お姉様
リザベルトと一緒にお昼をとっていると、すごい勢いで誰かが近づいてきた。
「お姉様ぁ~!絶対ここにいると思いましたぁ!」
まぁ、ほとんどの生徒はお昼にここにくるわよね。……というか、ここ以外どこに行くというのかしら?
彼女はマシンガンのごとく、矢継ぎ早にまくし立てる。
「ここ空いてますよね?」「お昼一緒にいいですか?いいですよね!?」「隣おじゃましまーす!」
「え、えーと……?」
と言うなり、答える間もなく強引に隣に座ってくる。
リザベルトを見つめ、目で助けを求める。
「先ほど……あなたが……助けた子じゃ……なぃ?」
「あ、さっきのあの子!」
「はい、そうです!先ほどは本当にありがとうございました!」
そう言いながら彼女は、私の手を自身の両手で包み込む。
色白ですべすべしてる……という彼女の呟きが聞こえた気がしたが、この際、華麗にスルーした。
「改めて自己紹介させて下さい。私、ティアネット・ガエル・フェルネと申します!私の家はガエル家という騎士の家柄みたいで……」
「みたい、というのは……?」
「私、トラックにはねられて意識を失い、気がついたら騎士の家の娘になってて……」
「トラック!?」
「あの……トラック……って、なに……?」
しまった……。つい反応してしまったわ。ティアネットの目が輝いている。リザベルトの方は初めて聞いた単語に困惑しているみたいだわ。ここは話題を変えてうまく誤魔化しておこう……。
「私はキャメリア男爵家の娘、アルメリー・キャメリア・ベルフォールよ」
彼女ともっと突っ込んだ話をしたいところだけど、向こうの世界の事をだらだら垂れ流されたら、折角こっちの世界に順応してボロを出さずにここまでこれた私の努力が!
下手に反応したら私まで周りからおかしい目で見られてしまう事になるわ。
できるだけ早く何とかしないと……。それにリザベルトに聞かれない所で色々と口止めしておくべきよね……。
「あ!やっぱり男爵家のご令嬢だったのですね!設定と同じだわ!」
「設定……?って……なに?」
やばい、リザベルトが興味を示し始めたわ。今は一刻も早く彼女を黙らせるしか無い。
ティアネットの耳元に顔を寄せて囁く。
「こういう公共の場所ではあまりあの話はしない方がいいと思うの……。あなただってそれが原因でいじめられてるわけでしょう?」
「……」
「後でちゃんと聞いてあげるから……そうね、よかったら放課後どこかで話しましょう?」
「では、学院図書館で……最近良く行っているんです。そこに来てください」
多分わかって貰えたと思い、姿勢を戻し普通に話しかける。
「分かったわ。私もあなたに聞きたい事があるし……」
「まぁ、お姉様も私に聞きたい事が!?」
「あと、あなたと私は同じ下級生でしょう?お姉様呼びは止めて欲しいわ?」
「あっ……公の場で『お姉様』と呼ぶのを……?う~……。分かりました。では周りに人がいない時にだけにします。あっ……!その方が親密な感じがしていいですもんね!?」
「それも止めてほしいのだけど……?」
笑顔で華麗にスルーする彼女。
私は引きつった笑顔を浮かべながらやんわりと断るが、全く意に介さない。
「うふふふふ……」
「あはははは!」
お互い顔を限界まで近づけて片方はヒロイン顔にあるまじき凄みのある笑顔を浮かべ、もう一人は心底楽しそうに微笑んでいる。
リザベルトはそんな二人を見て困ったようにオロオロしているのだった……。
放課後、リザベルトには先に帰って貰った。
彼女は当初、難色を示したが、なだめすかしてなんとか今日は我慢して貰った。
彼女に隠し事をするのは心苦しいが、これは当事者の私でも理解できてないことだし、きっと混乱させてしまう。理解しようとして変な妄執にとらわれるような事になっても嫌だし。
リザベルトにはそのままでいて欲しい……というのは私のエゴかしら?いえ、きっとこれででいいのよ……。
学院図書館に入ると、すでにティアネットが受付近くのテーブルに着いていた。
「あっ!おねぇ……アルメリー様、ちゃんと来てくれたんですね!嬉しい!」
「あなたと約束したからね。私も聞きたい事があったし……」
「ここでは何ですし、二階の方へ行きませんか?私、そこにいくつか個室スペースがあるの知ってるんです。結構頑丈な作りっぽいので話し声もあんまり漏れないと思います。だから内密な話をするにはいいんじゃないかな?と……」
「そうね、それがいいかしら……?」
案内をするため踵を返す彼女の口角が、一瞬上がったような気がして鳥肌が立ったが、とにかく話をしてみない事には何も前に進まない。おとなしく彼女について行く。
二階の奥、壁際に部屋が並んでいた。どの部屋も同じような作りで、使われていない部屋の入口の扉は開け放たれていて中の様子が見える。中は作り付けの棚と大きめな机、机の両脇に椅子がそれぞれ二脚づつ配置されている。
「……」
「……」
適当に選んだ部屋に入るが、お互い遠慮して二人とも沈黙してしまう。
「とりあえず座りましょうか?ね?」
「あ、はい、そーですね!?」
私が席に着くのを見届けてから、彼女は部屋のドアを閉め、おもむろに私の向かい……ではなく隣に座ってきた。さらに椅子ごと体を引き寄せ密着して耳元で囁いてくる。
「……もしかしたら他の方に聞かれるとまずい内容だったりするかもしれませんから、声を落として話す必要があるかも。だから隣の方がなにかと都合がいいですよね?」
吐息が耳に当たりくすぐったい。近い、近い、近い……!
