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石化する眼を持つ令嬢は婚約者に嵌められる ~私を罪人にした報いは石像にしてお返しします~  作者: エタメタノール


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第23話 石化令嬢と魔法使いのデート

 朝食後の別邸にて、私はドレス選びに悩んでいた。

 クローゼットにはルトゥーラ家の使用人が家から持ってきてくれたドレスの数々が並んでいる。


「うーん、どれにしよう……」


 ミルフィがそんな私に呆れたように言う。


「お姉様も悩むね~、私ならすぐ決めちゃうけど」


「あなたの即断即決ぶりが羨ましいわ」


 私のためならいびりもやるし、男の子と交際もする。

 自分の身を守れるようになりたいと決めたら、武僧(モンク)の先生に弟子入りする。

 私を助けたいと思ったら、我が身一つで罪人の塔までやってくる。

 ミルフィの行動力は本当にすごい。

 石化能力も、ミルフィが持っていれば、もっと生かせたのかもなんて思ってしまう。


「ミルフィはどういうのがいいと思う?」


「お姉様はやっぱり白が似合うと思う!」


 白か……確かに白のドレスは好きだけど……。

 ミルフィのアドバイスを採用することにした。


 白のロングドレス、私のお気に入りだ。靴も白に揃える。


「じゃあ、行ってきます」


「行ってらっしゃーい! 帰りは遅くてもいいからねー!」


「……もう」


 本邸と別邸のちょうど中間地点にある大樹の前で待ち合わせた。

 レイゼム様は先に来ていた。

 白シャツに紺色のベストを着て、黒のスラックスを履いている。


「すみません、お待たせしました」


「いや、全然待ってないよ」


「本当ですか?」


「むしろ、まだ心の準備ができてないというか……。緊張しちゃって」


「レイゼム様ったら」


 まあ、私もなんだけどね。昨晩はなかなか寝つくことができなかった。

 ただし、目覚めはよかった。ちっとも眠気はない。体ってよくできてるなぁ、なんて思ってしまう。


「じゃあ、行こうか」


「はい」


 エデルワイト家所有の馬車に乗る。

 色々話したいことはあるのだけど、遠慮してしまって、あまり言葉が出てこない。

 おそらくレイゼム様もそうなのだろう。


 着いたのはシュベールという町だった。

 エデルワイト家の領でも大きい方の町だとのこと。


「ここなら遊ぶ場所には困らないよ」


「ええ、とても活気がありますね」


 二人で歩いていると、街の人たちの視線が向けられる。


「おおっ、レイゼム様だ」

「ご立派になられた……」

「今に素晴らしい領主になられるだろう」


 図書館でもそうだったけど、レイゼム様は領内でもやはり人気が高い。

 なんだか私まで嬉しくなってしまう。


「レイゼム様、大人気ですね」


「この町ではよく遊んだからなぁ。恥ずかしい思い出もいっぱいさ」


「いずれ、その思い出も教えていただきたいですね」


「参ったな……」


 レイゼム様は顎を指でポリポリとかいた。

 すると、私にも――


「あちらの方もお綺麗だ」

「ひょっとして婚約者?」

「素晴らしいツーショットだわ」


 レイゼム様が笑いかけてくる。


「婚約者だって」


「……困ってしまいますね」


「僕としては全く困らないけどね」


「からかわないでください」


 他愛ない会話をしていると、市場(いちば)に着いた。

 「いらっしゃい」「寄ってって」「安いよ」といった声があちこちで乱舞する。


 ある露店からいい匂いがした。

 店主が大きな鉄板でミートボールを焼いている。

 肉の球を転がすパフォーマンスもしており、なんとも食欲をそそる。

 私が眺めていると、レイゼム様が察してくれた。


「美味しそうだね。あれ、食べてみようか」


「は、はい!」


 紙に包まれたミートボールをレイゼム様が持ってきて、小さな串に刺して、頬張る。

 噛むと、口の中にジューシィな味と肉汁が広がる。ちょっと熱いけど。


「はふっ……。うん、おいひい、美味しいです」


「よぉし、僕も」


 レイゼム様がミートボールを口に入れる。


「うん、ほふ、ほふ、美味しい」


 二人ではふほふ言いながら、ミートボールの味を楽しむ。

 他にもさまざまな食べ物の露店があり、私たちはつい食べ歩きをしてしまった。

 今さらながら、自分の食べっぷりに驚く。


「朝食はきちんと食べたんですけどね」


「この町に来ると僕もついつい食べすぎちゃうから仕方ないよ」


 昼食はお洒落なカフェに入る。

 すでに結構食べたので、お昼は軽め。サラダとコッペパンを注文する。

 これも美味しく、私はぺろりと平らげてしまった。今まで意識したことがなかったけど、私って結構食いしん坊なのかもしれない。

 食後にはミルクティーを飲んで一息つく。レイゼム様はコーヒーを嗜んでいた。


「あの別邸にも慣れたかい?」


「はい、それはもう。使用人の方たちもとてもよくしてくれて……」


「彼らに聞いたら君もミルフィーネも優しくて綺麗だからお世話しがいがある、なんて言ってたよ」


「ホントですか?」


「ウチの使用人たちはお世辞は言わないよ。僕も魔法で家を汚した時、本気で怒られたことあるし」


「その光景、ちょっと見たかったですね」


