へ行くと、セルジャンが紅茶を用意して待ってくれていた。
「よければ、ご一服いかがですか?喉が渇いておられるでしょう」
「そうね、ありがとう頂くわ」
セルジャンは今夜何があったのかを聞くでもなく微笑を湛え、ただそこに佇む。今はそれがありがたかった。
穏やかな時間が過ぎてゆく。
「美味しかったわ。私達はそろそろ学院に戻るけど、また近いうちに来るから私の部屋は入っちゃダメよ?そのままにしておいてね!」
「かしこまりました、お嬢様」
「セルジャン様、ありがとうございました。それでは失礼します」
セルジャンに見送られながら屋敷を後にする。
高価な物を安心出来るところに置いてきたので緊張が解け、少し気が楽になる。
繁華街の大通りに戻り学院に向けて歩いていると、手を振りながら制服に身を包んだ小柄な男の子が駆け寄ってくる。
「アルメリー様ぁ!やっ、やっと見つけましたよ!いったい何処に行ってたんですかぁ!?」
「あ、マルストンじゃない。あなたも街に繰り出してたのね。それにしても息が荒いわ?どうしたの?」
「どうしたの?じゃ、ありませんよ!ぼくとテオドルフ様、ヴィルノー様の三人で街中探して回ってたんですよ!?」
「え?どうして!?」
「会場からこっそり抜けるアルメリー様を見かけて気になったんです。大講堂の方に行ったと思い、テオドルフ様達と連絡を取り合ったら大講堂の方へは来てないと言うし!
生徒会の皆で目撃証言集めたら学院を出て行くのを見かけたって話だったし!
そこでぼくは非番の使用人達の力を借りてまで、街中探させましたよ!でも今のいままで見つからなくて……無事に何事も無く再開できて良かったですけど!
一体、何処に行ってたんですか!?」
一気にまくし立て、ぜーぜーと荒い息をするマルストン。
「あー、あはは……えーと港わんっ……あっ、ちょっと!?」
言葉の途中で彼はいきなり私の手を掴み、大通りから少し外れた路地に連れ込む。
彼が人に聞かれるのを危惧したのだろうと思い当たり、声を抑えて再度説明する。
「多分、港湾地区の近くまでしかいってないわ」
「そんな所にのこのこ出かけるなんて!?あの周辺は荒くれ者も多く、治安がとても悪いと言われている所です!下手な噂でも立ったらどうするんですか!あなたや、あなたの家の名誉を傷つける事になるかもしれないし、あなたにもしもの事があったらと思うとぼくは……ぼくはッ!」
「ご、ごめんなさい!」
「いいですか!?もしそこでしか手に入れられない必要な物があるなら、ぼくがなんとかして手に入れるから……!もういかないで下さいッ!」
泣きそうな顔で必死に訴えるマルストン。
「ええ、わかったわ。もし今後そんなことがあれば、あなたに一番に相談するわね。それにしてもあなたって、思っていたより……意外と頼もしいのね?」
そう言って頬に軽く口づけする。
すると彼はまるでゆでだこの様に顔を真っ赤にして硬直してしまった。
「そうだわ!私、まだ後夜祭に参加してないようなものだし、学院に戻ったらダンスの相手をしてくれないかしら?『心配させたお詫び』と『あなたの気持ち』に、こんな事ぐらいでしか返せないけど……」
「あ、あ……っ!」
マルストンは泣きそうな、嬉しそうな、感極まった顔をして何度も頷いている。こちらの方がどうしていいのか分からなくなり、取りあえず彼が落ち着きを取り戻すまで待つ。
「すみません、情けない所を……。もう大丈夫です。テオドルフ様、ヴィルノー様もあなたの事を探しています。合流できればいいのですが……」
大通りに戻ると、待機していたアンが近づいてきて定位置に納まる。マルストンは近くを通りがかった使用人を捕まえ、「捜索対象をテオドルフ様、ヴィルノー様に変更し、見つけ次第『主がアルメリー様を発見、共に学院へ向かった』事を伝え、この事を他の使用人達にも伝達せよ」と指示する。
「このことが二人にも伝われば、じきに学院の方へ戻ってくると思います。なので無闇に探すより、ぼくたちは一旦学院へ戻りましょう」
「うん、わかったわ」
心配して、探してくれてありがとう……。
私は、誰にも聞こえないように小さく呟いたのだった。
学院に向けて暫く歩いていると、後ろから呼びかけてくる声が聞こえた。振り向くとテオドルフとヴィルノーが駆け寄ってくる。