さっき彼女が見せた一瞬表情、これは気のせいじゃなかったみたいね……。
「で、では聞かせて貰えるかしら?あの話のこと」
「あ、『夢色の遥か -Alone with youー』のお話ですね?」
「どこから話したものですかね……むむむ。私、2週間ほど前に頭を強く打ったらしいんです。そうしたらこれ前世の記憶なんですかね?もう前世の記憶って言っちゃいますけど。それを思い出したみたいで……。トラックに轢かれる所が強烈にフラッシュバックして。もう、一気に前世の記憶や何かがどんどん溢れ出してくる感じで。頭痛と知恵熱っていうんですかね、あれ。それで三日程、寝込んじゃいましたよ。もちろん生まれてからの記憶はちゃんとありますよ?」
……どおりでこの二ヶ月の間、彼女の存在が分からなかったわけだわ。……それにしても同じような体験だけど私の場合とはちょっと違うのね?、この体のエピソード記憶は全く思い出せないんだけど。何が違うのかしら……?
「私は前世ではその手のゲームがとても好きでかなりやり込みました。ゲームってわかります?私前世では高校1年生で、部活とかには入って無くて……。学校から帰ったら結構ずっとやってて。特にこのゲームが好きだったんですよ!親は共働きで毎日遅くまで帰ってこなかったんで、割と時間は自由に出来てたんですよね~。あ、高校というのは同年代の子と一緒に勉強したり集団行動や協調性を学ぶ所で、この学院みたいな感じ……と言ったら分かって貰えます?それで、そのゲームは中世ファンタジー……この世界みたいな感じの剣と魔法の世界の学園物で、自分もそこの生徒の一人という設定で、生徒会の皆様似のキャラクター達を、自分が主人公になって恋に墜としていく内容なんですよー!基本は意中のキャラと親密になるために頻繁に学園内を探しまわって会いに行ったり、慎重に会話を選択しながら進めつつ、育成要素もあって、ある程度の能力のパラメーターを上げておかないと出てこない会話の選択肢があったりして……あ、何種類もエンディングがあるマルチエンディングで~!普通にプレイしてるだけじゃ、誰とも恋仲になれないまま学院を卒業するエンドもあったりするんですよー。で、こっちの世界で私がほんとびっくりしたのはゲームのキャラと顔も名前もほぼそのままじゃないですか!それに、なんと主人公、名前がアルメリーと言って顔もお姉様そっくりなんですよ?すごくないですか!?」
「そんな一気にマシンガンの様に喋られても理解が追いつかないわ……!」
「いま、なんて言いました?」
「……理解が追いつかないわ……?」
「その前です。……この見るからに『剣と魔法』の世界で?銃とか、生まれてから今まで、この世界でまったく見た事無いですよ?飛び道具、あるとしても弓ぐらいでしょ?」
いまの今まで慎重にやって来ていたのに、つい釣られてやってしまった……!
「……」
「……私が前世で高校までの知識しか無くても『マシンガン』ぐらいは知ってますよ?
今、確かに言いましたよね!?お昼も『トラック』に反応してましたし!」
両肩を掴まれ、詰め寄られる。
「あ、い……今のは……」
彼女は一瞬何か閃いたような表情になり口角をあげる。
「あらあらあら……もしかしてこれはお姉様にも、とんだ秘密があったものですね……?ウフフフ……」
ここで舐められてはいけない!
「ええほんとに。こんな珍しい体験を経験したのが、私以外にいるなんて思いもしなかったわ。まぁ、お互い前世の記憶持ち同士と分かってしまったわけだし、腹を割って話さない?」
「……そういえばお昼の時間に聞きたい事があるって言ってましたね、お姉様ったら自分だけ素性を隠したまま私に何を聞こうとしてたのかしら……?クスクス」
彼女はそのかわいい童顔にとても嫌らしい笑みを浮かべてこちらの反応を伺っている。
はあぁ……。これは一筋縄ではいきそうにないわね……。