 今の私は客人ではあるけど、行き場所がない居候のような身でもある。

 エデルワイト家に仕える人たちによく思われているのなら、少しホッとする。


 カフェを出て、私たちは再びシュベールの町を楽しむ。

 輪投げの露店があり、掌ほどの輪っかを投げて、いくつかある棒の中に入れば、それに応じた商品を貰えるという。


「これ、僕は得意なんだよね。それっ!」


 レイゼム様は見事、ある棒に輪を入れてみせた。

 商品は木彫りの人形だった。


「これ、プレゼント」


「わっ、ありがとうございます!」


 さらには吟遊詩人が路上でギターを奏でていた。本当に色んな人がいる。

 歌詞から察するに、片想いの男性がテーマの歌だった。

 私はレイゼム様を思い浮かべてしまい、レイゼム様も自分を連想したようで、どこか気まずいムードに。

 しかし、歌声は綺麗で、つい聞き惚れてしまう。

 五分ほどして、歌は終わった。男性の想いが実るかどうかは分からないという終わり方だった。

 レイゼム様がささやく。


「いい歌だったね」


「ええ、胸にじんと染み渡るようでした」


 見ると、レイゼム様は歌についてどうコメントすべきか迷っているようだ。

 私はあえて言った。


「歌の中にいた彼、幸せになれるといいですね」


 レイゼム様は一瞬目を見開き、こう返してくれた。


「うん……そうだね。幸せになって欲しい」


 シュベールの町外れには大きい池があり、私たちは二人でボートに乗った。

 木製の細いボートに向き合って座り、レイゼム様がオールを漕いでくれる。


「領内にはこんな池もあるんですね」


「うん、ここで釣りをしたこともあるよ」


「釣れました?」


 レイゼム様は首を横に振る。


「全然釣れなくて、魔法の方がよっぽど簡単だなんてぼやいてたよ」


「レイゼム様にしか言えない台詞ですね、それ」


 釣竿を持って苦い顔をする小さなレイゼム様を想像すると微笑ましい。

 不意に強い風が吹き、ボートが揺れた。


「おっと」


 レイゼム様がボートを立て直す。


「危ない、危ない。転覆したら大変だ」


「大丈夫ですよ。そうしたら泳げばいいんですから」


「二人で泳ぐってのも悪くないね」


 池の真ん中で笑い合う。


「ただ……この国には落ちたら最後の“底無し沼”というのもあるらしいよ」


「底無し沼?」


「文字通り、底のない沼。あまりに危険で便利だから、場所はごく一部の人間しか知らない。もちろん僕も知らない」


「危険なのは分かりますけど、便利というのは?」


「たとえば、誰にも発見されたくない物を捨てる時、これほど便利な場所もないだろ?」


 確かにいくらでも悪用できてしまいそうだ。私の石化のように。


「メドゥーサのことといい、この国には色々な伝説がありますね」


「うん……きっと僕たちが知っている王国のことなんて、まだまだ氷山の一角に過ぎないんだろうさ」


 陸に上がると、レイゼム様が言った。


「とっておきの場所があるんだ。よかったら来ない?」


 池のあったところからさらに町を離れると、広い花畑があった。

 色とりどりの花が、美しく咲き乱れている。自然と顔に笑みがこぼれてしまう。


「わぁ、綺麗!」


「意外と穴場なんだよ。ここは」


 私が花に見とれていると、レイゼム様が――


「実はね、僕は最近水を操る魔法に凝ってるんだけど、その時にこんな魔法を開発できたんだ」


「え?」


「それっ!」


 レイゼム様が右腕を振ると、花畑の上空に綺麗な虹ができた。


「わぁっ……」


「空気中の水分を操って、日光に上手く当てて、虹を作ったんだ」


「綺麗……」


「喜んでもらえたかな?」


「それはもう!」


 こんなに綺麗な虹を見せてもらえて、心がときめかないわけがない。最高のプレゼントだった。

 程なくして、日没が迫る。名残惜しいけど、別れの時が来た。シュベールの町を出て、別邸近くで挨拶をする。


「今日は楽しかったです」


「僕もだよ」


「それじゃあ、また」


「うん、また」


 努めて冷静に別れたけど、心臓は高鳴っていた。

 「また」を早くも楽しみにしてしまっている自分がいる。レイゼム様もきっとそうだと信じたい。

 別邸に戻った後、ミルフィに聞かれる。


「お姉様、デートはどうだった?」


 私は謙遜することなく答える。


「最高だったわ」


「いいなぁ~!」


「ミルフィも来ればよかったのに」


 ミルフィは肩をすくめる。


「このミルフィーネ・ルトゥーラ、そんな野暮なことはいたしませんよ。お姉様」


「なんなの、その口調は」


 私は呆れてしまう。


「でも、明日からはまた石化の訓練を頑張らないとね。まだまだ使いこなせているとは言えないから」


「うん。頑張ってね、お姉様! 私もできることがあったら手伝うから!」


「ええ、ありがとう」


 今日は本当に楽しかった。

 ベッドに入った後もデートのことを思い出してしまい、なかなか寝つけなかった。

 このままじゃ明日も睡眠不足になってしまう……。だけど、そんなことを悩める自分に幸せを感じていた。

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誰にも発見されたくない物を捨てる > まさか…………石化した誰かを沈めておく、とか?
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