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石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


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第35話 シュラト・ステイク

 ミルフィから話を聞いた。

 私やレイゼム様の助けがあったとはいえ、ミルフィがたった一人で黒刃隊相手に優勢に戦ったのには驚いてしまった。レイゼム様も目を丸くしていた。


 ただし、隊長のシュラト相手には危ういところだったけど、シュラトは降参してしまったという。

 レイゼム様に問いただしてもらうという形で、今度はシュラトから話を聞くことにする。


「元々我々はこの任務に対しては否定的だった。とはいえ、命令は命令。全力で戦った。そこのミルフィーネ嬢の名誉のために明言しておく」


 シュラトはこの戦いに乗り気ではなかったようだ。

 かといってミルフィ相手に手を抜くこともしなかったという。

 モチベーションは最低レベルだったというのは察しがつくけどね。


「しかし、これ以上は戦えん。ミルフィーネ嬢には言ったが、どうか俺の命はここで絶って欲しい。それぐらいしか俺には詫びる方法が思いつかん」


 ようするに殺してくれということだ。

 私もミルフィもどうしていいか分からず、立ち尽くすしかない。

 レイゼム様が動いた。


「シュラト・ステイク」


 レイゼム様が地面に魔法を放った。

 そこには小さいが、確かな殺意を感じられる穴が開いた。

 思わず唾を飲み込んでしまう。


「お前はウォーゲンの人間性を知りながら、奴に従っていたということだな」


「そうだ」


「お前が命令をまっとうすれば、ここにいるセルフィス、ミルフィーネ、僕の三名は死んでいた。間違いないな」


「ああ、間違いない」


「僕たちを殺しに来たということは自身が殺される事態も想定しているはずだな」


「もちろんだ」


 二人の問答には全く淀みがない。

 あまりの緊張感に、私もミルフィもとても口を挟めない。


「僕は、自分や彼女らの生命を脅かしたお前たちをとても許すことはできない。そこまでお人好しではないからな」


 レイゼム様は掌をシュラトに向けた。


「僕が今からお前を殺しても文句はないな」


「ない」


 レイゼム様の迫力は恐ろしかった。

 私やミルフィの命を脅かしたシュラトに対し、本気の怒りを抱いているのが分かる。

 今からレイゼム様が人を殺すシーンを見てしまうのか。私の鼓動がどんどん早まる。

 見たくないのであれば止めるべきなのかもしれない。でも、止められなかった。今のレイゼム様には、私はもちろん、ミルフィも、この世の誰も敵わないんじゃないかとすら思えた。


 レイゼム様が掌の魔力を高める。

 シュラトは観念している。

 私とミルフィはただ見つめている。


 ……ところが。


「シュラト・ステイク。ここでお前を殺すのは簡単だ。だが、そんなことでは僕の気は晴れない」


「……なんだと?」


「傭兵の世界では、主人替えをするのは最も恥ずべき行為とされている。僕はお前に恥を与えたい」


 シュラトはきょとんとしている。


「今後、お前はエデルワイト家――いや、僕に仕えろ。そうすれば、ここで殺すのはやめにしよう」


 そう来たか、と私は思ってしまった。

 いくら敵対していたとはいえ、これほどの使い手、置けるものなら手元に置いておいた方がいいに決まってる。


「ずいぶん甘いんだな。俺に寝首をかかれたらどうする」


「僕を挑発して、自分を殺させようというならそちらの方が甘い。それにお前がもしそんな男だったら、今頃僕もセルフィスもミルフィーネもこの世にはいないだろう」


 シュラトが眉をひそめる。


「もちろん、真に死を望むならそれもいい。望みどおりにしてやる。だが、ウォーゲンに仕えるのはお前も本意ではなかったはず。だったら生き恥を晒してでも、生きるべきじゃないのか?」


 シュラトは迷っている。

 これまでは口を挟まなかったけど、私は彼の心を押すべきだと感じた。


「私もあなたは死ぬべきではないと思います。それに、私はこれからウォーゲンと最後の対決に臨みます。その時、あなたが味方についていれば、とても心強いですから。ねえ、ミルフィ?」


 ミルフィに話を振る。


「う、うん! この人、すごく強かったし! それに、私は本当だったら負けてたし……リベンジの機会、ください! 勝ち逃げはずるいと思う!」


 ミルフィの場違いともいえる明るい言葉が救いになった。


「四人中三人はお前の死を望んでいない。多数決の原理なら、お前は死ぬべきではない。さあ、どうする。罪を悔いて生きて恥をかくか、さっさと死んで罪から逃げるのか。選べ」


 レイゼム様の言い方も上手い。これではますますシュラトは死ねなくなった。

 シュラトは答える。


「あなた方に……従おう」


 私とミルフィは目を見合わせた。

 ミルフィの瞳には明らかな喜びが浮かんでいたし、私もきっとそうだったと思う。


「じゃあさっそく、君に命令をしよう。ウォーゲンの今後の予定を教えてくれないか」


「ウォーゲンは……一週間後に自宅屋敷で公爵位を継ぐ儀式を盛大に行う。婚約者と一緒にな」


 婚約者――もちろん、マリンダのことだろう。


「分かった。それではシュラト、君は僕たちとともにエデルワイト領まで来てくれ。部下たちは申し訳ないが、もうしばらくこのモアナ湖周辺で待機していて欲しい。黒刃隊が丸ごと動けば、ウォーゲンになにかあったと悟られる恐れがある」


「承知した」


 行きは三人だったけど、帰りは五人になった。

 馬車の前の席には私とレイゼム様、後部座席にはミルフィ、シュラト、石化されているウィルバート様を乗せる。石化の解除は念のため、エデルワイト家の領地に入ってから行う。

 湖からは怪魚ネーヴィスが顔を出し、私たちを見送ってくれている。私は軽く手を振って返した。

 モアナ湖の平穏を保たれているのは、彼のおかげでもある。これからもその平和を守ってね、ネーヴィス。


 さあ、いよいよ反撃の時だ。首を洗って待っていてね、ウォーゲン、マリンダ!

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