「マルストンの使用人から聞いてな、学院に向かってたらヴィルノーとばったり会ってよ。一緒に帰ってたら、お前達の後ろ姿が見えて……」
「おい、なんで何も言わずいきなり走り出す!?卿はいつもそうだっ!……あっ、アルメリー嬢!あなたがご無事で何よりです。マルストン、君もお手柄だった!」
「俺ら、街中探したんだぜ?」
そう言いながらテオドルフが笑顔で髪の毛をわしゃわしゃしてくる。
「心配をお掛けてしまい、申し訳ありません」
「皆様方、わざわざお嬢様を探して頂いたこと、誠に感謝致します」
「リザベルト嬢はじめ、皆が心配しておりました。街へ出るなら出ると、事前に一言でも言伝があれば……」
「ま、無事に見つかったからいいって事よ!」
などとお互い礼を交わしたり、無事を祝いながら祭りの喧噪に包まれて学院への帰路につく。
学院に戻ると、校門前でフェルロッテやリザベルトが心配そうに待っていた。
「兄貴達は?」
「ランセリア様……が、会長を……大講堂へ……」
「彼女が『長いこと不在にして皆を心配させてはいけないわ』と、あなた達の姿を見送った後、すぐに二人で大講堂へ戻ったわ」
「……そうですか」
と、やや不満そうなヴィルノー。
「じゃ、みんな無事に学院に戻ってきたことだし……」
「早速、大講堂でダンスなどいかかですか?アルメリー嬢」
「てんめぇ!?俺が先に誘おうと……!」
「卿にはすぐそこにお相手がいるのでは?」
ヴィルノーがテオドルフをからかう。
私は悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「ふふっ。実はもう先約があるの。また後でね!」
マルストンの手を取り、練兵場へ駆け出す。それを見たアンは溜息と共に片手で顔を覆う。
練兵場の精霊像はもはや原型を留めていなかったが、炭と化し塊となった木材がいまだゆっくりと燃え続けている。
流れている曲のタイミングを見計らって踊りの輪に参加する。
一曲踊りきるとパートナーを交代するのが自然と暗黙のルールになっていたらしい。他の男子と踊るつもりは無かったので別れ際にマルストンの額に軽く口づけをする。
「今日はありがとう。あなたの頼もしい一面が見れて良かったわ!これからもよろしくね」
「は、はい!こちらこそ頑張ります!!」
彼へ手を振り、踊りの輪から離れる。去り際に見た次のパートナー予定だった男子が、本当に悔しかったのか駄々っ子のような動作を繰り返しているのが少し面白かった。
その後、練兵場を離れて大講堂の方へ向かう。捜してくれたお礼を兼ねてテオドルフ、ヴィルノーの二人と踊ったあと、休憩中に皆からアルベールも当初捜索に加わるつもりだったと聞き、それならば感謝の意を表したいと婚約者であるランセリアに許可を貰い、アルベールとも一曲踊った。
休憩に戻ってからも、遠巻きに見てる人や視線は何となく感じるのだけど、他の令嬢の手前、声を掛けてくるような人は居なかった。
準備委員として真面目に頑張ったお陰で、学院内で周囲の令嬢達の反応が大分和らいだとはいえ、向こうから絡んでくる以外で私がまともに会話を交わせるのは、未だにサロンの方々と生徒会の方々、準備委員の皆さんぐらい。
準備委員会は今日で活動を終了したので、週明けから委員の皆や生徒会の皆さんとは関われなくなる。廊下ですれ違う時ぐらいは挨拶程度できるだろうけど……。
そうなると今までに比べたら暇になるし、クラスメイトとの関係改善を目指してもいいかもしれない。なんとかできればいいのだけど……。
あまり深刻に悩んでも仕方が無いと思い直し、後夜祭を楽しむ事にした。他の令嬢達と違い、私自身は誘われる事が無いから、フロアの中央で優雅に舞う他の人達のダンスを見ながらゆっくり休憩ができる。
リザベルトやフェルロッテはダンスにちょくちょく誘われる。セドリックも令嬢達から誘いがあれば応じてダンスをこなしている。婚約者に対しては「我関せず」という態度を示している。既にもう踊ったのか、無礼講だから特に気にしていないのかわからないけど。
彼女達が休憩に戻ってきた際には、この二ヶ月間の思い出話をお喋りして楽しむ。
話のネタが尽きてきた頃、正直眠たくなってきていたので彼女達に言伝をして寮へ戻る事にした。
深夜になっても大講堂の舞踏会は続き、それぞれの夜が更けていったのだった。




