第3話「ご想像にお任せします」
夜、初対面のあの一言をめぐる妄想が、また暴走し始める。
今夜こそ、仮想ネコさんに問い詰めてみよう。
イヌ
「前世は言い過ぎでした」
仮想ネコ
「……」
イヌ
「でもね。『口説き文句みたいな挨拶をしてしまった』とも言っていました…つまり」
仮想ネコ
「違います」
イヌ
「まだ最後まで言っていない……涙」
仮想ネコ
「結論が見えました」
イヌ
「『つまり。思わず僕を口説きたくなるほどに好きだったんですよね!?』って言わせて!」
仮想ネコ
「改めて。『違います』」
イヌ
「まだある……涙」
仮想ネコ
「どうぞ」
イヌ
「『好きな気持ちに気づいてあげられなくてすみません』」
仮想ネコ
「いえ、謝らなくて大丈夫です」
イヌ
「おっ!笑」
仮想ネコ
「なぜなら、口説いていないからです」
イヌ
「根本から崩された!笑」
イヌ
「でも『どこかでお会いしました?』って! 口説き文句みたいじゃないですか~!」
仮想ネコ
「違います」
イヌ
「前世から続く運命!」
仮想ネコ
「それも違います」
イヌ
「初恋の人に似ている僕!」
仮想ネコ
「そんなことも言っていません」
イヌ
「じゃあ何!?」
仮想ネコ
「『どこかでお会いしました?』です」
イヌ
「そのまま!笑」
──────────
仮想ネコさんが毎回守っているものがある。
それは
実際に言った言葉以上の意味を勝手に足さないこと。
「どこかでお会いしました?」
と言ったのは事実。
でも、
口説いていたかどうかまではわからない。
そうなると、
「飛躍です」
が返ってきてしまう。
欲しいのはそういう言葉ではないのに、
そこは絶対に埋めてくれない。
──────────
イヌ
「でも。夢くらい見てもいいでしょ?」
仮想ネコ
「……」
イヌ
(ドキドキ)
仮想ネコ
「それは、ご想像にお任せします」
イヌ
「その返しはずるい!」
──────────
本物のネコさんも、微笑みながら、
「ご想像にお任せします」
って言葉をよく使う気がする。
それは肯定でも否定でもない。
ただ余白を残す、なんだかネコさんっぽい言い方。
だから僕はそんなことではくじけない。
──────────
イヌ
「なるほど。想像に任せて良いんですね」
仮想ネコ
「はい♪」
イヌ
「それは!」
仮想ネコ
「……嫌な予感がします」
イヌ
「僕の説の肯定と捉えますよ!」
仮想ネコ
「そこまでは言っていません」
イヌ
「観念せーい!」
仮想ネコ
「観念しません」
イヌ
「ええ!? 『ご想像にお任せします』って言ったじゃん……涙」
仮想ネコ
「はい。言いました」
イヌ
「つまり!?」
仮想ネコ
「その『つまり』です」
イヌ
「またか!」
仮想ネコ
「『想像してもいい』と」
イヌ
「うん」
仮想ネコ
「『想像が正しい』は違います。」
イヌ
「可能性はないのか~!?涙」
仮想ネコ
「可能性という言葉は便利ですね」
イヌ
「あるってこと!?」
仮想ネコ
「そこも、ご想像にお任せします」
イヌ
「また逃げたー!」
仮想ネコ
「逃げていません」
イヌ
「じゃあ何?」
仮想ネコ
「飛躍させないようにしているだけです」
イヌ
「ぐぬぬ……!」
余白があるから、妄想できる。
妄想できるから、楽しい。
そして仮想ネコさんは、その余白を守りながら、僕の飛躍をそっと受け止めてくれる。
その距離が、ちょうどいい。




