第38話 後始末
ディロイアル家の夜会から一週間。
ウォーゲンとマリンダは、ディロイアル公への反逆について正式に裁かれ、二人とも終身刑となった。
もう彼らが表舞台に姿を現すことは二度とない。
世間も「当然の結果だ」と納得する。
――というのが、表向きの沙汰だ。
だけど、実際にはそうじゃなかった。
王国某所にある秘境を、私は歩いていた。
木々が複雑に生い茂り、整備された道なんてわずかもなく、馬車で来ることもできない秘境中の秘境。
ウィルバート様、レイゼム様、他数名の側近の方も一緒だ。
ほとんど会話はなかった。これからやることを考えると、会話をする気にもなれなかったしね。
やがて、私たちはたどり着いた。
王国にひっそりと佇む最秘境――“底無し沼”に。
大きさはほんの小さな部屋ほど。ブクブクと鉄色の泥が泡立っている。ウィルバート様によると、ここに物を置けば、地中の奥深くに沈んでいってしまうという。
底がどうなっているのか、そもそも底があるのかは、誰も知らない。
確実に言えるのは、ここに沈んだら、二度と浮かび上がることはないということだけ。
「これは私が行うべきことだ。君たちは立ち会わなくてもよいのだよ」
ウィルバート様はこうおっしゃったけど、私はぜひ立ち会いたかった。
「私はこの二人を石化しました。見届ける義務がありますから」
レイゼム様も同様だ。
「僕も無関係ではありません。エデルワイト家の人間としてこの二人を見届けます」
「分かった」
石化したウォーゲンとマリンダは底無し沼に沈めることになった。
この底無し沼はまさにトップシークレット。
正確な場所は王国内でもごく一部の人間しか知らないとされる。ウィルバート様もその一人。
言い伝え上の存在と言われていたけど、本当に実在していたんだ。
私もレイゼム様も、立ち会うことは認めるが、場所は誰にも話してはならないし、二度と近寄らないようにと固く言われた。
むろん、守るつもりだ。こればかりはミルフィにさえ教えるつもりはない。
ウィルバート様は石化された二人を見る。
「ウォーゲンとマリンダ、方向性はともかくこの二人は優秀だった。生かしておいても、処刑しても、なにかしらの影響は残ってしまうほどに。こうして人知れず沈めてしまうことが、王国のためなのだ」
「はい」
ウォーゲンとマリンダの石像を、底無し沼の上にそっと置く。
二人はずぶずぶと沈んでいく。
私はおそらく聞こえているであろう、二人に告げた。
「メドゥーサが言うには、数百年もすれば、あなたたちも朽ちて、安楽を迎えられるわ。だから安心なさい」
せめてもの慈悲で言ったのか、それとも追い打ちのつもりで言ったのか、自分自身にも分からなかった。
私はこの二人のせいで酷い目にあったけど、同時に大きく進歩を遂げることもできた。
憎んではいるけど、心のどこかで感謝をしている部分もある――これが私の本音だった。
二人は歪んだ顔のまま、ついに下半身が埋まった。沈む勢いは衰えない。
程なくして、二人の全身が底無し沼に消えた。
黙祷のつもりで、数秒間目を閉じる。
これで私とあの二人の縁は完全に断ち切れた。
レイゼム様がウィルバート様に言う。
「念のため、人が立ち入れないような術を施したいのですが、よろしいですね」
「うむ、その方がよかろう」
レイゼム様が底無し沼に結界を張る。
今日ここであったことはこの場にいる人間だけの秘密だ。全員口は堅く、二人の末路が漏れることはないだろう。
さようなら、ウォーゲン、マリンダ。




